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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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第74羽

『第三試合 【フィールドタイプ 市街地】【フィールド制限 氷魔法使用不可】』



「ふざけんなコラ! なんだよこれ! 完全にティアを狙い撃ちしてるじゃねえか!」


 確かに準々決勝ともなればフィールドに何らかの制限がかかることもおかしくはない。


 でもこれはおかしい。


 フィールド制限というのは、試合展開に不確定要素を盛り込むことで戦いをより緊迫感あふれたものにすることが目的だ。

 だがそれはあくまでも両方のチームに対して影響を与えるからこそ、勝負の行方がわからなくなるのだ。


 だからエキシビジョンマッチのような興業目的ならいざしらず、大会のように公平さが求められる試合で一方のチームだけに不利となるような制限をかけることはない。――ないはずだ。


 前回の試合、確かにティアの活躍は見ている者の度肝を抜いただろう。だから多少の制約をかけられるくらいならまだ理解できる。『氷魔法威力半減』とかならな。


 しかし使用不可までとなると、悪意すら感じる。それはつまりティアの持ち味である吹雪の魔法も、氷竜のゴーレムも、全て禁じ手となってしまうということなのだから。


 普通に考えて、大会の運営側はそこまでしないだろう。


 だってそうじゃないか?


 無名の学生部活チームが怒濤(どとう)の快進撃でトーナメントを勝ち上がり、大会に旋風(せんぷう)を巻き起こす。こんなくだらない制約をつけて俺たちを押さえつけるよりも、勝ち進んで行く方が確実に大会は盛り上がる。


 しかもその中心にいるのが――噂程度は流れていたとしても――突然世に現れた【白氷銀華(フロノレス)】の異名を持つ見目(みめ)(うるわ)しい少女なのだ。俺が運営側の人間ならむしろ全力でそれを利用したいと思うだろう。


 ところが見ての通り、俺たちのチームに()せられたのはティアの能力封じとも言えるフィールド制限だった。


 普通に考えれば首を(かし)げる話だ。

 一体どういうことなのか、見当がつかない――わけでもない。


 そう。エンジたちもなんとなく察したように、こういうことをしでかしそうなヤツに心当たりがある。おまけにそいつ、いつぞやは親の権力を振りかざすようなことを口にしていた。


「はっはっは。戦う前から負け犬の遠吠えか? 残念レビィ」


 細身の体にやや縦長の顔、底意地の悪そうな印象を与えるツリ目。目下(もっか)疑惑のただ中にあるバルテオットがどこからともなく現れ、(あざけ)るような口調で俺に言い放った。


 大して深く考えなくともコイツが怪しいという結論は容易に出る。


 まず第一に俺たちのチームが弱体化して最も利益を得るのが、対戦相手であるバルテオットたちであること。まさか直接対決することになるとは思わなかったが、この試合にはコイツと俺――正確にはティアが買った――勝負がかかっている。


 次に先日の会話でコイツが言ったセリフだ。ティアに向けて『観戦していれば良い』と言っていたのは、きっとこのことを指していたのだろう。戦闘に参加できなくなるよう、ティアの得意な氷魔法をピンポイントで封じにかかったというわけだ。


 最後にコイツの家にはそれだけの権力がある。裏から手を回してフィールド制限の設定を変えさせることだって可能に違いない。それが賄賂(わいろ)なのか、圧力なのかはわからないけどな。


「ティアルトリスさんの得意な氷魔法は使えないみたいですね。残念なことですが、戦う術が無くては危険ですから、どこか安全なところに隠れて私の活躍を観戦していてください」


 まるで時代劇に出てくる越後屋のように、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてバルテオットが言う。

