表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/197

第68羽

 突き抜けるような青空。照りつける日差しがジリジリと肌を焼いていた。

 俺たちは今、フィールズの大会が開催されている競技場へと向かっているところだ。


 予備日兼休養日の一日をはさみ、いよいよ本戦のトーナメントが開始されるとあって、競技場周辺はにぎわっている。予選の時にはまばらだった人の波も、やはり本戦ともなればずいぶんと違うらしい。


「結局兄貴はスリングショットっすか?」

「ああ、当たらなくても牽制くらいにはなるだろ?」


 エンジの問いかけに、俺は左腕に固定したスリングを構えてみせる。


「下手に相手を刺激するだけのような気もしますが……」


 横から冷静に指摘をするのは、飛び道具など持たなくても氷の魔法で射撃戦を制することが出来るアシスタント少女だ。

 一応俺の身を案じてくれているのだろう。……多分。


 そんな会話をしながら、俺たちは競技場の選手出入口をくぐっていく。控え室に進むと、すでにいくつかのチームが待機していた。


 決勝トーナメント一回戦に進んだのは全部で十六チーム。八試合を二日でこなし、その後三日をかけて優勝チームを決定するという流れだ。


 今日は一日目ということもあり、半数の八チームが出場する。予選時のごったがえした控え室とはうって変わって、プレイヤーの数は少ない。だが独特の緊張感を漂わせた雰囲気は、無色の圧力となって予選時よりも息苦しさを感じさせた。


 ま、例のダンジョンで命がけの戦いを繰り広げた事に比べれば、重苦しい空気とはいえこの程度どうってことないがな。


「ニナ、俺たちは何試合目が出番なんだ?」

「三試合目だよ、お兄ちゃん」


 相手はどこぞの学生チームだったっけか? 同じ学生同士なら、こちらにも勝ち目はありそうだ。


 そう口にした俺へ、クレスが神妙な顔を向けて言う。


「兄ちゃん。確かに相手は学生チームだけど、ただの学生チームじゃないんだよ?」

「どういうことだ?」

「学生チームは学生チームでも、学生限定の大会で準優勝した全国レベルのチームだからね。その辺の草チームとは比べものにならないくらい強いはずだよ」


 げ! マジかよ!?

 学生の全国大会で準優勝!?

 それって甲子園準優勝のチームが出場しているようなもんじゃねえか!


「もちろん僕らだってすてたものじゃないと思うけどね。本戦トーナメントからはフィールドの環境も変わるだろうし、上手く試合を運べば勝てない相手じゃない」


 ほほう。頼もしいな、我が弟よ。

 では、兄はせいぜい身を隠して邪魔にならないよう、がんばるとするか。




 俺たちの出番はすぐにやってきた。

 予選と同様、係員の誘導にしたがって競技場のフィールドへ足を踏み入れると、客席からの大歓声が出迎える。


『続いて第三試合! オルボ学院フィールズ部対、トレンク学舎(がくしゃ)フィールズ部! ただ今選手たちが入場して参りました!』


 俺たちの入場にあわせて、競技場いっぱいにアナウンスが流れる。反対側の入口からは本日の対戦相手『オルボ学院フィールズ部』が同じように入場して来ていた。


『オルボ学院のフィールズ部は皆さんご存知でしょう。先だって開催された学生限定のフィールズ大会で、全国のフィールズ部が集まる中、準優勝の栄誉に輝いた強豪チームです!』

『エー、学生チームと言えども、その実力には疑いの余地がありませんからね。エー、大半が社会人チームとなる本戦で、どこまで健闘してくれるのか非常に楽しみです』


 相手チームを紹介する男性の声に続いて、初老男性らしき別の声が解説をする。


『申し遅れましたが、この試合、実況は私ランドレイ。解説は国立フィールズチーム、ブレイバーズの元監督を務められましたマーベルさんでお届けいたします』

『よろしくお願いします』

『さて、マーベルさん。対するはこちらも学生主体のトレンク学舎フィールズ部です。社会人が数人混じっているようですが、それでもやはり大半が学生のチームというのは珍しいですね?』

