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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

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第73羽

「いやー、勝った勝った!」

「まずは一回戦突破だね。結構ギリギリだったけど。次は二回戦――、いや準々決勝って言う方が勝ち進んだっていう実感が湧くかな」


 ご機嫌な様子で先頭を歩くニナへ、笑顔でクレスが言葉を返す。


「でもやっぱあれだね。お兄ちゃんの勘はほんとビシリだよね!」

「相変わらずレビさんの勘は無駄に的中率が高いのです」

「マジ神っすからねー! 兄貴の勘は!」

「いや、まあ……、確かに結果オーライだったけどさ……」


 皆が口々に俺の勘を賞賛してくれる。クレスだけが納得いかないといった表情だ。

 そりゃそうだな。俺だってヤマ勘を()められたところで正直反応に困る。自分の能力と言って良いのか微妙なものだしな。


「もういっそのことお兄ちゃんに全体の指揮を取ってもらおうか?」

「え!? なに言ってんの、姉ちゃん!」

「だって指示するのとかめんど……、苦手だし。クレスだって戦闘になるとそんな余裕無いでしょ?」


 いや、お前面倒って言いかけただろ。


「いま本音がポロッともれたよ!? 面倒とか言いかけたよね!?」


 代わりにクレスが突っ込んだ。


「や、やだなあ、クレス。そんな事無いよ」


 盛大に目を泳がせながらニナが答える。


「それに今日の試合だって、お兄ちゃんの指示はかなりビシビシリだったでしょ? 観測者でフィールド全体を見渡しながら指示を出せるお兄ちゃんの方が絶対適任だよ!」


 理解できない、といった風に眉をしかめるクレスだったが、周囲を見渡してその表情をさらに曇らせる。


 なぜなら周囲のチームメンバーたちが、そろいもそろってニナの言葉に(うなず)いていたからだ。ラーラやエンジはもちろんのこと、ティアやパルノ、はてはトレンク学舎チーム本来のメンバーである学生たちまでもが皆納得したような顔で頭を縦に振っていた。


 おい、お前らちょっとまて。おかしいぞ。


 いくら的中率が高いからって、どこの世界にヤマ勘だよりの指揮官を(いただ)くチームがいるんだよ。


 ……いや、戦史を紐解(ひもと)けば普通にそういう軍隊とか事例がありそうだけどさ。


「ほら、みんな納得しているでしょ? 反対しているの、クレスだけだよ?」

「う……」


 明らかにクレスは劣勢に立たされていた。


「兄ちゃんはそれで良いの?」

「俺か? むー……」


 確かに勘だけを評価されて指揮を任されるとか、正直こっちも反応に困るけど……。観測者(オブザーバー)やっているだけだと、あんまりチームに貢献できないしなあ。


 戦闘で役立たない分、多少なりとも別の方法で役に立てるなら引き受けても良いとは思う。

 そう伝えると、クレスは観念したようにため息を吐き、渋々ながらニナの提案を受け入れた。


「わかったよ、指揮は兄ちゃんに任せる」


 真面目だからなあ、こいつは。勘にチームの命運をかけたくないんだろうけど、俺だって一から十まで勘だよりってわけじゃ無えんだからさ。自分で判断できる部分はきちんと考えて指示を出すってば。


 微妙な表情で眉間へシワをよせているクレスと一緒に、俺たちはぞろぞろと控え室への通路を歩いて行く。

 まだ納得がいかないのか、クレスの歩みはいつもよりも遅い。勝利の余韻(よいん)で足取りの軽いニナたちはどんどん先へ行っているが、別に急ぐ必要も無いのでクレスにあわせて歩いて行った。


「そういえば、次の対戦相手ってもう決まっているんだよな?」


 歩きながら何の気なしに問いかけた俺へ、ティアとラーラが冷ややかな視線を向けた。


「……対戦表、ご覧になってなかったのですか?」

「今さら何を言っているのですか、レビさんは」


 え? いや、対戦相手の試合は俺たちより先に終わっているんだから、対戦相手がどのチームかは決まっているはずだろ? そりゃ対戦表とか見てないから、チーム名もろくに知らないけど。


「そういうことを申し上げているのではなくてですね――」


 あきれたように口を開いたティアの言葉をさえぎって、若い男の声が通路に響く。


「一回戦突破、おめでとうございます」


 ああ……。どうしてこいつはいつもいつも俺たちの会話に割り込んでくるんだろうな?


