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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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79/197

第75羽

『さあ、昼食を挟んで本日の後半戦に移ります! 第三試合はトレンク学舎フィールズ部チーム対、赤く輝く天上の刃チームです! 実況は私ランドレイが、解説は今大会おなじみとなりましたブレイバーズの元監督マーベルさんです』


 熱気で包まれたスタジアムに実況の声が響いた。


『さてマーベルさん。この試合見所はどういったところでしょうか?』

『そうですね。やはり学生チームとして唯一準々決勝までコマを進めてきたトレンク学舎がどこまで相手チームに食い下がるか、というところですね』

『おっしゃる通りです。開会前は完全に無名だったトレンク学舎ですが、一昨日の一回戦では学生大会準優勝の実力を持つオルボ学院フィールズ部を破り、その実力を見せつけたところ。とはいえ対する社会人チーム、赤く輝く天上の刃は元プロが三人も所属しています。さすがに苦戦は(まぬが)れないでしょうか?』

『そうですね。確かに前回の試合で規格外とも言える活躍を見せたティアルトリス選手の実力があれば、元プロ相手にも良い勝負が出来たかもしれませんが……。さすがにこのフィールド制限では難しいでしょう』

『マーベルさんのご指摘通り、本試合のフィールド制限はトレンク学舎チームにとって少々(こく)かもしれません。観客の皆さんもすでにご存知の通りとは思いますが、この試合では氷魔法が完全に禁止されています。先の試合で見せたティアルトリス選手の氷魔法が使えないということになりますが、試合への影響はやはり大きいですか?』

『そうですね。それは当然だと思いますよ。エー、元々トレンク学舎チームがここまで勝ち上がってきたのも、ティアルトリス選手の魔法があればこそでしょう。エー、彼女以外にも目立って動きの良い選手が数人居ますが、さすがに元プロ相手では厳しいと言わざるを得ません。どこまで通用するかというところです』

『よりにもよって主戦力が無力化してしまったわけですよね。運が悪いと片付けてしまうにはあまりにも大きなこの制約。トレンク学舎チームがどこまでの健闘を見せるか、スタジアムの観客も、立体映信(えいしん)でご覧の皆さんも固唾(かたず)をのんで見守っていることでしょう』


 そういや決勝トーナメントは立体映信(えいしん)で中継されているんだっけか?

 しょせんは地方の大会だから、全国中継というわけじゃないんだろうが、それでも大勢の人が見ていることには変わりない。


「ふっふっふ……。試合開始早々、ギッタギタにして無様な姿をお茶の間に……」

「やだなあ、姉ちゃん。悪い笑顔になっているよ?」

「そういうクレスだって、……ふふっ」

「あれ? そうかい? ふっ、ふふっ、ふっふっふ……」


 なんか俺の家族から黒いオーラ出てるし!?


「まあまあ、おふたりとも落ち着いて」


 そんなふたりをたしなめるのは、まさかの空色ツインテール魔女だった。

 どちらかというと、普段は我が道をマイペースで進み、周囲のことなど我知らずといった風のラーラがそんなことを言うなんて……、明日は雨だろうか?


「いきなり倒してはつまらないですよ。まずは周囲の邪魔者を排除して孤立無援に追い込んでから、ジワジワと追い詰める方がよりいっそう(みじ)めに映ることでしょう」


 と思ったら単なる嗜虐(しぎゃく)的発想だったー!


「なあ、ティア。俺、別の意味でちょっと不安になってきたんだが……」

「ご心配には及びません。あのように不届きな(やから)、たとえ氷魔法が使えなくてもこの剣で必ずや息の根を止めて見せます。それはもう、二度と先生に手出しをしたくなくなるほど徹底的に!」


 いや、これスポーツの試合だからね。

 なんかさ! うん、間違ってはいないんだろうけど、物騒だな! 表現が!


