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「…取り乱してしまったわ。ごめんなさい」
一頻り大泣きした後に、口調をいつも通りに戻した幼女が少年に謝罪する。
その泣き腫らした赤い目は威厳など一切なく、少年はただただ苦笑いをする事しか出来なかった。
「ほらな、無理って言ったろ?」
「えぇ。明らかに無理がありましたね」
幼女の側近のような男女の会話から察するに幼女は新しく来る新人の前ではカリスマ性を見せておきたかったのだろう。
しかしそれは無惨にも失敗。カリスマ性を見せられるどころか醜態を晒してしまっていた。
「うるさい! 話が進まないでしょ!?」
尚も笑い続ける右側の男と、冷静に馬鹿にする左側の女に対して幼女が文句を言う。
さっきまでの様子を見る限り言うことを聞かなそうではあったが、意外にもすぐに黙り姿勢を正す。
その光景は、曲がりなりにも幼女がここのトップだということを少年に思い知らせた。
「話を戻すわよ。あんたが連れてきたこの男が新しい『over worker』で間違いないのね?」
幼女は少年を指差して、少年をここまで連れてきた少女に確認を取る。
その発言に少女は無言で首を縦に振り、こう続けた。
「『over time』に動けてたから、間違いない」
少女の発言に幼女は満足そうに頷くが、それと同時にため息も吐く。
「そ、お疲れ様。…でもねぇ、1人で行動しちゃダメって言ったでしょ? 死んだらどうするの?」
「行かないで、死なせる方が嫌」
「そういうことじゃなくて…。…まぁ、それに関してはもういいわ。結果的に仲間が1人増えたんだし」
幼女は諦めたような口調になるが、目線は少女を咎めている。
しかし少女は然程気にしてないようで表情を一切崩していなかった。
「そうですね。仲間が増えるに越したことはありません」
勝手に話が進んでいくが、少年はあることに気付いた。
どうしてこの人達は疑問に思わないのだろう。どうして今まで気付かなかったのだろうか。
「あの…」
ずっと閉じられていた口を開いて、その場にいる全員に向けての言葉を発する。
「何? 何か質問?」
それを聞きたいことがあるととった幼女の発言を聞き終わってから、少年はゆっくりとその疑問を口にする。
「名前、教えてくれませんか…?」
その場にいた全員が、「あっ」という顔になる。
少年がした質問は、至極真っ当な質問であった。