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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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88/197

第84羽

 準決勝。

 決勝のひとつ前。

 トーナメントを勝ち残った四チームだけが挑むことの出来るたった二試合の舞台。


 そう。四強。

 それは四強。

 いわゆる四強。

 なんてったって四強である。


「まさかここまで勝ち残れるとはなあ」

「優勝したら神っすね!」


 対戦表を前につぶやく俺と、興奮気味に口を開くエンジである。

 実際エンジの言う通り、大会前に評価の低かった――というより評価対象にもあがらなかった俺たちが優勝でもしようものなら、一体どれだけの話題になることか。


 俺としてはせいぜい本戦へ進むことが出来れば上出来程度に考えていたのだが、案外ティアがいれば何とかなるんじゃ無いかと思ってしまう。


 とりあえずは昨日の試合でバルテオットに勝つことができ、肩の荷が下りた俺はわりと気楽なものである。

 この先例え負けたとしても、何か実害をこうむるわけじゃあない。せいぜい「ああ、疲れた」ですむ話だろう。


 だが部活動の一環(いっかん)として大会に(のぞ)んでいるニナたちは、もちろん俺と異なった意気込みがあるはず。まあ乗りかかった船だし、良い結果が出るようにできる限りのことはしたいな。


「レビさん、レビさん。それで、対戦相手はどんなチームなんですか?」

「んー。よくわからん」


 確かに俺は今、目の前にある対戦表を見ていた。

 そこには間違い無く次の試合で戦う相手が表示されている――、いるのだが……。


「仮面の集団? なんじゃそりゃ?」


 だがしかし、対戦表を見てもわからないものはわからないのだ。


「仮面? ですか?」


 俺のとなりで同じように疑問符を頭上へ浮かべているのは、たたずまいすら品の良さを感じさせるエプロンドレスの銀髪少女。


 さすがの魔眼持ちでも、相手が壁に貼られた紙ではその力を発揮することも出来ない。

 俺と同じように対戦表へ載っている情報しか得られないのだ。


 対戦表に記載されたチーム名は『異邦人』、そこに大会運営が()えた簡単なチーム紹介文が続く。


『チームメンバー全員が仮面を着用している異色の集団。経歴も出身も不明、メンバー同士の関係も全くわからないミステリアスな雰囲気をまとったチームだ。だが準決勝までの試合を危なげなく勝ち進んできたその実力は本物。準決勝でもその強さを見せつけるのか? そしてその正体が明らかになる時はやってくるのか? 色々な意味で目を離せない注目株』


 うーむ、ずいぶん怪しげな集団だけど、その強さは運営のお墨付(すみつ)きというわけか。


 一方俺たちのチーム紹介文は――。


『準決勝まで唯一勝ち残った学生チームであると同時に、今大会一番のダークホース。大会前は無名だった彼らが準決勝まで進むとは、一体誰が予想したことだろうか? 白氷銀華(フロノレス)の異名を持つティアルトリス選手を中心に、個性的なメンバーが集まる。戦力不足を頭脳でカバーし、準決勝まで駒を進めてきたが、果たして決勝へ進むことはできるのか!?』


 むー、相手チームに比べてやっぱり評価は低いな。ダークホース扱いなのは仕方ないだろうけど。


「どう思う、ニナ?」

「うーん、やっぱりここは全員帽子とかかぶって『謎の帽子集団』なんてどうかな? お兄ちゃん」

「うん、お前に訊いた俺がバカだった」

「ひどいよお兄ちゃん! だって謎の仮面集団とかカッコイイよ! ずるいよ! ニナもやーりーたーいー!」


 アホか。帽子かぶったところで顔丸見えだから謎でもなんでもねえよ。っていうか、今さらそんな演出したところで遅すぎるっての。

 子供のように地団駄(じだんだ)を踏む妹はさておき、相手の情報がほとんどないというのは不安だな。


 本来なら準々決勝の試合は全て観戦するつもりだったのだ。

 しかしバルテオットのチームと戦った第三試合終了後、賭けの対象物であったヤツの装備一式を徴収するのに一悶着(ひともんちゃく)あり、ようやく観客席に戻ったときにはすでに試合が終了していた。


 試合時間十三分は短すぎるだろ、おい。


 ニナたち部活メンバーは、放映された立体映信(えいしん)の記録をしっかり取っていたらしく、昨日の晩にチェックはすませていたとのこと。


 うちも記録機能付きの立体映信買うべきだろうか? ……いや、そんな金がどこにあるって話だな。


 試合の記録を見たメンバーたちによると、それはもう一方的な試合展開だったらしい。

 解説のおっさんも「プロチームと比べても遜色(そんしょく)ない」と驚いていたとか。

 どうしてそんなチームがこれまで無名だったんだろうな?


