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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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第82羽

「ああ! なんてことでしょう! 一本飲めば効果てきめん、元気はつらつーの回復薬を敵に奪われてしまいました!」


 いや、お前が投げ渡したんだろうが、ラーラ。


「ええ!? それは大変! せっかく勝利目前なのに、これじゃあニナたちが不利になってしまうじゃないですか!」


 そらぞらしくニナが合いの手を入れる。


「ヤバイっすね!」


 無理して口を開くな、エンジ。


「ハッハッハ! よくもコケにしてくれたな、残念レビィ! この屈辱(くつじょく)、倍にして返してやる! 回復さえすれば……!」


 回復薬を飲んで勢いを取りもどしたバルテオットは、先ほどまでのダメージも回復…………あれ? 回復していないんじゃ無いか?


 確かにバルテオットは回復薬を飲んでいたはずだ。だが見たところ、ヤツが体中に負っていた傷は先ほどまでと同じように残ったままだった。


「ああ! なんということでしょう! 傷が回復してしまっては、ここまで追い詰めたレビさんの苦労が水の泡です! …………回復すればですが」


 相変わらず大げさな口調のあと、最後にボソリとラーラがつぶやく。その顔はカラカラに(かわ)いた悪い笑顔だった。


「ええ!? それは一大事です! 回復されたらお兄ちゃんなんてケチョンケチョンにされちゃうよ! …………回復出来るもんならねえ」


 続いてニナもわざとらしく言ったあと、ニヤリと笑いながら冷たい口調で追加のセリフを()く。


「ヤバイっすー!」


 ふたりのあとで常に平常運転のモジャ男が続く。お前はブレないよな、ホント。


 ふと目をやれば、あのクレスまでもが普段見せないような黒い笑顔を浮かべている。

 なんだ? 何かあるのか?


「ふっふっふ! 回復薬が効いてきたぞ! 力がみなぎって…………、え?」


 思いがけないチャンスを得て、ハイテンションだったバルテオットが困惑の表情を浮かべる。


「な、なんだ? 全然回復してないじゃないか! どういうことだ!? 魔力だってちっとも強化されてない!?」


 それと対照的なのは、人が悪い笑顔を浮かべたまま目を細めるラーラとニナだった。


「あらあら、予想以上に単純な駄犬(だけん)でしたね」

「面白いくらいズッポリ(はま)まってくれたよね」


 耳ざとくそれを聞いたバルテオットが、俺に向けていた憎しみの視線をふたりへと移す。


「どういうことだ!? おい! そこの女…………うっ!?」


 ラーラたちを問い詰めようと口を開いたバルテオットが、急に腹をおさえてうめき始めた。


「うぐ……、な、なんだこれは? は、腹が……、ま、まさかさっきの回復薬に何か仕込んだのか!?」


 苦しそうに下腹部を押さえながらバルテオットが問いかける。


「実はうちの父、慢性(まんせい)的な便秘持ちでして」


 突然意味不明な家族紹介を始めるラーラ。


 いや、誰が自分の親父さんについて語れと言った?


「毎日トイレにこもっては、うんうん唸っているんです。それを聞いた知り合いの治療師さんが特別にと言って作ってくれたのが、市販するには強力すぎて認可が下りない便秘治療薬『スッキリール』です」


 え……? それってようするに……下剤ってこと?


「ま、まさかさっきの回復薬が……!? キ、キサマァ、回復薬などと私を(たばか)ったな……!」

(たばか)ったなどと人聞きが悪いです。ちゃんと『自然なお(つう)じを回復する』立派な回復薬ではありませんか」


 ラーラがしれっと言う。


 なるほど、ようやく俺にも理解できた。

 後が無い状態のバルテオットに偶然訪れた幸運と思わせて自分から薬を飲ませる。だが、実はその薬自体が罠だったってことか。


 なんというか……、味方ながらやり方がえげつないな。

 第一「魔力三倍」とか言っていたのは完全にハッタリって事だろ? これ、フィールズのルール的にはどうなんだろ? 確か毒殺なんかは禁止攻撃のはずだけど……、下剤は毒になるんだろうか? というかそもそもバルテオットが自分の意思で飲んだわけだしな……。


「き、汚い手を……うぐっ! こ、こんなことが許さ……はうっ!」


 下剤は確実にバルテオットの腹へダメージを与えつつある。定期的に襲いかかる便意を必死でこらえるバルテオットは、もはやまともに会話するのも難しいようだった。


 それにしてもずいぶん効きの早い下剤だな。飲んでから一分くらいしか経過していないのに、こうも効果が出るなんて……。ラーラの親父さん、どんだけひどい便秘持ちなんだよ。


「ちなみにこの特別下剤……回復薬は、ニナさんの協力があって完成したとっておきです」


 いや、今さら回復薬とか、名前だけ取り(つくろ)っても意味ねえよな?


「ニナが協力?」


 確かにニナはマルチな方面へ才能を発揮するチートな妹だが、薬学関係の話はこれまで聞いたことがないぞ?


「そうですレビさん。なんと、この回復薬には隠し味としてニナさん特製のオリジナルジュースをミックスしているのです!」


 いや! ちょ!

 それ隠し味というか、むしろ主成分ー!