 ふざけたフィールド制限の原因がコイツであることを、その態度が如実(にょじつ)に物語っていた。


「お気遣いありがとうございます。ですがご心配は無用です。戦意はこの上なく高まっておりますので」


 相変わらずの冷めた表情で、言葉遣いだけは丁寧にティアが返答する。

 少し離れた位置からは、「ふごー! むぐぐー!」とくぐもった声、というかうなり声が聞こえて来た。グッジョブ、クレス。そのまましばらくニナを抑えておいてくれよ。


「あなたを傷つけないようチームメンバーにも言いつけておきますが、くれぐれも前線に出ないよう気をつけてくださいね。さすがにこの大会で私のチームに合流していただくわけにはいきませんが、大会が終わった後は仲間になる大事な体ですから」


 静かな闘志をみなぎらせたティアの様子に気づいていないのか、それとも意に介さないのか、まるでもう勝負はついたとばかりにバルテオットが放言する。


「氷魔法を封じたくらいで勝てるとお考えですか?」


 薄い水色の瞳を細めてティアが問う。


「だってそうでしょう? 確かにそこそこ使えそうなメンバーも数人いるようですが、しょせんは学生。私のチームには元プロプレイヤーをはじめとして、社会人チームからも選りすぐりのメンバーを集めているんです。ティアルトリスさんの居ないそちらのチームでは勝負になるわけもありませんよ。ザコがいくら頭数をそろえたところで戦力にはなりませんしね。ふっ、ましてや魔力ナシの役立たずまで抱えているのですから。まあ、よくもって十五分といったところでしょうか。あっはっは!」


 ザコ呼ばわりされたメンバーたちから、明確な敵意がバルテオットへ向けられた。

 どうしてこいつはいちいち人の神経を逆なでするんだろうな。


「おっとっと、試合を前にして袋だたきにされてはたまらない。それでは私はこれで失礼しますよ。試合の後、お迎えにあがりますからね」


 言いたいことを言って場をかき乱し、満足したバルテオットは高笑いを上げながら去っていった。――うちのチームメンバー全員に確固たる怒りの感情を植え付けて。


 バルテオットが立ち去った後、妙に静かな空気が周囲を包む。

 だがそれもほんの数瞬のこと。まず最初に切り出したのは渦中(かちゅう)の銀髪少女だった。


「ちょっと実家に連絡してきます」


 そう言うと、返事も待たずにスタスタと消えていった。

 はて? 何を連絡するんだ?


「レビさん、レビさん。試合まではまだ時間がありますので、私もいったん家に戻ってきますね」

「ん? ラーラまでなんだ? 忘れ物か?」

「いえいえ………………、そうですね。ちょっとしつけの悪い犬に教育的指導をしたくなったので」


 最初こそ否定しかけたものの、すぐにラーラは悪そうな笑顔を浮かべて理由を口にする。


 あれ? お前の家って犬飼っていたっけ? 確かペット禁止のマンションじゃなかったか?


「じゃあお兄ちゃん、私たちも一回学舎に戻ってから来るね!」

「へ? ニナまでどうした? 試合観戦していかないのか?」

「うん。僕たちは良いから、兄ちゃんは試合までゆっくりしていて」


 クレスまでが何やら学舎へ戻るつもりみたいだ。


「よーっし! やろうどもー! 総力戦だあー!」


 妙に気合いが入ったニナのかけ声に、部活のメンバーたちが声をあげる。


 ああ、ヤツの言ったザコ扱いに腹を立てているのか。

 まあ普通はそうだよな。俺はとっくの昔に自分の弱さを受け入れたけど、人間なかなか自分の弱さを受け入れられるわけじゃない。

 俺だって前世の記憶が無かったら、未だに何とかしようともがいていたかもしれないのだ。それが悪いとは言わないけどさ。


 複雑な気分で見ている俺をよそに、ニナは部活メンバーと連れだって場を後にした。

 気がつくとすでにラーラの姿もなく、取り残された俺とエンジ、パルノの三人は途方に暮れる。


「えと……。兄貴、試合見に行くっすか?」

「あー、そうだな。どうせあいつらもすぐには帰ってこないんだろうし、ティアが戻ったら観客席に移動しようか」


 俺たちはほどなく戻ってきたティアを加え、四人で第一試合と第二試合を観戦することにした。




 第一試合は海辺のフィールドで、制約は海風を模した強風が吹くという内容だった。そのおかげで両チームとも飛び道具がほとんど使い物にならず、魔法の命中率もひどく低下しているように見える。結果、戦いは魔法使いの強化を得た前衛同士の肉弾戦が中心となり、正面からの両チーム激突は観客席を大いに喜ばせた。


