43 エピローグ
「それでは本日の司会を務めさせていただきます、新宿冒険者局局長の高峰と申します。今回のビデオ カンファレンスには日本の政財界から経団連の皆様、そして世界の冒険者局を司る宇宙連邦の皆様、世界政府の皆様が参加されております。音声は各自AIにより同時通訳がされております。それでは宮本雄太氏に対する取材を始めさせていただきます。雄太さん、本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「それでは早速ではございますが宮本雄太さんのプロフィールを説明させていただきます。雄太さんは八年前新宿ダンジョンにおいて行方不明となり、異世界へと転移されました。そこでーー」
井の頭公園での出来事から数日後、雄太は自宅のPCを使ってウェブ会見を行っていた。外はうだるような暑さだが宮本家の室内ではエアコン、ではなく雄太の魔法によって快適な温度と湿度が設定されていた。
発言はしないが天の川銀河宇宙を含めて世界中の要人達が固唾を飲んで雄太の一挙手一投足に注目していたが、雄太本人は気楽なもので終始笑顔で対応していた。実はこの会見で一番緊張していたのは司会の高峰氏で、ダンジョン産の胃薬を飲んでこの場に臨んでいるほどだ。
会見は雄太の経歴から始まり先だっての新宿ダンジョン特殊個体事件に及び滞りなく進んでいたが、ここでアクシデントが起こった。雄太の後ろからドンドンドンと騒がしい音がしてなにやらわめいている子供の声が聞こえてくる。
雄太は苦笑いをしてちょっと失礼と言い席を立つと、しばらく戻ってこなかった。だがやがて再びPCモニターの前に着席すると、その膝にはかわいらしい赤毛の女の子がべったり甘えて抱えられていた。
「すいません、娘がどうしてもって聞かなくて」
「うふふふふ♪」
「ほらクロエ、みなさんにご挨拶して」
「宮本クロエです! 三歳です! パパこれ向こうに沢山人がいるの?」
「そうだよ」
「なにしてるの?」
「んー? パパのお話聞いてるの」
「すっごーい! じゃあクロエもする!」
「ああ、またあとでね。すいません高峰さん、続けてください」
ニコニコと笑いながら雄太に抱かれているクロエは終始上機嫌だ。どうやら自慢のパパが沢山の人達に注目されているのが嬉しいらしい。やたらしがみついたりまとわりついたりしている。そして会議は各国の代表による質疑応答へと映った。
「それでは単刀直入にお聞きしますが、宮本雄太氏は世界征服などには興味はないということですか?」
「その通りです。やろうと思えば半月もあれば十分ですが、そんなつもりは毛頭ありません。異世界をス救って帰って来た自分の立場は言わば引退選手のようなものでして、今後はよほどのことがなければ世情に関与するつもりはありません」
「しかし現実にダンジョンの特殊個体を討伐しているのでは?」
「あれは妹を救うためなのでやむなくです。ちなみに新宿のダンジョンには焼きを入れておいたので今後このようなことはおきないでしょう」
「ーーはっ! そ、それはどういうことで?」
「ダンジョンのコアを削って脅しました。言うことを聞かせたので新宿ダンジョンはこれから世界で最も冒険者フレンドリーなダンジョンになるでしょう。では次の方」
「はっ……はい、宇宙連邦冒険者委員会のタチアナです。雄太さんは異世界に行って勇者となり邪神を倒したとありますが、なにか証明するものはありますでしょうか」
「んーまぁそちらの真偽鑑定を受けてもいいですが、うちの娘も証拠にはなるかもしれませんね。あれとの戦いがなければこの子を引き取ってはいないので」
「確かに髪の色が違うので血が繋がっているとは考えにくいですが、それだけで異世界人だとはーー」
「クロエ角あるよ! 見る?」
「え、ええ、あなたがよければ」
「はい!」
「「おおー」」
「はい! はい! はい! はい!」
「「おおおおーーー!」」
クロエが能力を制御している腕輪を外したり付けたりしていると、曲がった角が生えたり消えたりしたのでそのことに一々聴衆は驚いた。そして会議の最後に最も参加者を驚かせたのは雄太による転移魔法だった。せっかくだからという理由で薬草ハーブティーセットの詰め合わせを格代表ごとにクロエに持たせて連続で転移させたので、場は大混乱となった後で雄太の実力に恐れおののき、世界の代表達は眠れる獅子がいつまでも穏やかでいてくれることを願うのであった。
会議が終わったその日の夕方、時間を持て余した親子は気配を消して田無タワーの鉄骨の上に腰かけた。ここに来たのはきれいな夕日を見るためだ。冬になって空気が澄んでくると富士山も見えるのだが、夏の今は雲に遮られて見えない。だがピンク色に染まった空はどこまでも美しく風は優しくクロエの頬を撫でた。
「パパ、今日は楽しかったね!」
「そうだな、でも今後はお話してる時にドンドンしちゃだめだぞ」
「えーなんで~?」
「なんででもじゃ、相手が気を遣うでしょうが」
「ふふふ、みんなパパの魔法にびっくりしてたね」
「まー他に似たようなことできる人はいないからな。おっ母さんからレインだ、今日のご飯はなににする? だって」
「んー? なんでもいいけどお寿司か焼き肉がいー、あとコロッケ」
「なんでもよくないがな全く、梓に似てきたな。今日は焼き魚にします」
「えー? 美味しいけど骨取るのめんどくさいよぅ」
「たまには父さんに合わせなさいよ、いつも肉ばっか食ってんだから」
「お爺ちゃんもお肉好きだって言ってたよ?」
「父さんはほんとはお魚の方が好きなの」
「え~そうなの?」
「いつもは孫が可愛いから譲ってるの、あと好き嫌いはなるだけない方が良いぞ」
「クロエ、ピーマンも食べれるよ!」
「肉詰めのやつならだろ?」
「うん!」
「はーもう、じゃあ夕日も見たし帰りますか、アニメも見ないとなんでしょ?」
「うん!」
瞬間転移で宮本家のリビングへと帰った親子は、最近居候じみてきたレナを含めて団欒のひと時を過ごした。そして穏やかで騒々しい毎日が淡々と続いていく。
異世界から帰宅した勇者は、今日も地元西東京で魔王の娘を育てる。
このあとの展開も色々と考えてましたが、ひとまずこの辺りで完結とさせていただきます
規約で歌詞を載せることができませんが、エイリアンズという曲をたまに聞きながら書いてました。雰囲気がいいんですよね
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました
皆様の未来に幸多からんことを




