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第十九話 何者でもない者の挽歌Ⅴ






ピッ________ピッ





「では、カメラに向かってどうぞ」





『あぁ。どうも、善良な一般市民の皆さん。裏社会で裁判所の真似事をしているシルベニアと。そう呼べばいい』


『私はこの数十年、悪人同士の裁判官"裁定者"として多くの金を稼ぎ強力な権力得てきた。大体要領を得れば簡単なことだった。馬鹿は単純だからな』


『裁定所は裁判所のような厳格なルールの下争う。それによって誰からも信頼を勝ち取りマフィア同士の抗争の決着さえも私の手のひらの上で踊る』


『とはいっても裁判所で度々起こる、法廷での買収行為は私が見つけ次第即処刑するシステムになっている。買収をした奴にはマフィアだろうが問答無用で法廷にてその事実を突きつけ、買収された側の身内は銃殺。これで確固たる信頼が築けるというわけだ』


『じゃあなんで裁判所モドキが政府と戦争してるかって?言ってしまえば私の気分の問題だ』


『ノイアー。お前はセックス・ピストルズを知ってるか?』





「はい。確か、有名なロックバンドですよね?曲は聞いたことがありませんが」





『模範解答だが間違いだ。こいつらは"有名なロックバンド"ではなくボーカルがシド・ヴィシャスだから、ギターがスティーヴ・ジョーンズだから必然的に有名になった。凝り固まった不満だらけの70年代後半ヨーロッパ社会に現れた、言わば若者たちのアウトロー的存在』