「兄貴。その格好、なんか『未開の森で原住民発見!』って感じでヤバイっすね!」


 ああ、なんだかいつも通りのモジャ男が妙に安心する。

 俺はしばし現実逃避してエンジの方を向いた。


「あー、まあさすがにこれは付けすぎだよな……」


 エンジの表現もまんざら大げさではない。


 俺の体は今、無数の装飾品で飾り立てられている。

 両腕には腕輪、そして重ねるようにブレスレットが合計六本。首から下げているのは護符らしきものや宝石のついたネックレスの数々。両手の指を埋め尽くさんばかりの指輪。両耳に輝く耳飾り。鈍く銀色に輝く頭環。ベルトに付けたキーホルダーはウサギや狐のしっぽみたいなものから、なにやら怪しげな文様の入った民族工芸品らしきものまで。足首ですらミサンガのようなものが幾重にも巻き付けられている。


 確かにパッと見はどこか未開の異民族と言われても不思議ではない。もしくは宝石類で過剰に着飾る成金オバサンか。


「ポーチもパンパンっす」


 ちなみに俺の腰から下げたポーチも、無数の小物でふくれあがっている。

 中に入っている品物も一応説明は受けたのだが、量が多すぎて憶えきれなかった。


「ティアたちが持っとけっていうからさ……」

「……そのまま露店開けそうなくらいっすね」


 ああ、確かに祭りで露店商が扱う程度の量はあるかもな。


 ちなみにこれらの装飾品や道具はほとんどがティアからの供出(きょうしゅつ)品である。魔法の効果が付与されているものがほとんどで、たとえ魔力を持たない俺でも使えそうなもの、そして効果がありそうなものだけを見繕(みつくろ)ったとかなんとか。

 それでもこの量が出てくるあたり、さすがに名家だけはある。


 ティア自身もいくつかの装飾品を身につけていた。もちろん俺のように大量の品を身につけているわけではないが、ニナやクレスが目を見張っていた様子から推測するに、相当すごい品なんだろう。


「なあ、ティア。これホントに必要か?」


 俺は両手を広げて体中についている装飾品を見渡しながら言う。


「もちろんです。あの男の目的を考えれば、最も狙われやすいのは先生なんですから。それは先生にもお分かりでしょう?」


 あの男――つまりバルテオットの目的。無論試合に勝つことは言うまでもないだろうが、同時にヤツにとってこの試合はティアを手に入れるための試合だろう。俺としてはティアを賭けの商品にするつもりなんてこれっぽっちもないのだが、当のティアが承諾してしまったのだから、今さら引っ込みはつかない。


 と同時に、ヤツの性格を考えれば俺に恥をかかせるくらいのことは考えていそうだ。ティアの氷魔法を無効化して主戦力がなくなった俺たちを(もてあそ)んだあげく、俺をピンポイントで狙ってくる可能性は十分にある。

 だからこそのレバルトフルアーマー形態である。いや、装甲は紙のまんまだけどな。


 俺は軽くため息をつきながらも、両腕からジャラジャラと音を立てつつフィールドのスタート地点へと歩いて行った。






『さあ、両チーム本陣が定まったようです。審判の合図と共に試合開始です!』


 試合開始と同時、俺たちはあらかじめ決めておいた通りに動き始める。


「ホントにひとりで大丈夫なの? 兄ちゃん?」

「ああ、こっちは心配すんな。そっちこそ油断はするなよ」


 今回のフィールドタイプ『市街地』というのは森林フィールド同様に、視界が悪い戦場だ。

 本陣を発見するという点に至っては、森林以上に難しい。森林フィールドでは本陣を設置できるのが地面だけに限られるが、市街地フィールドでは地面以外にも床や屋上へ設置することが出来るからだ。


 え? それがどうかしたかって?


 だからさ、市街地だろ?

 ってことは建物がひしめきあっているわけだよ、フィールド中に。


 建物には一階建ても多少はあるが、どちらかというと高層建築が多い。パルノのマンションみたいに十階以上の建物も数え切れないほどある。


 ということはだ、単純に考えて本陣設置可能な広さがフィールドの何倍もあるってことだろ? しかも部屋ごとに扉や壁で仕切られているんだぞ?