 聞こえてきたのは、耳にするのも不愉快な旧貴族ボンボンの声。人のことをコケにするのが生き甲斐っぽい元同級生。バルテオット・ルオ・ミーズだ。

 その声を聞いて、ティアの視線が一段階冷たさを増した。


「………………ありがとうございます」


 長い間を置いて、ティアが返事をする。本心では返事などしたくないのだろうが、なんだかんだといって育ちの良い娘だからな。祝いの言葉をかけられたにも関わらず無視するのは矜持(きょうじ)が許さないらしい。俺だったら華麗にスルーするけどさ。


 返答するまでにあいた長い間は、ティアなりの葛藤(かっとう)があったからだろう。


「素晴らしいご活躍でしたね! さすがは【白氷銀華(フロノレス)】、噂に(たが)わぬ実力でした。ティアルトリスさんなら私のチームに入っても、すぐに一線で戦えますよ!」

「誰が誰のチームに入ると?」

「それはもちろん、ティアルトリスさんが私のチームにですよ」

「そのような仮定のお話には興味がありませんので」

「いえいえ、次の試合が終わればティアルトリスさんは私のチームに入るのですから、仮定の話ではありませんよ」


 ん? 次の試合?


「まだ勝負が決まったわけではありませんし、そもそも試合開始すらしていないはずですが?」

「ティアルトリスさんには申し訳ありませんが、次の試合は我々が勝ちます。確かにティアルトリスさんの実力は素晴らしいですけど、フィールズはチーム戦ですからね。魔力なしなんて足手まといを抱えては、あなたも実力を発揮できないでしょう?」


 はいはい、俺のことはしっかり無視しているくせに、コケにするのだけはきっちり忘れないんだな、コイツ。


「まさか本気でそうお考えになっていると? だとすればずいぶん甘い考えに思えますが? ダンジョンで私と先生のペアがどれほど多くの強敵を(ほうむ)って来たか、ご存知ないようですね」


 いやいやいや。なんかそれだと俺も戦ったみたいに聞こえるけど、単に荷物持ちでくっついていただけだからな。出てくるモンスター全部お前がひとりで片付けていたじゃないかよ。


「残念レビィはただの荷物持ちでしょう?」


 ああ、その点だけはお前に同意せざるを得ないな、バルテオット。


 だがティアは何が不満なのか、さらに一段階視線の温度を落とし、能面(のうめん)のような表情でバルテオットを(にら)んでいた。


 内心思うところはあるのだろうが、それでもさっさとこの不愉快な時間を終わらせる方が良いと判断したのだろう。ティアは話を打ち切ろうと口を開く。


「これ以上お話しすることはもうありませんので、私たちはこれで失礼させ――」


 しかしティアの言葉を待たずにバルテオットの口から放たれたセリフは、銀髪少女を憤慨(ふんがい)させるに十分なトリガーとなったようだった。


「もしくはあなたに寄生して甘い汁を吸おうとしていただけじゃないですか? 魔力が無いからといって、ティアルトリスさんの優しさと強さを利用して戦利品だけ得ようなど、みっともないにも程がありますね。まるで寄生虫か金魚の(ふん)です。いえ、寄生虫や金魚の糞の方がまだマシですね。寄生虫は目に見えない分、不快な思いをしなくてすみますし、金魚の糞は金魚の体から不要なものを排出するという役に立っているのですから。寄生虫や金魚の糞の方がよほど良いですよ。虫や糞にもかなわないとは、さすが残念レビィだけのことはある」


 バルテオットはそれまで無視し続けていた俺に視線をよこすと、(さげす)むように言い放った。


 それを聞いたティアの目に剣呑(けんのん)な光が宿(やど)る。先ほどまでの冷ややかな目ではない。冷たく燃える青い炎のような、焼けつく視線だ。


「言いたいことはそれだけですか?」

「え……? ティアルトリスさん……?」


 バルテオットにもその変化が感じられたのだろう。戸惑った様子でティアを見ている。


「でしたら試合では私と先生の実力を存分にご覧いただきましょう。ドラゴンは何体ご希望でしょうか?」

「え、あ……、ドラゴンって、さっきのアレですか? ……まさか二体以上出せる……とか?」


 二体どころか八体出せるんだけどな。


「三体ですか? 五体ですか? キリが悪いので試合開始と同時に十二体出して、おひとり一体ずつにしましょうか?」


 は?

 何言ってんだよティア。学都で八体同時に出して魔力切れになっただろうが。


 あれ?

 ……でもそういえばあの時は、ドラゴン八体出す前にさんざん他の魔法も使っていたよな。もしかして魔力満タンなら十二体いけるのか?