「ま、わからない事でいつまでも試合直前に思い悩んでたって仕方ないか」

「そうっすね。どうせ試合になればすぐわかるっす」





『さあ、いよいよ大会も終盤! 準決勝第一試合が始まります! 西側へ布陣するのがトレンク学舎フィールズ部チーム、東側に布陣するのは異邦人チームです! マーベルさん、大会も残すところあと三試合となりましたね』

『そうですね。エー、残り試合は少なくなりましたが、その分レベルも高くなっていきますので、見応(みごた)えのある試合が期待できますよ』

『この試合のフィールドタイプは丘陵(きゅうりょう)、フィールド制限は魔法の連続使用不可です。魔法の連続使用不可については皆さんもご存知の通り、身体強化をのぞき、一度魔法を使用した後に使用不可時間が設けられるというものです。今回の設定時間は一分。つまり魔法を一度使うと、そのプレイヤーは一分間魔法を使うことができなくなります』

『そうですね。効果的なタイミングで効果的な魔法を使うことが求められる制限です。エー、チームリーダーの指揮能力が大きく影響する制限と言っても良いですよ』


 準々決勝と違い、今回はまともなフィールド設定だ。


 フィールドタイプ『丘陵』はなだらかな起伏のある見通しの良いフィールドで、多くのプレイヤーから好まれているタイプである。まばらに生えた木々と、大地を染め上げる青々とした草花。ピクニックするならぜひともこんな場所に行きたいものだ。


 フィールド制限の『魔法の連続使用不可』も、決して一方のチームへ不利となる制限ではない。

 もちろん魔法使いの人数によって制約を受ける影響が変わるため、完全に公平というわけではないが、前回の『氷魔法使用禁止』に比べれば十分納得できるものだ。


 相手チームの情報が少ないので、向こうのことはわからない。だがこちらのチームに限って言えば、最も(わり)を食うのはラーラだろうか。

 以前も話したが、ラーラは多彩な属性魔法を矢継(やつ)(ばや)に繰り出して、手数で勝負するタイプの魔法使いだ。一分間のクールタイムはラーラの持ち味を見事に殺してしまうことだろう。


 逆にしっかりと詠唱で溜めを作り、大技を繰り出すティアのようなタイプにとってはそれほど足枷(あしかせ)にならない。もともと一分間でいくつもの魔法を放つことが少ないからだ。


『さあ、両チーム共に本陣の設置が完了しました! やはり見通しの良い高台を双方共に選んだようです』

『無難な選択ですね。このフィールドタイプでは本陣を隠すような場所はほとんどありません。エー、むしろ敵味方の動きが見えやすい高所に設置して、そこからリーダーが指揮をとる方が有効でしょう』


 本陣を示す旗のそばで、俺は高台からフィールド上を見渡す。

 ぐるりと視線を巡らせれば、草花で覆われたなだらかな斜面が続いていた。その先は遠く観客席まで続く。


 俺の周囲にはティアをはじめとするチームメンバー全員がそろっている。その目が向いているのは、遠くに見える相手チームの本陣。

 こちらと同じように本陣周囲にメンバー全員が集合していた。


 遠めがねで覗いてみると、確かに全員が仮面を着用している。ただ、仮面自体は不揃(ふぞろ)いで、顔全体を覆うものや目だけを隠すものなど、それぞれデザインは全く異なっていた。


 仮面をつけている以外はごく普通の装いだ。

 手に持つ武器や身につけている防具も、特別奇抜(きばつ)なものではない。ただ、どれもずいぶん高価そうに見えるのが気になるけど……。


「で、作戦はどうするの? 兄ちゃん」

「まあ、こんだけ丸見えじゃあ、奇襲も回り込みも出来ないしな。守りに少数残して、あとは相手の出方次第じゃないか?」


 俺がそう言うと、クレスはあごに片手をそえて数秒考え込んだ後、訊ねてきた。


「ん……、そうだね。わかった。誰を守りに残そうか?」

「とりあえず戦力にならない俺とパルノは前線に出るだけ邪魔だろうから、守備要員確定だろ。あとは――」

「先生。私が守りに残りましょう」


 音もなく俺の前に進み出たティアが申し出る。


「え、あ、いや……。お前が守りに?」

「はい」

「でもそれは……」


 うちの最大戦力であるティアが本陣の守りにつくというのは正直もったいない。

 確かに守り手としてこれだけ心強いプレイヤーは居ないが、一方でティアの戦力が遊兵と化すのはあまり良い選択とも言えない。


「どう思う? クレス」

「別に悪い案じゃないと思うよ? ティアさんならひとりでも本陣防衛の役割を果たせるだろうし、そうすれば残りの九人全員が攻撃に参加できるよね?」

「それはそうなんだが……」

「今回のフィールドなら戦場は丸見えなんだから、押されていると感じたときに予備戦力として投入してくれれば良いよ」


 確かにクレスの言うことにも一理ある。

 ティアが単独で行動したときの移動スピードは、一回戦のオルボ学院戦でも証明されている。きちんと戦局を見極められれば、間に合うか。


 逆にティアを前線に送った場合はどうだろう? 守備要員として俺とパルノが役に立たない以上、少なくともあと三人は欲しいところだ。だがそうなると前線の人数が七人にまで減ってしまう。


 ティアひとりを守りに回すことで、前線の人数を九人にまで増やせるし、いざとなれば予備戦力として劣勢を跳ね返す切り札として温存するというのは、悪い考えじゃないかもしれない。


「わかった。それでいこう」


 こうして俺たちのチームは、本陣の守りに俺、ティア、パルノの三人がつき、前線はニナたち九人が向かうことになった。


『さあ、いよいよ試合開始です!』


 やがて実況が叫び、スタジアムが大歓声に包まれる中、審判の宣言と共に準決勝第一試合がスタートした。


2016/01/08 修正 ティア選手を中心 → ティアルトリス選手を中心

2016/01/08 誤字修正 オルボ学院戦でも照明 → オルボ学院戦でも証明

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