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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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第76羽

 試合は森林フィールドの時と同じような展開になった。


 なんせこの市街地フィールド、隠れる場所には事欠かない。延長戦に突入するまで全く戦闘が発生しないことすらあるのだ。

 観覧者の立場的には退屈な試合になりがちで、そのうち公式戦の指定フィールドからは姿を消すんじゃないかと言われているくらいだった。


 俺たちのチームはニナが指揮する主力――というか全戦力――十人が慎重に探索を行い、俺とパルノがそれぞれビルの上層から索敵を行っている状態である。

 先に相手を見つけた方が圧倒的に有利なこのフィールド。前回のように奇襲を受けることだけは避けなければならない。


「お兄ちゃん。何か見つかった?」

「ニナか。いや、何も動くものは無いな。そっちはどうだ、パルノ?」

「あ、えと……、こっちも特にないです」


 俺が(ひそ)む高層ビルの一室からは、周囲の状況が良く見える。死角となっている建物の陰はあるが、フィールド全体の二割くらいは見渡せるだろう。

 パルノも俺とは逆方向を見渡せる別のビルで、観測者(オブザーバー)として役割を果たしているはずだ。


「あーもう、まどろっこしい! ねえクレス、ヅガンっていっちゃおうよ!」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないでちゃんと隠れてね、姉ちゃん」

「バカって何よ、バカってー!? バカって言う方がホントはバカなんだからねー!」

「はいはい、わかったからちゃんと隠れてね、姉ちゃん」

「むきー!」


 はあ……。あんまり騒いで見つかるなよ、お前ら。


「先生の方は大丈夫ですか? ビルの上層とはいえ、死角も多いのですからくれぐれも注意して――」


 ヘッドセットから心配そうな声でティアの声が聞こえてくるも、不意にそれが途切れる。


「どうした、ティア?」

「見つけました」


 声を潜めてティアが返答する。


「敵か?」

「はい」


 どうやら運はこちらに味方しているようだ。

 前回とは逆に、敵チームを発見。しかも声を潜めているということは、向こうがこちらに気づいていないということなのだろう。

 森林フィールドにも増して隠れるのが容易なこのフィールド。初手で奇襲をかけられる優位性は計り知れない。


「敵は何人いる?」

「見えている限りで…………、九人です」


 俺の問いかけにティアが答える。

 九人か……。あとの三人は俺たちのように建物から監視をしているのか、それとも支援のために隠れているのかだろう。


「どうするんすか、兄貴?」

「どうするもこうするも、せっかくのチャンスなんだから先制攻撃しかねえだろう?」

「ですです。他に選択肢があるわけないのに、なに間の抜けたことを言っているんでしょうね、このモジャ男は?」

「へー、さすが動く歩道で乗るタイミングがつかめずに、(あね)さんの手を借りていたチビっ子は言うことが違うっすねえ?」

「な……! それとこれとは話が違うのです!」


 はいはい、お前らお互い嫌いって公言しているわりには仲良いよなあ。


「それくらいにしとけよ。敵に気づかれるんじゃないか?」

「ご心配には及びません。遮音(しゃおん)障壁を張ってありますので」


 心配を口にした俺へ、無駄に高性能な自称アシスタントが言葉を返してきた。氷魔法が得意なだけで、別に他の魔法が使えないわけじゃない。何度も言うようだが真性のチートなのだ、この少女は。