 となりの部屋に本陣があっても、当の本人たちは気がつかないって事も十分にあり得るんだ。

 そんなフィールドでいちいち一部屋一部屋確かめていたら、試合時間の一時間なんてあっという間に経過してしまう。


 だから市街地フィールドでは森林フィールド以上に本陣占拠が発生しない。

 ほとんどの場合はポイントで勝負が決まる。メンバー全滅という終わり方も十分にあり得るけど、そこまでの総力戦になることはやはり少ない。


『さて、マーベルさん。両チーム共に動き始めましたが、この試合、どのような展開になるでしょうか?』

『そうですね。フィールドの特性上、本陣発見はほとんど可能性がないでしょう。エー、そうするとやはりポイント勝負ということになるのですが、両チームの編成によって展開は変わってきますね』

『と、おっしゃいますと?』

『市街地フィールドでは戦力を集中させるのがセオリーです。エー、本陣の防衛を考えなくて良い分、敵と遭遇したときに戦力負けしないというのが大事だからです』


 そう、このフィールドでは本陣の防衛を考慮する必要がないため、戦力を分散させないというのが定石(じょうせき)となっている。


 だから俺たちのチームも俺とパルノを除いた十人で固まって動いていた。俺とパルノは同行するだけ足手まといになるからな。


『ということはですよ、マーベルさん。戦いは正面からの激突になるわけですか?』

『それがそうでもないんです。戦力という点から考えれば、全員がまとまって行動する方が良いに決まっています。エー、しかしですね。市街地フィールドはあまりまとまった広さの場所がないですからね。敵味方二十四人が同時に展開できるスペースが無い以上、両チームがぶつかってもなかなか総力戦にはなりにくいのです』


 そういうことだ。おそらく意図的なのだろうが、市街地フィールドで最も広いスペースである中央通りですら、道幅は十メートルもない。二十四人が全員参加して乱戦を行うには狭すぎる。


 おまけにぞろぞろと連れ立って歩けば当然敵に見つかりやすくなる。

 確かに身を隠す場所は多い。だが風で木の葉が揺れる森と違って無機質で直線的な物体が多い中、人間の動きは非常に目立ちやすい。

 一方で観測者が身を隠す部屋はいくらでもあるし、高い場所から周辺を見渡すことも出来る。


『このフィールドで最も注意が必要なのは奇襲です。エー、本陣を占拠して逆転という可能性がほとんど無い以上、ポイントで先行されて逃げに入られると非常に厳しい状況になりますから』

『確かに部屋の中に閉じこもって息を潜められると、探し当てるのは相当困難ですね』

『そうです。エー、先手を打って相手にダメージを与え、すぐさま身を隠して小差のポイントを守りきるというのも勝ち方としてはよくありますよ』

『しかしそうなると両者うかつに動けなくなって、引き分けという結果になってしまうのではありませんか?』

『いえ、引き分けにはほとんどなりません。このフィールド独自の仕掛けが延長戦突入と同時に作動しますから』

『ああ、ナイトモードですね』


 そう、両者ポイントが同点のまま試合終了時間になると、延長戦に突入する。

 通常のフィールドなら延長戦でもフィールドの内容は変わらないが、市街地フィールドでは延長戦突入と同時に時間帯が夜に切り替わるのだ。しかも単に夜へ変わるだけではない。あろう事かメンバーひとりひとりの隠れている部屋だけ明かりが灯るというお節介な仕様だ。


 結果、隠れることに意味がなくなり、大抵はそのまま混戦となって決着がつく。そうなると作戦もクソもない。混戦ゆえに実力差をひっくり返して格下が勝つこともあるため、プレイヤーとしては選びたくない選択肢だ。……見ている方からすれば凄く楽しいんだがな。


 だから俺たちとしては、可能な限り一団で固まって相手に一撃加え、その後全力で身を(ひそ)めるというセオリーに従って作戦を立てた。

 後は相手の出方を(うかが)ってからだな。


2021/05/18 誤字修正 例え → たとえ

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