『そうですね。しかも多くの社会人チームを押しのけて本戦出場を果たしているわけですからね。トレンク学舎もその実力は確かでしょう。エー、惜しむらくは本戦に進んだふたつの学生チームがいきなり一回戦でぶつかってしまったことでしょうか』

『そうですね。こればかりは抽選の結果とはいえ、何とも残念な気がします』


 試合開始を前に準備運動をしている選手たちへ、観客席から応援の声が向けられている。


 予選とは違い、競技場を目いっぱい使ったフィールドは、フィールズ公式ルールで定められた広さだ。

 加えて観客席から見える立体スクリーンには、フィールドの複数地点を同時にカバーするカメラからの映像が映し出されていた。

 すでに二試合を観戦し、観客たちはテンションも上がっているようだ。競技場中に熱気のこもった歓声がこだましている。


『さて、第三試合のフィールドタイプは森林ですね。この設定、試合にどのような影響があると思われますか?』

『エー、いわゆる標準的なフィールドと比べて相手の動きが非常に読み辛くなるのが特徴ですね。エー、大事なのは敵チームの本陣をいかに早く発見し、それとは逆に自陣を発見されにくくするかでしょう。エー、森林タイプではプレイヤー同士の動きも把握しにくくなるので、微妙な小競り合いでポイント判定になることが多いです。エー、その分、本陣を強襲してしまえばそのポイントだけで勝負が決まることも多いと言えるでしょう。試合運び次第ではトレンク学舎チームにも十分勝機はありますよ』

『なるほど、実力差が単純に勝敗を分けるフィールドではないと言うわけですね』


 解説のずいぶん失礼な物言いも仕方ないだろう。なんせ相手は学生限定とは言え全国大会で準優勝したチームだ。試合前の下馬評は、オルボ学院優勢とみるものばかりだった。


 まあ、予想通りの結果となるかどうかはやってみなきゃわからんだろう。オルボ学院の勝ちは堅いと思ってるヤツらへ、目にモノ見せてやるさ。………………ティアたちが。


『さあ、両チーム共に本陣の設置が完了したようです。今、審判が……、試合開始を告げました!』


 試合開始の宣言と共に、チームメンバーが動き始める。

 あたりは見渡す限りの木、木、木。五人小隊を組んだメンバーたちはあっという間に見えなくなってしまった。


 もちろん相手チームは最初から見えていない。本陣がどこに設置されたか、観客たちが見るスクリーンには表示されているが、当然それは俺たちプレイヤーの眼に映ることもないのだ。


 オルボ学院の情報はそれなりに入手できている。全国大会で勝ち進んだチームだけに、専門誌で特集が組まれたこともあるからだ。

 それによると、彼らは主に五-七の変則ツーピースで戦うらしい。観測者(オブザーバー)が一名と、斥候(せっこう)兼観測者が一名。小隊(ピース)にそれぞれ付くというのが俺たちとの違いだ。


 俺たちの場合、観測者たる俺とパルノが完全に戦力外のため、小隊(ピース)から独立して待機している。その分小隊の戦力は落ちてしまうが、それはニナやティアたちの力でカバーするしかない。


「まず相手の動きを探らないことには始まらない。兄ちゃん、パルノさん、しっかり観測頼むよ」


 片耳に装着したヘッドセットからクレスの声が聞こえてくる。端末で受信した通信はワイヤレスのヘッドセットに送られてくる。ときおり吐き出す息が強く聞こえるのは、移動しながら話しているからだろう。


