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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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第81羽

「な、なんだ!?」


 突如現れた人影と自分を囲む物体の数々に、バルテオットは狼狽(ろうばい)を隠せないでいた。


 慌てて足を止めたバルテオットの周囲には、俺が事前にパルノへ渡し、設置を頼んでおいた魔法具がちりばめられている。

 それらはティアやニナから持たされた魔法具のうち、弱体化、拘束(こうそく)の効果がある物ばかりだ。


 一時的に筋力や体力を低下させる魔法具。足もとに絡みついて動きを阻害(そがい)する魔法具。足の裏を磁石のように床へと吸着させる魔法具。集中を邪魔して魔法の詠唱を(さまた)げる魔法具――。


 ひとつひとつは劇的な効果があるものじゃないが、それらを一度に発動させるとどうなるか?


 答えはこうだ。


「な!? 力が!?」


 短い棒状の魔法具が光る。筋力を低下させる効果を発揮したそれは、バルテオットの体へ淡く光るモヤとなってまとわりつき、ヤツの力を一時的に失わせた。



「く、くそっ! 離れろ!」


 扇子(せんす)のような形をした魔法具がカタカタと震える。(おうぎ)状に広がったその先端から、無数の糸が放出され、バルテオットの下半身へと絡みつく。一本一本は貧弱そうな糸にしか見えないが、ヤツの腰から下をまるで(まゆ)のようにすっぽりと包んでいた。



「な!? うわっ!」


 御札にしか見えない魔法具が一瞬にして燃えて無くなり、周囲には黒ずんだ燃えかすのようなものが撒き散らされた。よろめきながらそれを踏んだバルテオットが、ただでさえおぼつかなかった足取りを完全に止める。足の裏が強烈な力で床に吸い付けられたのだろう。次の瞬間バランスを崩してずっこけた。



「こんなもの! バルテオットファ――!? ゴ、ゴホッ! ゲホゲホッ!」


 宝石の形をした魔法具が砕け散る。おそらく魔法で拘束(こうそく)を解こうとしたのだろう。自分の名前付きで魔法を唱えようとしたバルテオットが、口の中に入り込んできた魔法具の破砕片(はさいへん)に詠唱を中断されて()き込む。


 え? 魔法の詠唱を妨害するって、そういうことなの!? 物理的になの!?



「があっ! ぐへっ! ぶはっ!」


 次々に発動する魔法具が、バルテオットの自由を次々に奪って――――、あ、あれ?


 なんか物理的攻撃が発生している魔法具がいくつかあるんだが、気のせいか?

 バルテオットの頭上から鉄アレイのような物体が頭に向けて落下したかと思えば、ヤツの足もとでは爆発としか見えないような現象が発生していた。


 俺はこの場に居るもうひとりの人間、魔法具を設置し、発動させた張本人のパルノへ目を向ける。


「あ、えと……。ティアさんに渡された他の魔法具もついでに設置しておきました!」


 お前かー!


 ちょっとびっくりはしたけど、結果的には何も問題は無い。

 別にバルテオットへ手加減する必要なんて無いんだし、フィールド内でなら多少の痛みを感じても死んだりすることは無いのだから。


「よくやった!」

「えへへへ」


 サムズアップして褒めてやると、パルノは照れたように桃色の頭を()いた。


「ぐぐぐ……、レビィなんかに……!」


 様々な魔法具による拘束を受け、パルノがついでに設置した魔法具で結構なダメージを喰らったバルテオットが、憎々しげな視線で俺を射抜く。


 さて、これからどうしたもんかね?


 体中を拘束され、身体能力まで低下させられたバルテオット相手なら、俺やパルノでもとどめを刺すことは可能だろう。


 だがなあ……。

 完全に抵抗できない相手へ一方的にとどめを刺すってのも、正直気がすすまないところではある。たとえ相手が嫌いな相手でもな。


「どうする? これ?」

「どうします? この人?」


 俺とパルノが同時に口を開いた。ふたりして腕を組んで首を(かし)げる。

 いずれ魔法具の効果も消え去るだろうから、やるなら今のうちなんだがなあ。


「えーと……、他の人が来てから考えましょうか?」

「ん? 来るっていうのは?」

「あっちはもう決着が付いたらしいですよ? 今こっちに向かっているって、ニナさんからさっき連絡があったと思うんですけど」


 え? そうなのか?


 逃げるのに集中していて気がつかなかったのかもしれない。そういえば実況もなに言っていたのか全く憶えてないや。


『ここでまさかまさかの展開ー! 絶体絶命のピンチと思われたトレンク学舎のレバルト選手! チームメイトと協力しての頭脳プレイで、赤く輝く天上の刃チームのバルテオット選手を見事に捕獲したあああ!』


 意識した途端に実況の声が耳へ入り始める。


『マーベルさん、これはもう勝負あったとみて良いでしょうか?』

『そうですね。主力同士の戦いはすでにトレンク学舎チームの勝利に終わっていますからね。エー、赤く輝く天上の刃チームは残り二名。しかもリーダーであるバルテオット選手が拘束されてしまいました。ここから逆転するのはほぼ不可能でしょう』

『対するトレンク学舎チームは七名が残っています。さあ、残り時間はあと十五分です!』


 む、まだ十五分もあるのか?


 十五分も経つと、バルテオットを拘束している魔法具のいくつかは効果が切れてしまうだろう。

 やはり今のうちにサクッとやってしまうべきだろうか?


