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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第五章 海には夏が、温泉には浴衣美人がよく似合う

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第91羽

「彼女~、俺らといっしょに泳がない?」


 軽薄なセリフで声をかけられて、となりを歩いていた銀髪少女がため息をつく。


「またですか……」


「またみたいだな……」


 それに合わせて俺も肩をすくめて答えた。


「キミ、すっげえキレイな銀髪だね~。むっちゃかわいいし!」


 いったいこれで何度目だろうか?

 ティアがビーチで男にナンパされるのは。


「ねねね。どうかな? 俺、とっておきの穴場知っているんだ! 案内するからさ、ちょっと行ってみない?」


「お断りします」


「そんな事言わないでさあ。せっかく海に来たんだから、いっしょに楽しもうよ!」


「そういうのは間に合っていますので」


 そっけなく言い放つと、ティアは俺の腕を両手で抱き込んだ。そうすることでこれ見よがしにナンパ野郎へ男連れであることをアピールする。


 チューブトップのビキニに包まれた彼女の胸が俺の腕に押しつけられる。おうふっ。

 いや、ティア……、そんなにギュッとしがみつかなくても……。


 水着の上からでもしっかりと感じられるやわらかい杏仁豆腐のような感触。ぷるんっぷるんである。

 さらには水着で隠されていない素肌部分にも俺の腕は触れており、張りのあるサラサラとした感触が伝わってきていた。


 師匠! 天国は……、天国はビーチにありましたぞ!


 若干トリップ気味の俺であったが、何とか意識を持ちなおして現実へ舞い戻る。

 軽く頭を振って目をやった先には、まるで今気がついたかのように俺へ視線を向けてばつの悪そうな表情を見せるナンパ君がいた。


「え? あ……」


 おいおい、今まで気がついていなかったのかよ?

 なんだその『え? こんなのと?』みたいな目は。


 釣り合わないのはこっちも承知の上だが、お前だって顔面偏差値は俺と大して変わらないんだからな。

 伊達にフォルスやクレスを普段から目にしているわけではない。イケメンというのはああいうヤツらのことであって、お前は俺と同類だ。そんな目で見るんじゃねえよ。


 ナンパ君は『信じられない』といった表情で俺とティアから離れていった。

 何度となく繰り返されたやりとりにうんざりしながらも、俺たちはティアが氷魔法で作ったパラソルの場所へと歩いて行く。


 そろそろ腕を解放してくれても良いんだよ? ティアさんや?


「こうしておけば声をかけられることも減るでしょうから……」


 なんか学都に行ったときも同じようなやりとりがあったような気がするが……、まあいいか。なんか役得だし。



 そうしてたどり着いたパラソルでは、ニナたちが寝そべったり水を飲んだりして思い思いにくつろいでいた。


 さすがに元気満点印のニナも海で泳ぎ疲れたのだろう。だらしなく足を放り出してガブガブとスポーツドリンクを飲んでいる。まったく、嫁入り前の女の子が何てかっこうだ。けしからん。あれが妹でなければカメラを持って正面から激写…………、いや何でもない。


 行き倒れよろしくへたり込んでいるあの空色ツインテールはラーラだろう。どんだけ全力で遊んでいたんだか……。


「ティアさんモテモテだねー」


 どうやらさっきの一部始終を見ていたらしい妹が、戻ってきた俺たちに向けてにっしっしと笑いながら声をかけてくる。


「そういうニナさんもずいぶん声をかけられていたようですが?」


 え? そうなの? ティアのやつ、そういうのよく気がつくもんだな。俺なんか全然気付かなかったんだが。


「ティアさんほどじゃないけどねー。三回くらいかなー?」


「ほう、世の中には物好きが多いんだな」


 いや、黙っていればニナも見た目は良いから、当然の結果なのだろうか?