「あんまり期待するなよ? こっちは視力強化もできねえんだから」


 俺はヘッドセットに付いたマイクへそう返答した。

 もちろんできる限りのことはするつもりだが、俺の場合その『できる限り』が人より狭いのだ。過剰な期待をされても困る。


「レ、レバルトさん。私はどうしたら良いんでしょうか?」

「そうだな……、戦えない二人が雁首そろえて本陣にいても仕方ないからな。俺はちょっと前に出て敵の様子を探ってみるから、パルノは本陣の監視を頼む。少し離れたところから見ていれば良いから。敵に見つからない事を優先させろよ」

「は、は、はい!」


 見るからにガチガチなパルノを本陣付近へ残し、俺は単独でフィールド中央部へと慎重に進んでいった。

 ヘッドセットからはときおり状況を知らせる声が聞こえてくる。まだ両小隊ともに接敵していないらしい。


 俺は端末で自分の位置を確認しながら、自陣とフィールド中央のちょうど中間あたりで足を止めた。

 身を隠すのにちょうど良さそうな木を見つけて登ると、生い茂った葉の影に潜む。


『さあ、各チームのプレイヤーがフィールドに散らばります。相手の姿が見えないフィールドということもあって、まずは静かな立ち上がりです』

『エー、森林フィールドでは(あせ)っても良いことはありませんからね』

『まずは相手の本陣、あるいは相手プレイヤーの位置を探るのが非常に重要な森林フィールドです。さあ、先に動きを見せるのはどちらのチームでしょうか?』


 ちなみに実況解説陣には全プレイヤーの位置が丸見えである。明らかに隠密行動を取っているプレイヤー以外はスクリーンにその姿が映し出されるため、観客にもプレイヤーたちの動きはよく見えているはずだ。


「レ、レ、レバルトさん!」

「ん? どうしたパルノ?」

「え、えーと……、その……」

「なんだ? 異常でも見つけたか?」

「ひ、……ひとりは怖いです!」

「………………そうか。頑張れよ!」

「レ、レバルトさぁぁぁん!」


 突然パルノからの通信入った為、あわてて応答してみたが何のことはない。お前はかくれんぼをしていても、寂しさのあまりわざと鬼に見つかろうとするタイプだろ?


 情けない声をあげるパルノを適当にあしらいながらも、俺は周囲を見回してみる。

 しかし見渡す限り視界に入るのは緑の木々だけだ。何も動く気配はない。ときおりヘッドセット越しに聞こえる通信を聞く限り、ニナやクレスたちの方もまだ動きはないようだった。


 どれくらいの時間が経っただろう?


 感覚的にはずいぶん長い時間じっとしていたようにも感じるが、実際には二、三分程度の短い時間だったのかもしれない。パルノの泣き言を聞き流しつつ様子をうかがっていると、それまで静けさに包まれていたフィールドに突然変化が訪れた。


 本陣を背にした俺の左方向、フィールド全体で見れば西側で爆音が轟く。爆発系の魔法を誰かが使ったらしい。


「うわぁー! 敵襲ー! 敵襲ー! いきなりどかーんって来たよ! どかーんって!」

「落ち着いて姉ちゃん! 敵の数は!? 被害は!? 場所はどこ!?」

「ニナ先輩は敵に向かって突撃中です、クレスさん! 敵は見えている限りで四人! 二名が爆発に巻き込まれましたが軽傷です! 場所はB-6エリアです!」


 見敵(けんてき)即特攻を信条とするニナに代わって、A小隊(ピース)のメンバーがクレスへ返答する。


「わかった、僕たちもすぐに向かう! あまり突っ込みすぎないように気を付けて!」


 クレス達B小隊もニナ達に合流すべく移動を開始したようだ。


 ヘッドセットからは爆音や武器を打ち合う音、そして誰のモノとも知れぬ雄叫びが聞こえてくる。それはニナたちA小隊がまさに今、戦いに突入していることを教えてくれた。


 開始から十分。ようやく試合が動き始める。


2015/06/03 修正 敵影は見えている限りで四人→敵は見えている限りで四人

2015/06/06 誤字修正 心情とする→信条とする

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