 ……なんてチートだよ、おい。


「あ……、あう……」


 バルテオットは絶句して口をパクパクと開閉していた。

 そりゃそうだろう。一体でも元プロチーム監督を驚愕(きょうがく)させたあのドラゴンが十二体とか、俺でも笑えねえ。


 しばらく言葉を失っていたバルテオットだが、かろうじて我を取りもどすと舌をもつれさせながらも反論する。


「そ、それでも、わ、私のチームが勝つことにかわりはありませんよ。テ、ティアルトリスさんはゆっくりと、か、観戦でもしていただければ良いのです」


 負け惜しみにしか聞こえないセリフを残して、バルテオットが立ち去っていった。

 何という小者感。


 しかし、この話の流れは……。


「もしかして次の対戦相手って、あいつのチーム?」

「もしかしなくてもそうですよ」

「レビさん、レビさん。これで次の対戦相手じゃなかったら、私たちもあの男も盛大に空回りしているただのアホウです」


 ですよねー。


 しかし、バルテオットのヤツもなんだかんだといってトーナメントの準々決勝まで進んできているんだな。なるほど、デカイ口を叩くだけのことはある。


 油断は禁物だが、正直さっきの様子だとなんとかなりそうだ。ティアの言葉に絶句していたくらいだからな。こっちの戦力を全然読みきれていなかったんだろう。

 もっとも、ティアのチート力を見破れというのがどだい無理な話なんだが。


「でもちょっと気になることを言っていたよね。ティアさんに『観戦していろ』って……。うちはメンバー数がギリギリなんだから、ティアさんが出場しないということはないんだけど」


 ティアとバルテオットのやりとりを一歩引いて見ていたクレスが疑問を口にする。


 確かにそうだよな。「観戦していろ」と言われて、こっちが素直にそれを聞き入れるわけがないことは誰だってわかるだろう。うちのチームにとって、ティアの戦力が大きなウェイトを占めていることは明らかなわけだし。


 ということは、出場したくても出来なくさせる、あるいは出場を自らとりやめさせるという意味で言ったのだろうか。


「兄ちゃん、ティアさんの身辺警護した方が良いんじゃないかな?」

「レビさん、レビさん。ルイの身に何かあってからでは遅いです! すぐにルイを迎えに行きましょう!」


 俺と同じ懸念(けねん)を抱いたのだろう。クレスとラーラがそれぞれの不安を口にする。クレスは試合前にティアの身へ害が加えられることを危惧(きぐ)し、ラーラはルイの身を同じように案じた。


 うーむ……、いくらバルテオットでもたかが地方のフィールズ大会、しかも二回戦の勝敗程度でそこまで手を回すとはさすがに思えないのだが。万一と言うこともあるしな……。


「私のことでしたらご心配なく。行き帰りには護衛もつきますので」


 そんな俺たちの(うれ)いをよそに、平然と銀髪少女が口にした。


 まあ、実際そうだろうな。ティア自身の強さが尋常(じんじょう)ではないのに加え、側に居る護衛はもちろんのこと、影から護衛している人間もいるんだろうし。――いつぞや見た黒装束の人とか。


「ただ、ルイの方は確かに不安が残りますね。大会が終わるまで、あまりルイを家から出さないようにしておきましょう。外出するときは私が必ず同行するようにします」

「ってことだ、ラーラ。ルイのことは心配す――、あれ? ラーラは?」

「ラーラさんならさっき凄い勢いで控え室の方へ向かって行ったよ? 走って――というか半分浮いているような感じで」


 ああ……、さすが自分の欲望に素直な女ラーラ。即座にルイのいるところへ駆けていったのだろう。クレスの話を聞く限り、魔法まで使って全速力で。


「……じゃあ俺たちも控え室に戻るか」


 数分後、俺たちが控え室へ戻ったとき目にしたのは、ルイをヒザの上に座らせて後ろからしっかりと抱きかかえた状態のラーラだった。






 翌日は一回戦二日目ということで、俺たちの出番は無し。

 憂慮(ゆうりょ)していたティアやルイへの危害もなく。拍子抜(ひょうしぬ)けするほど何も起こらなかった。


 なんだ。ただの杞憂(きゆう)だったか。


 そう安堵した俺が驚きに目を見張ったのは、準々決勝となる試合当日の朝――、各試合のフィールド情報が公開されてからだった。


「なるほど、そう来ましたか」

「うわあ、これって偶然? なわけないっすよねえ」

「ゲスい男にふさわしいやり口です」


 ティア、エンジ、ラーラが口々に言う。


 そりゃそうだろう。納得できるか、こんなの!


「ちょっ! ふざけんなよ! なんだよこれ! 一回戦の試合見ておいて、こんなフィールド設定するか、普通!? これ決めたやつ、どこのどいつだよ! ちょっくら責任者出てこいやあ!」


 今俺たちの前には、今日の試合で使われるフィールドの設定情報が掲示されている。


 俺たちが出場するのは昼からの第三試合。


 そのフィールド設定はこうなっていた。




『第三試合 【フィールドタイプ 市街地】【フィールド制限 ()()()使()()()()】』



2021/03/28 誤字修正 読めきれて → 読みきれて

※誤字報告ありがとうございます。

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