 第二試合は砂漠のフィールドで、制約は蜃気楼(しんきろう)。制約というより特性といった感じだな。ありとあらゆるところ、ありとあらゆるタイミングで蜃気楼が発生し、プレイヤーたちを惑わせていた。ときおりプレイヤーたちの蜃気楼すら現れたため、突然の敵出現に驚いたプレイヤーの混乱っぷりや、いるはずのない味方の姿に戸惑う様子が観客の笑いを誘った。


 こうしてみると、やはり俺たちの試合で課せられた氷魔法禁止という制約がいかに不公平感のあるものか分かる。


 第一試合の強風は、両チーム共に影響を与えていた。

 飛び道具を一切使わないというチームはほとんどない。程度の差こそあれ弓矢や魔法はどのチームも使っているのだ。だからこそ強風の影響は双方共に受けることとなる。

 後はその制約条件をいかに上手く活用し、いなし、逆手(さかて)に取るかが勝敗を分ける要因だ。実際勝ち上がったチームは、いち早く強風を計算に入れて援護をすることで勝利をもぎ取っていた。


 第二試合の蜃気楼は、それこそ両チームとも大混乱に陥った。敵味方問わず出現した蜃気楼は、とことんフィールドをかき乱す。解説のおっさんによると戦った両チームの力量は拮抗(きっこう)していたらしいが、チームを襲う混乱へより冷静に対処することが出来たチームが勝ち残ったと言えよう。


 それら二試合に比べて、第三試合――俺たちの試合は制約自体が悪意に満ちている。


 我がチーム最大の戦力がティアであることは前回の試合で衆目(しゅうもく)の認めるところだし、ティアの魔法が氷属性であることは試合を見ていれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。

 そこに氷魔法禁止という制約だ。第一試合と第二試合の合間にも、不満を口にする観客が何人も居た。観客もティアの活躍を期待していたのだろう。


 正直なところを言うと、俺だって不安は感じている。

 そりゃニナやクレスのチートじみた強さは確かかもしれない。だがその他メンバーの強さは平均的な学生レベルだ。


 ラーラやエンジだって、戦えると言っても決して強い方というわけではない。

 俺やパルノに至っては言うまでもないな。


 正直なところ準々決勝まで進んで来たこと自体が快挙と言える。本来ならここで敗退しても何ら恥じることはないはずだが……。


 はあ……。バルテオットたちがここまで勝ち進んできた以上、負けるわけにはいかないよなあ。

 ったく、ティアも何だってあんな賭けに乗ったんだか……。無視しておけば良かったものを。


 もちろんそれを今さら言っても仕方ない。問題は次の試合にティアの氷魔法抜きで勝てるかどうか。元プロプレイヤーも居るチームか……、キツイな。


「先生、私たちも準備に向かいましょう」


 となりから聞こえてきたティアの声で俺は我に返る。

 見れば観客たちは思い思いに弁当を取り出したり、弁当を持参していない者は食堂へと向かっているようだった。


 お昼時ということもあって、第二試合と第三試合の間には一時間ほどの空き時間が設定されている。おかげで俺たちもこうやってゆっくりと第二試合を観戦できたわけだ。


「じゃあ、俺たちもそろそろ控え室に行くか」


 俺は気を取り直して三人に声をかけると立ち上がった。

 そろそろラーラやニナたちも戻っている頃だろう。


2021/03/28 脱字修正 準決勝 → 準々決勝

※脱字報告ありがとうございます。

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