第二十話 何者でもない者の挽歌Ⅵ
「ふぅ...結局今日も均衡ってとこか」
「まぁいい。今日は撤収するぞ」
「...シルベニアさん」
「...あぁ、なんだ。お前まだいたのか」
「んで、まだ何かあるのか?」
「...こうでした」
「...はぁ?」
「さっきの、最高でした。マジでぶっ飛んでましたッ」
「シルベニアさんにお聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか」
僕は彼女に頭を下げた。
日本人のサラリーマンがやるみたいに、深く。
「(...こいつ。態度が変わったな)」
「(やっぱり私の凄さ見せつけ作戦は大成功って訳だ)」
「言ってみろ。少しはいい答えを聞けるかもしれないぞ」
「はい。では...」
「_______僕にクロズコップの所在を教えてください」
「...ッ」
「てめぇ...やっぱサツの仲間だったか」
ジャキッ
「どうも臭いと思ってた。言ってみろ。奴の所在を知ってどうするかを」
「あれは私のだから、答え次第によっては今ここでお前を殺さなければならない」
「...」
「僕はさっき教会で、大切な人と約束を守るためこの活動を行ってると言いました」
「その大切な人が...彼女なんです」
「僕は彼女を追うために猫さんやあなたから情報を得てここまで来ました。なので...」
「お願いします。ぺズ姉さんの現在地を教えてください」
「彼女のためなら僕は...どうなっても構わない...ッ」
「...へぇ」
「いい根性だ。そういうのは嫌いじゃない」
「じゃあその覚悟が本物かどうか見せてもらおうか」
トス...
目の前に放り投げられたのは手のひらに収まる程の小さいナイフ。
これが何を意味してるのか、僕はすぐに理解した。
「好きな指を選べ。ぶっ刺すだけじゃダメだ」
「そして完全に切断しろ。麻酔は勿論ない。お前もわかってるんだろ?」
「もうここからは大人の世界だってことを。この世界じゃ」
「何かを得たいなら何かを失わなきゃならない」
「...」
「シルベニアさん...」
「▅▅▅あんまり人を舐めるもんじゃない▅▅▅」
スッ...スブッ、ブヂュゥギッ...ギヂッ_______
「ン"ブ...づぅ...ぁぐ...ぁあ"...ッッ!!!」
僕は小指の第2関節を選んだ。
「姉ざん...ねぇざ...ッ!!」
「ぐぞ...骨が...ッ...」
骨が...どうしても第2関節を断ち切れない。
この光景を見て奴はどう思ってるんだろうか。
きっと嘲笑ってるんだ。21のガキが甘ったれた気持ちでこんな世界に飛び込んできて。
馬鹿じゃねぇのって。
「...ふぅ...ふ...ッ」
「...ッ!」
▅▅▅ざけんじゃねぇぞ▅▅▅
___________バギッ
「...ぁ"ッ...」
僕は極限の痛みが脳に達した瞬間、気を失った。
...バタ...ッ
「...」
「(...おい...こいつ...自分の足で骨を踏み折りやがった)」
「(...イカれてんのか?たかだか人間一人の情報のために)」
「...」
彼女は転がったノイアーの右手小指を見つめた後拾う。
「...」
「....痺れるな」
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______ォォォ____オオン______ッ
「...っ」
...
なんだ...揺れてる。
車の中か...?