『私が裁判官をやめて裁定所を作り上げたのも、実際の裁判所でのクソみたいな判決に反抗するためだったんだが...まぁいい。話がそれた』


『さっき政府と戦争してるのは私の気分だって言ったな。あれは今まさに、アウトローが誕生しようとしているためだ』


『奴は必ず歴史に残る劇的な最期を迎える。それを実行させるために私はわざと政府を怒らせている』





「...その奴とは?」





『知らないのか?クロズコップに決まってんだろ』





「...」


「(姉さんが...アウトローだと?)」





『奴は皆が心の底で感じている不満を取り除く才能を持っている。率先して(うみ)を取り除ける医師みたいなものだ』


『その生き方は茨の上を素足で歩くより辛いというのに。だがその様がなんとも形容しがたく、ただ(まぶ)しい』





いや...おかしな想像をするな。


こいつが言うような人間では無い。姉さんは明るくて、みんなを元気づけるような優しい人______





『▅▅▅そう。奴は良い人間だった▅▅▅』





「___________ッ」





『だが戦争で人格が破綻した。そこが奴がアウトローたらしめる"キモ"だ』


『戦争で破壊された一人の若者が残された母国で生きづらさを感じながら後先を考えないでクソ共を排除していく。昨今の社会派映画でも中々見ない展開で最高だ』


『いずれスコセッシ辺りの有名監督が映画化して誰もがその存在を脳に焼き付ける。そして、実在した人物だったと気づきまた歓喜に沸く』


『ふっ...そんな"主役の最期"を生で私は見届ける』


『せめて最期くらい、そうやって楽しませて欲しいもんだな』





「...」





『...おい、酒』





彼女は手前のテーブルを指で叩き、その部下らしき男はひとつのコップにバーボンを注いだ。


半分ぐらい注いで、飲み干す。


その様を私は2回も目の当たりにした。




「あの...それだけ?」





『は?』





「いや...あんたはこれから殺されるかもしれないってのに、何年も生きてきた自分の人生が消える寸前だってのに」


「最後にやることがアウトローの誕生を期待するってそれだけ...?」


「...正気か?」





『...ふん...』


『自分の趣味に生きて、自分の趣味で往生出来るならそれこそ最高の人生と呼ぶべきだ』


『自分の最期すら楽しめない奴はそれまでの惨めな人生だってことさ。毎日仕事に追われるだけの敗北者の思考よ』





「...」





『...よし。じゃあ始めるか』





「...はい?」





『ついてこい。外に出る』





_______________________






ドダダダダダダダッ_____ババババババババッ___





「ッ__________」


「おい!ここ銃撃戦のど真ん中じゃないかッ!」





倒壊した瓦礫を壁に、僕は必死にそいつにカメラを向ける。


辺りは弾が飛び交っている最中なのに、シルベニアは何やら部下と機材のようなものをいじっていた。


本当に遮蔽物とかない、撃ち殺されるリスクが高い場所にいたものだから僕は彼女が死ぬ瞬間をカメラに納められると思って必死にテープを回した。





『おい。さっき私はピストルズについて話したよな』


『じゃあこのCDは?分かるか?』





手の甲に薔薇の花が飾られた、黒塗りの背景のCDである。





「知らねぇよ...ッ!」





『これは猫に教えてもらった日本のロックなんだけどな...すげー良かった。私の葬式にはこれ流せってくらい』


『じゃあ弾くから。よく撮っとくといい』





「は...?冗談だろ?」





彼女はサイズの大きいアンプ2個に、サンバースト柄のジャズマスターをぶっ繋げ勢いよく弦を弾きだした。


恐らくドラムやベースの音はCDの音源から出してる。


彼女は一人でその血まみれのコートを着ながら土煙の舞う中で独りよがりの演奏を始めた。





________ジャギャギャギャギャギャギャンッ





『溢れた。希望が飛び散ったのは昨日だったよ』


『もう...終わらせてくれよッッ!!』





______ジャギャンッ ギャギャギャンッ ジャギャギャギャギャギャギャギャンッ________





「__________」





...うっんま。


彼女の歯切れのいいカッティングと大音量の声量が全身に電撃を走らせる。


気づいたら僕はテレビ局の人間のように彼女の映像を録っていた。





『あの日、砂利だった僕らは蹴られ、殴られ犯され、でも』


『その先、にある...望みに賭けてぇぇええ"え"え"ッッ!!!』





来る。でかいサビが。


直感で。





『望みは無いけど君がいる、明日(あす)はないけれど今日足掻いてみる』


『金がないからマスを()き続ける、最低な俺を誰か救ってくれよ"ッッ!!!』


『腎臓はない昨日捨てたから、でも今日君が拾ってくれたしさ』


『だから空に沈んで海を渡るよ』


『すれ違いな君へ...』





________ジョギャァ...





「...」





ドパパパパパッ______バババババババ___





「...」





...なんだろう。


歌詞もスタイルもとんでもなくダサいのに...


さっきからアドレナリンが止まらない...ッ


脳が理解するのを拒んでいたのに、途中からなぜか共感してしまって...これは...


▅▅▅毒だ▅▅▅






バシュッ ババシュッ___________





『...ッ!!』





途端。


彼女の手前まで迫ってた機動隊員の1人が放った弾丸が、巨大な2つのアンプに直撃する。


気が付かないうちに、彼らの敵は目前だったのだ。


...が。





『てめぇ...アンプぶっ壊れたじゃねぇかサツの豚共がッッ!!』


『ボケ_________ッ!!』





ガギャッ______!!






シルベニアは持っていたフェンダーでその機動隊員の頭をぶっ叩いた。


ギターはネックとボディから折れたが、倒れた機動隊員のヘルメットがぼっこり凹んでいたのを見てさらに震えた。


それでもカメラを回し続ける。


目が離せない。




『おい...ッ!警察さんはロックが嫌いだってよッ!!』


『全員ぶっ殺して"射精"かますぞオ"ラ"ァァァッ!!!』




警察達とシルベニア達の全面衝突。


戦闘はさらに激化する。


最早スコップや瓦礫で殴り合う状況。




「もうむ...無茶苦茶だ...ッ!!」





『_______おい、ノイアー!』





「...ッ!」





『_________最高だろ?』






今でも記憶に残っている。


_____その時の血と炭で汚れた彼女の澄み切った笑顔を。


僕は迷わずシャッターを切った。






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