「で? で? で? 仕掛けても良いかな? 行っちゃって良いかな?」

「待って、姉ちゃん。もうちょっと引きつけてからだよ」


 気が急いているニナを抑えるクレスの声が聞こえてくる。


「仕掛けるタイミングはクレスが判断すれば良いだろ。エンジは周辺に伏兵が居ないか索敵な」

「分かったよ、兄ちゃん」

「わかったっす」


 ほんの数瞬訪れた静寂。

 チームメンバーの息づかいだけがヘッドセットから流れる。長いようで短いその時間は、クレスの声で終わりを告げた。


「ティアさん、カウントダウンお願いします。他の人は詠唱を始めて」

「わかりました」


 その声を合図に、各々が攻撃準備に入ったのだろう。ヘッドセットからは何人かの詠唱が聞こえてきた。


「十、九、八、七……」


 ティアがカウントを始める。

 あわせるように詠唱の声が高まっていく。遮音障壁のおかげで相手には聞こえないとはいえ、奇襲の瞬間というのはやはり緊張するな。


「……三、二、一、ゼロ!」


 カウントダウンの終了と同時に、魔法発動の声がヘッドセット越しに聞こえてきた。


『おおーっと! 試合開始から十二分! 先手を取ったのは何とトレンク学舎チームだあああーーー! しかし赤く輝く天上の刃チームも咄嗟(とっさ)に防御障壁を展開する! 二重、三重、四重だあああ! 一瞬で四人が障壁を張りましたああ!』

『良い反応ですねー。トレンク学舎チームも理想的な奇襲だったんですが、さすがに準々決勝まで上がってくるチームとなると、対処能力も高いですね! エー、ここは赤く輝く天上の刃チームが見事な対応を見せました』


 思ったよりダメージを与えられなかったのか、解説のおっさんが奇襲を受けた側となる相手チームを賞賛していた。


 こりゃまずいかな? 予定では敵へ一撃加えて二、三人戦闘不能にさせてから撤退。その後、雲隠(くもがく)れという流れだったんだが……。


『奇襲によって多少のダメージは受けたものの、誰ひとりとして脱落していません、赤く輝く天上の刃チーム! どうやらこのまま乱戦にもつれ込みそうだあああ!』


 実況の言葉によれば、相手チームプレイヤーを戦闘不能にさせることはできなかったらしい。こうなると奇襲のアドバンテージは失われてしまう。


 乱戦だと地力での勝負になるんだが……、ティアの氷魔法が制限されている状況でプロプレイヤーが三人いる敵を相手にするわけか。

 ヘッドセットの向こうからは武器を打ち合う音や魔法の放たれる音がひっきりなしに響いてくる。

 戦況を確認したいのはやまやまだけど、さすがにこの状態で応答させるのも気が引けるな。


『ここでトレンク学舎チームがひとり脱落――っと、すぐさま反撃を受けた赤く輝く天上の刃チームもひとりやられたあああ!』


 幸い実況が戦場の様子を伝えてくれるから、最低限の情報は手に入るがな。


「おーい、エンジ」

「何すか兄貴――っとと! 今余裕ない、っすよ!」

「伏兵いなかったのか?」

「だから今は――おうわっ! 居たとしても、こんな混戦じゃ――おっと、援護とか難しい、っすよ!」


 現場はずいぶん混乱しているみたいだ。確かに混戦になると遠距離から狙い撃ちするのも難しい。


 味方ごと範囲魔法をぶちまけるという方法もあるにはあるが、非紳士的行為としてペナルティが科せられるのだ。ポイントを大幅に減少させられてしまうため、敵本陣占拠や敵全滅など、完全勝利が得られる場面でしか使いどころはない。加えて当然のことながらチームの評判だって悪くなる。


 まあ、バルテオットならそういう評判なんて気にしそうにないがな。


 ん? そういや、バルテオットのヤツは今戦っている敵の中にいるのか?