「おやおや兄上様、ジェラシっておられますか?」


 気味の悪い呼び方するな。


「私も何度か声をかけられましたが、なんででしょうね? 他の人とちがって私の時はみんなお菓子を持ってくるんですが?」


「そりゃあ……、そんなの(スクール水着)着ているからだろ」


 無自覚天然ロリの空色ツインテールが身につけているのは、紺色のスタンダードなスクール水着。いわゆるスク水だ。


 おまけに胸元には『ごねんさんくみ らーら』とたどたどしい文字で書かれた白い布がぬいつけてある。

 聞いたところによると、かれこれ十年以上も体型が変わっていないらしく、学舎入学前に買った水着をずっと使っているらしい。ぬいつけてあるネームの文字は当時のラーラが自分で書いたそうだ。


 どうせ大きくなったら買い換えるのだし、その時に新しく書けばいいや。と思っていたようだが、その後いっこうに身長は伸びず、いわゆるスリーサイズも変わらず今に至る、と。


 学舎時代に「さすがにそろそろネームだけでも書き換えた方が良いでしょうか?」とつぶやくラーラに、「別にそれで良いんじゃない?」「名前が変わるわけじゃないでしょ?」などと周囲から説得されて結局そのままになっている。


 だが、ラーラは気付いていただろうか? 「そのままで」と説得していた周囲の人間――男女問わず――がにやけ顔で、口元を手で押さえつつ、必死に笑いをこらえながら言っていたことに。


 まあ……。今、目の前で『意味がわからない』と言った感じに首を(かし)げているのを見れば、その可能性は薄いと言わざるを得ないな。


「パルノは大丈夫だったか?」


「え、は、はははい。あの、ニナさんが助けてくれて……」


「そうか」


 どうやらパルノも声をかけられていたようだ。

 こいつも黙っていれば可愛いからな。女に飢えた男どもからしてみれば、放っておく手はない。


 案の定ナンパ男から声をかけられたが、一緒にいたニナが撃退してくれたようだ。パルノの場合、ひとりだと強引に押し切られてどこかへ連れ去られそうだからな。ニナの援護は心強かったことだろう。


「よくやった、ニナ」


 俺が昔のように頭をなでてやると、ニナは「にししし」と口からもらしつつ笑みをこぼす。昔からこいつは頭をなでられるのが好きだったからな。


「くるしゅうない。もっともっと褒めても良いのだぞよ。兄上様」


 なんだろう。今日のニナはお殿様キャラなのか? ちょっと言葉遣いが妙なお殿様だが……。


「ってことは、ナンパされてないのはオレと兄貴だけっすか? 落ち込むっすね」


「いや、別に男がナンパされないのは普通だろ?」


「弟さんは普通にナンパされてたっす。 ボン、キュッ、ボンのお姉様方とか、地元の女子学生っぽい子達とか……」


 なんだと!? ブルータス! お前もか!


 クレスをにらむと、イケメンな弟はスイッと目をそらした。

 両手で頭を抱え、『おーまいがっ』と天を仰ぐ俺に、ニナは口を尖らせて抗議してくる。


「あれ? お兄ちゃん。なでなでボーナスタイムはもう終わり?」


 もう十分なでてやっただろ? それにあんまり続けていると、なでられるのが好きなもうひとり――というかもう一匹が『自分もなでろ』とばかりに頭を押しつけてくるからな。ほどほどにしておかないと面倒なことになる。


 ……あれ?


 そこではたと気付いた俺は周囲を見渡す。


 いつもならこんな時、「ンー!」と鳴きながら薄茶色のサラサラヘアを押しつけてくる希少種ゴブリンがどこにも見当たらない。


 おかしいな。


「なあラーラ」


「なんですかレビさん」


「ルイのやつ、どこ行ったんだ?」


「え……?」


 ルイにご執着の空色ツインテールが慌てて視線を左右に巡らせる。


「そんな……、ここに来るまではいっしょだったのに……」


 そう口にするラーラの顔がみるみる青ざめていく。


「どうしましょう、レビさん! ルイが……、ルイがもしナンパでもされようものなら……!」


 いや、ナンパはされねえだろ、普通に考えて。


 だが見た目幼児だからな。ナンパはなくても誘拐されたりはありそうだ。

 なんせあの警戒心が若干不足気味なゴブリンは、なんだかんだと言って非常に希少なモンスターらしい。


 多少人見知りのところはあるのだが、お菓子ひとつで初対面の人間に懐いてしまうという致命的なチョロさも標準装備している。


 その希少価値を知っている人間が良からぬことを考えたりすると……。誘拐も十分ありえるな。


「手分けして探しましょう」


 ティアの言葉に各々うなずき、俺たちは散開してルイを探し始めた。


2018/11/05 誤字修正 水色ツインテール → 空色ツインテール

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