 なるほど、あの異常なまでの即効性はニナのジュース(ダークウエポン)という要素が大きく影響しているわけか。…………なんか、すごく納得できたよ。


「ひ、卑怯な手を使い……うっ! ぐうう!」


 まあ、確かにバルテオットの言う通り褒められた方法じゃないかもしれないが……、フィールド丸々俺たちに不利な条件へ変更したお前には言われたくねえよ。


「わ、私をどうするつもりだ……?」

「いえいえ、どうもしませんよ。――バインド!」

「うん、どうもしないよ? そーれ、――がっちがちー!」

「もはや手を下すまでもないでしょう。――リストリクト!」


 苦しそうに腹を抱えながら問うバルテオットに、ラーラ、ニナ、クレスがそっけなく答えながら次々と拘束(こうそく)魔法を発動させる。

 魔法をまともに食らったバルテオットは、効果の切れたいくつかの魔法具よりもさらに強い拘束を受けることになった。


「えーっと……、拘束するだけなんですか?」


 パルノが俺と同じ疑問を抱いたようで、ラーラたちへ向けて問いかける。


「ですです。拘束するだけですよ。別に攻撃するつもりはありません。だって攻撃して死亡判定になったら、トイレのある控え室に転送されちゃうじゃありませんか」


 あ……、そういうことか。


「ま、まさかキサマら……はうっ、この状態でずっと私を……うぐ、拘束し続けるつもりか?」


 見るからに狼狽(ろうばい)したバルテオットが苦しみつつもラーラたちに訊ねる。


「おやおや、そう言ったのがわかりませんでしたか?」

「えーと……、そのまさか?」

「まさかと言うより……、ご名答?」

「そうっすね!」


 苦しそうなバルテオットへ満面の笑みを向けて、俺とパルノを除いた四人が口々に答えた。


「こ、この外道があ!」

「もちろん私たちも鬼ではありませんので、自ら負けを認めるというのならそこで試合終了を受け入れますよ?」


 うん、味方ながら結構えげつないよ、ラーラ。


 つまりこういうことか?

 バルテオットに残された選択肢はふたつ。

 ひとつはギブアップして試合の負けを自ら選ぶ選択、もうひとつはこのまま腹部に襲いかかる便意と戦いながら試合終了まで耐える選択、ということだ。


 ん? そもそもギブアップって認められているのか? 聞いたことがないけど。


 まあ、それは良いか。どっちにしてもバルテオットに残されたのはいずれも勝ちとはほど遠い選択肢だ。試合終了まで耐えたところで、それが勝ちにつながるわけじゃあない。


 それ以前にニナのジュース(ダークウエポン)を飲んで腹を下した状態で、あと十分間も耐えられるとは思えない。


 耐えられなかった場合は……えーと、……うわあ。


 あれか? 立体映信の中継越しにこう……、お食事時に見せられないバルテオットの下半身が流れてしまうわけか?

 ……それは恥ずかしい。というか、しばらく外に出られないレベルの精神的ダメージがありそうだな。


 それがバルテオットにも理解できたのだろう。先ほどまでの威勢はどこへいったのか、苦痛に顔をゆがめながらも顔面が蒼白(そうはく)になっていた。


「先ほども言ったように私たちも鬼ではありませんので、ギブアップするならそう言ってくださいね?」


 いや、十分鬼の所行(しょぎょう)だけどね。


 もはやそんなラーラの声も耳に入らないほど苦しいのだろう。バルテオットは額に脂汗(あぶらあせ)を浮かべながら、必死で押し寄せる腹痛という波と戦っていた。


 フィールドの痛覚緩和(つうかくかんわ)も腹痛には効果がないのだろうか? 確かに攻撃でもなければ命の危険につながるようなことでもないしな……。


 どちらにしても、バルテオットに残された未来は自ら負けを認めるという不名誉な結果か、それとも観客や視聴者へ無様な様子をさらすかのどちらかだ。


 もちろん試合終了時間まで痛みに耐えきればそのふたつを回避することはできるだろうが、果たしてあの様子で十分間耐えられるのだろうか? 耐えきれたとしても、おそらくその時点で勝ちの目は消えているはず。


「うぐぐ……、はうっ、……むむう」


 すでにバルテオットの口から吐き出される言葉は意味のないうめきばかり。


「さてさて、ギブアップするのなら早く言ってくださいね?」


 そう言いながら、ラーラがバルテオットの周辺で意味もなく飛び跳ね始める。


「いつつ……! やめ……! 振動が……! ……ぐう!」


 ラーラが着地するたびに起こるかすかな振動ですら、限界寸前、決壊間近のバルテオットにとっては(つら)い刺激だろう。


「あ、面白そうっすね!」

「そーれ、ドォーン!」


 エンジとニナまでがそれに参加し始めた。

 ジャンプしながらバルテオットを中心に回り始めた三人は、まるで迷い込んだ旅人を捕らえて怪しげな儀式を行う未開の部族を思わせた。……実物なんて見たことないから勝手な想像だけどな。


「うっ! ちょ……! やめ……! うぐ……! わ、わかった! ギブアップ! ギブアップだ! あう……!」


 たまりかねたバルテオットがギブアップを申し出た。

 バルテオットは拘束されて端末操作ができないため、代わりにクレスが自分の端末を審判へつなぐと、やつの前に差し出す。


「うぐ……、審判! ギブアップだ! あう……! 赤く輝く天上の刃の負けだ! だから早く……! くうう! 控え室に……、転送してくれえええ!」


 それを待っていたかのように、バルテオットはもはや外聞も何もないといった様子で一気にまくしたてた。


 次の瞬間、バルテオットの姿が目の前から消え去る。

 そして競技場中に響きわたる声で、審判が俺たちの勝利を告げた。


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