「ティア、バルテオットのヤツはそこにいるか?」

「いえ、あの不快な方はいらっしゃらないようです」


 平然と答えるティアの言葉と並行して、金属が打ち合わされる音が響く。

 どうやら敵と斬り結んでいる真っ最中だったらしい。


「あ、邪魔してすまん」

「問題ありませんので、お気になさらずに」

「あらあら、お嬢ちゃん。元プロ相手にずいぶん余裕なのね」


 ティアが戦っている相手らしき女性の声が、ヘッドセットの向こうからかすかに聞こえる。


「肩書き相手に戦っているわけではありませんので」

「ふふっ、そう。そういう考え方、嫌いじゃないわ」


 さすがブレない女。相手が元プロプレイヤーだろうがなんだろうが、淡々(たんたん)と追い詰めていく姿が目に浮かぶよ。


 だが……。そうか、バルテオットは見当たらない、か。

 あいつのことだから危険なところはチームメイトにやらせて、自分は安全な場所から高みの見物をしているのかもしれないな。


 そりゃ俺だって似たようなもんだけど、こうして真面目に索敵をして――。


「あ……」


 遠めがねを片手に持ち、何気なく周囲を伺う俺の目が何かを捕らえた。


「気のせい……、じゃねえな」


 灰色や白を基調としたコンクリートジャングル。その路地を縫い、物陰から物陰へと密かに移動する三人の人影が遠めがね越しに見える。

 俺たちのチームは現在戦闘中の十人(ひとり脱落したから実際には九人)、別のビルから監視をしているパルノ、そして俺である。三人組などどこにも居ない。


 ということは、単純な消去法だな。


 敵のチームは戦闘中の九人(ひとり脱落で八人)と、残りが三人だ。

 そして俺の眼に映っているのもまた三人。確かめるまでもないが、一応目をこらしてみると――。


 居た。ヤツだ。

 遠めがねの中で、ややつり目がちのバルテオットが愉快そうに口元をほころばせている。


「敵発見。残りの三名だ。全員が前衛職。場所はE-8」


 俺はすぐさま敵発見の報を流す。これで敵全員の所在が明らかになったわけだ。市街地フィールドにおいてこのアドバンテージは大きい。


 しかし、あいつら一体どういうつもりだ?

 味方が戦闘に入っているのは分かっているだろうに。救援に行くつもりがないのか、その必要がないと判断しているのか……。


 救援に行かないとしてもたった三人で何を狙っているんだろう?

 まさか本陣を探し当てようとしているのか?


 いやいや、それこそまさかだな。定石を知り尽くした元プロが三人も居て、市街地フィールドで本陣探しに貴重な戦力と時間を割くほど愚かでもないだろう。それならさっさと味方の援護に向かった方が良いはずだ。


「レ、レバルトさん。その敵ってどこに向かっているんですか? ま、まさか私の方へ向かってきているんじゃあ……」

「心配するな、パルノ。お前の方には向かっていない。今はまっすぐにE-8からE-9に進んでいる。どっちかというと俺の方に向かって来ているな」

「そそそそうですか。わ、私も移動した方が良いですか?」

「いや、今動くと見つかるかもしれないからな。もう少しそこで待機してろ」

「は、はい」


 さて、問題はヤツらの動向だが……。

 何か変だな。歩みに迷いがない。まっすぐにこちらへ向かって来ている気がする。


「気のせいか……?」


 いや、気のせいじゃない。確かにこっちへ来ている。


 まさか俺に気がついているのか?


 いやいや、それこそまさかだ。今バルテオットたちの目には数十のビル、それに十倍する低層建築物が映っているだろう。そんな中、俺が潜んでいるビルへピンポイントで向かってくるはずがない。


 ……本当にないか?


 何か見落としていないだろうか?


 万一ヤツらがここにやってくれば、魔力が無い俺には為す術も無い。ましてや三対一では勝負にもならない。


 安全を第一に考えるなら、多少なりともリスクがあるなら事前に手を打っておいた方がいいだろう。


 しかし移動するったってどこに? この周辺で魔力扉がなくても入れて、見張りに向いたビルなんてそうそう無い――――。


「そういうことかあ……」


 俺はそこまで考えたところで、頭を抱えてうずくまった。


 バルテオットの狙いがようやく分かったからだ。

2015/11/28 誤字修正 プロプレイヤーガ → プロプレイヤーが

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