情報を制する者は戦いを制す・4
バージニア・コールとして生きるなら、この世界は悪くない。王宮に集うご令嬢を見れば気持ちに余裕があるとわかる。国情が落ち着いているということだ。
王族が他から反感を買うほどの豪奢な暮らしをしていないのも、高ポイント。
「あら嫌だわ、わたくしったらポイントだなんて言ってしまって」とバージニアは心の内で反省しつつ、ご歓談中のブレンダン殿下の見える位置で立ち止まった。
飲み物を頂きたいと視線を送れば、待つまでもなくグラスののったトレイを給仕が差し出さす。
さすがに行き届いたサービスだと感心した。
共に渡った晦日市南病院の受付さんが、異世界転生人とは思いもよらないことだった。自分に何度かあったのだから、他にそんな方がいて不思議はないのに。
聖女ふたりの利点は、日々実感している。浄化も手分けすることができるし、今日のように情報も倍集められる。
私とミナミでは会話の進め方も違えば、相手によって話題もまた違う。今一番興味のある相手はブレンダン殿下だ。
日本で園遊会にお招き頂いた時は、殿下方とお話しする機会はなかったけれど。
バージニア・コールと名乗る時のパーティーや夜会では、話したいと思う相手と話せなかった事は一度もない。
待てばあちらからお声がけくださるものだ。案の定。
「楽しんでいらっしゃいますか、コール嬢」
出席者全員に声をかけると決まっている様子のブレンダン殿下が、いかにも王族らしい微笑を湛えて、近くまでいらした。
「お招きくださいましたこと深く感謝いたします、ブレンダン殿下。見事なお庭に先ほどから夢心地になっております」
淑女の礼をとった。
「そのように畏まらずに、本日の会は」
ブレンダン殿下は、隙のないタイプだと思う。跡継ぎとして育つ長兄殿下と弟殿下では、期待のされ方も受ける教育も大差がある。予備扱いされて腐る弟殿下を何人も見た私としては、珍しい好例と感じた。
「花はお国と同じだろうか」
「黄花藤はわたくしの住む土地に合わなかったようで、これほど見事なものは初めて拝見いたしました」
当たり障りのない会話が何往復かして。
「コール嬢の国に、異世界から渡った人はいただろうか」
「私は聞いたことがありません。いらしても、気が付かなかった……のかもしれませんが」
ブレンダン殿下の頬に影が落ちた。
「では、アリスという名前に心当たりは」
アリス、不思議の国や鏡の国の? それともアリス・ウォルター。
「いえ、わたくしの身近には。宜しければミナミにもお尋ねくださいませ」
私が話すことではない。そして確信した。この世界のブレンダン殿下は、ミナミの知るブレンダン殿下なのだと。
さてミナミはなんと答えるのだろうか。