右手がズキズキ痛いのに...どうも澄み切った感じで、心が落ち着いている。
散々泣きまくった後、ぐっすり眠れた翌日みたいだ。
「...あぁ。起きたか」
「まずは水でも飲め」
「...」
「...シルベニアさん...」
「...なんで膝枕してんすか」
「...」
「ほら、ストロー刺してやるから飲め」
「...ん...ふ...」
「はぁ...」
「...」
「その大切な人とやらに命を張れるお前にご褒美をやる」
「これからぺズのいるパンコウまで車を走らせる。勿論現在地まで連れてってやるつもりだ」
「ただ...」
「...」
「...はい?」
「...今のあいつはお前の知ってるような姿じゃない。断言できる」
「それでもいいならこのまま目的地まで連れていくが、大丈夫か?」
「...」
「それは僕の望んだことです。この旅の終着点は」
「いずれにしろ彼女なんで」
「...」
「なぁ。お前ってよく弟属性って言われるだろ」
「...あんたが勝手に言ってるだけだろ」
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ズ...キキィ__________
「あ...着いたんですか」
「トイレ休憩。こっからあと30分はかかる」
「ほら、さっさと頭どけろ」
べっ
「い"っ....ガサツなんだよっ」
「はぁ...」
「...」
頭を上げて窓を見る。
そこは、夕陽に照らされた金色の草原地帯だった。
そしてそこに一人佇むコートを着た女、シルベニアの背中がひとつ小さな影を作っている光景。
さっきの喧騒が嘘みたいで、僕はカメラを持って車から降りた。
ザッ ザッ ザッ ザッ...
「動かないで、自然にしててください」
「ここにはあなた1人だけ。天国に来たって感じで、自然に」
彼女は黙って風に揺られていた。
彼女もまた風に揉まれる草原の一部のように。
...好きだ。この一つのシーンだけで多くの感動が生まれる瞬間が。
利害とか薄汚れたものを全てとっぱらわれたこの瞬間こそ純粋な芸術。
血の流した先にある僕への報酬に違いない。
「...もういいのか?」
シルベニアの金色の長髪が翻る。
「はい。ありがとうございました」
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ゴォ_______オア_________
再び車へ。
今度は静かな自然から倒壊した建物が並ぶパンコウの都市部へと入っていく。
天気も雲で隠れて薄暗い、不穏な雰囲気を感じた。
「...そうだ。あと10分で奴の所へ着く。その間面白い話をしてやろう」
「別に構いませんが...もう膝枕はいいでしょ」
「黙ってろ。殺されたいのか?」
「(...こいつやべー...)」
「ふふんっ」
そうして彼女はルンルンと話を展開する。
「ぺズと猫とで狩猟に行った時だ。ついこの間の話だが、これが最高でな」
「前日ベロベロまで酔っ払った上で、最後まで潰れなかった奴がランダムで山を購入し翌日そこで兎狩りをしようと誰かが言い出した。もう壊滅的で面白いんだが」
「私が結果的に酔いつぶれなかったから部下に無茶ぶり言って山を購入した。そう、適当にな」
「翌日、手早く始めるためにその購入した山に私達を移動させた上でライフル銃も置いて帰っていいと言って私は眠りについた」
「ふっ...そしたら一体どこで目覚めたと思う?私は顔面蒼白の猫に揺さぶられて霞んだ目を擦って目覚めた」
「すると...」
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「おい...!おい裁定者起きろにゃッ!お前ふざけんにゃッ!」
「お前どこの山買ってんだにゃ!こんな...こんな...ッ」
「ロシアまで来るとかお前正気かにゃッ!?」
「...」
「......ん.....?」
前まで2月だったから辺り一面雪だらけで、とても寒い。
そして背後を見るとロシアの旗が風に揺られていた。
「おぉ...」
「...すげぇ...ロシアだ...」
「馬鹿なのかにゃッ!?どうやって入国したんにゃ!?」
「お前まさかこれ不法入国じゃないだろにゃッ!?マジ!?マジで不法入国なのこれッ!?」
「さっさとドイツに帰せにゃッ!!こんな形でロシア人に銃殺されたくないにゃああああッ!!!!」
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「そしてぺズは凍りかけの小川にぶん投げられて横たわっていた。私の部下に嫌われてたのか知らないが」
「...くっ...あはははははっ!!」
「(ぜんっぜん笑えねぇわッ!!怖ッ!)」
キキ_______キ________
「お、どうやら着いてしまったみたいだ。はぁ...面白かった」
「さぁ、その氷漬けのぺズに会いに行くぞ」
「...」