 そんな風に考えが傾きかけたとき、屋上とビル内をつなぐ扉が必要以上に大きな音を立てて開いた――いや、壊れた。


「お待たせ! お兄ちゃん!」


 蝶番(ちょうつがい)が外れかけてプラプラと揺れる扉を横に、満面の笑みで屋上へと足を踏み入れる妹がそこに居る。


 お前、扉開くたびに壊してねえか!? この前も俺ん家の玄関壊しただろうが!?


「姉ちゃん、いくらフィールド施設だからといって、意味もなく壊す必要なんてないだろ?」

「えー! だってこうバーンって登場した方がカッコ良くない!?」


 それを聞いて片手で顔を覆うのは苦労性の弟だった。


「レビさん、レビさん、無事ですか? なあんだ、無事だったんですね」

「いや、その言い方おかしいぞ? 無事だったら面白くないみたいな感じに聞こえるからな、ラーラ」

「いえいえ。レビさんを失った怒りと共にあのキツネ目を吹き飛ばすという、爽快(そうかい)な展開があったかもしれないのですよ?」


 小首をかしげながら可愛く言っても、口にしている内容は結構ひどいよね!


 屋上へと足を踏み入れたのは、妹のニナ、弟のクレス、そしてラーラとエンジだ。

 さっき実況が残り七人と言っていたから、この場に居る六人とティアを含めた七人が我がチームの残りメンバーなんだろう。


 それはそうと、早いことバルテオットの扱いを決めなきゃな。

 見ればすでにいくつかの魔法具は効力を失い、バルテオットは腕の自由を取りもどしていた。

 下半身はガチガチに拘束され、魔法もまだ使えないようなので、今のところはこちらを攻撃してくるそぶりを見せていない。だがそれも時間の問題だろう。


「で、こいつの処置だけど、どうす――」

「ああ! よく見ればレビさん、怪我をしているではありませんか!」


 俺の言葉をさえぎってラーラが大げさに驚く。


「え? あ、まあ……、そりゃすり傷程度ならいくつもあるけど、別に大騒ぎするほどのもんじゃあ――」

「それはいけません! さあ、レビさん! ここに回復薬があるのです!」


 またも俺のセリフを中断させて、ラーラがなにやら携帯用の容器を取り出す。


「この特製回復薬は傷を(いや)すだけでは無く、体力を回復させ、さらには身体能力を大幅に向上させる効果まであるのです!」


 妙に説明じみたセリフを吐くラーラ。


「ええ! すごいですねラーラさん! それ飲んだらぐおーん、って感じになりそうですね!」

「よくわかんないけど、神っすね!」


 ニナがわざとらしい反応を見せ、エンジまでがそれに乗っかる。

 クレスはひとり、あきれたようにあさっての方向へ目を背けていた。


「ですです! さーらーに、魔力を持たないレビさんには関係ありませんが、何と一時的に魔力を三倍にまで高める効果もあるのですよ!」

「えー、ビックリー!」

「ヤバイっすねー!」


 ……なんだそのわざとらしさは?

 なんか、前世の深夜テレビで見たテレビショッピングを思い出すぞ。


「さあ、レビさん! この特製回復薬を飲んで、ちからいっぱい、元気いっぱいになるのです!」


 そう言うなり、ラーラは回復薬らしき液体が入った器をこちらに向けて放り投げようとモーションに入った。


「ちょっとまて!」


 なぜそこで投げようとする!? 意味がわかんねえよ!


「とおーっ!」


 そんな俺の気も知らず、気の抜けたかけ声と共にラーラの手から回復薬が投げられた。


「あ」

「あ」

「あ」


 その場にいたそれぞれの口から、間抜けな声がもれる。


 リリースポイントがおかしかったのか、もともとラーラに投擲(とうてき)の才能が無かったのか、ラーラが投げた回復薬はバルテオットを挟んで入口と逆側に立っていた俺のもとまで届くことは無かった。


 投げられた瞬間、明らかに俺のところまで届きそうに無かった回復薬の軌跡は、ラーラと俺の間に転がるバルテオットへと続いている。

 見るからに加速度の不足した回復薬という空飛ぶ物体は、ちょうどバルテオットが拘束されているポイントへと狙い澄ましたように落ちた。


「ちょ! なんで投げるんだよ!? 敵に回復薬渡しちゃ意味ねえだろ!?」


 バルテオットは下半身こそ未だ自由になっていないが、すでに腕は動かせるのだ。届く範囲に回復薬があれば、当然手を伸ばすだろう。

 ラーラが投げた回復薬は、あっさりとバルテオットの手におさまってしまった。


「ああー! しまったのです! まさか敵の手に渡ってしまうとは!」

「まずいよね、ラーラさん!? あんなすごい物、敵に使われたりしたら!?」

「ちょーピンチっす!」


 相変わらず白々(しらじら)しい掛け合いを続ける三人。こいつらが何考えているのか、俺には正直わからん。誰か教えてくれ。


「ふっふっふ……。ハーッハッハ! こいつは良い! せっかくだから有効に使ってあげるよ!」


 思わぬ幸運を手にしたバルテオットが愉快げに笑う。

 そして俺たちが止める間もなく、容器のふたを開けると一気に飲み干した。


2015/11/28 誤字修正 回復役という空飛ぶ物体 → 回復薬という空飛ぶ物体

2021/05/18 誤字修正 例え → たとえ

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