表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/197

第65羽

 鎖かたびらを着込んだおっさんが吹っ飛んだ。

 いかつい顔のおっさんも吹っ飛んだ。

 お前さん、フィールズの大会に出るよりも先にまずダイエットしろよ、とつっこみたくなるようなおっさんも吹っ飛んだ。


 試合開始と同時にいきなり前衛プレイヤーが吹き飛んだ相手チームはもちろんのこと、味方チームのメンバーも突然の出来事に呆然としている。


 なんぞトラブルが? という考えが頭をよぎったのも一瞬のこと。次の瞬間にはその原因をなんとなく察することができてしまった。

 というのもおっさんたちが吹き飛んだ爆発が少々特殊で、おまけに見覚えもあったからだ。


「まずは三人」


 平然と言い放つ少女の背中には、エプロンドレスの紺地に映える長い銀髪が爆風で揺れていた。


「やっぱりお前かー!」


 近頃さんざんダンジョンで見せつけられていた、ティアお得意の攻撃魔法だ。白一色の、見方によっては涼しげにも見える爆発は、氷の塊を一気に破裂させた結果である。


「む、何かご不満が?」


 非難じみた俺のつっこみに、心外だと言わんばかりのティアが視線を向けてくる。


「あー、いや。別に試合だから相手倒してどうこう言うつもりはないけど、いきなりぶっ放すんなら事前に教えてくれよ。味方まで動揺しているじゃねえか」

「レビさんレビさん。今はそんな事言っている暇はありませんよ。向こうも立ち直ってきました」


 ラーラの言う通り、突然の爆発と予想外の被害を乗り越えて相手チームは体勢を整えつつあった。俺とパルノはあわてて岩陰へと身を隠す。


 先ほど吹き飛ばされた三人のおっさんは早々に死亡判定を受けたらしい。すでにその姿は見えず、おそらく控え室に設置された帰還ポイントへ強制転移させられたのだろう。


 ダンジョン同様に、フィールズの試合では会場全体が特殊なシステムでカバーされている。例え剣で斬りつけられても、魔法で焼かれても傷を負うことはない。ちょっと痛みがある程度だ。

 累積負傷も含め、致命傷と判定されるほどの傷を受けた場合は強制的に戦闘エリア外へ転移させられる。この会場ではそれが控え室になっていた。


 ティアの魔法をまともに食らったおっさん三人は軽やかに宙を舞った後、地に落ちてくることはなかった。おそらく吹き飛ばされた時点で死亡判定を受け、そのまま空中で転送されてしまったのだろう。

 さすがに試合開始直後で前衛三人がやられるというのは想定外だったろうに、相手チームはもう混乱から立ち直っていた。もっとも、こっちも同じように動揺していたから相手の混乱をつくことが出来ず、せっかくの優位性が差引ゼロになってしまっただけなんだが……。


 残る相手チームのメンバーは九人。

 前衛っぽいのがふたりと後衛っぽいのが五人、残りのふたりはパッと見たところ判断がつかない。軽装だけど前衛かも知れないな。前衛三人が早々に退場したため、かなりアンバランスな構成だ。

 ちなみに全員おっさんだった。一番若そうな男もギリギリ『青年?』と言えるか言えないかといったところだ。まさに町の草チームといった感じである。


「A小隊(ピース)はドカーンって行くよ! B小隊(ピース)はひゅいんってやって!」


 一応チームリーダーであるニナの口から指示が飛ぶ。だが味方の俺でも全く理解ができない指示の出し方だった。

 そんなので伝わるのか? とかなり不安になるが、とりあえずクレスは了解の返答をしている。すげえなクレス。あれが理解できるのかよ。


 ニナが口にした意味不明の指示にも混乱することはなく、味方のメンバーが動き始める。A小隊(ピース)の方はリーダーのニナへ付いていけば良いのだし、B小隊(ピース)の方はクレスが率いているから、メンバーはそれぞれについていけば良いということなのだろう。


 クレスは迷いなくメンバーへ指示を出してA小隊(ピース)の援護にまわり、ジリジリとポジションを移動させながら相手の隙をうかがっているようだった。

 『ひゅいん』ってのは遊撃ポジションから隙を見て一撃加えろってことなのかな。よくわからん。


 ニナ率いるA小隊(ピース)が相手チームと接触する。A小隊(ピース)の五人に対するのは相手チーム六人だ。A小隊(ピース)だけで見ると数的不利だが、こちらは遊撃のクレスたちB小隊(ピース)が居る。

 対して相手チームの人員は戦闘へ突入した六人をのぞけば、本陣を守る三人しかいない。俺とパルノは戦力外だとして、それでもこちらの方が数は多いのだ。


「いっくよー!」


 脳天気な声とは裏腹に、ニナの一撃が相手剣士の脳天へ的確に叩きつけられる。もちろんフィールド内では怪我もしないし流血もしない。だがそんな致命的打撃を何の戸惑いもなくくり出す妹がちょっと怖いだけだ。


 どうやらA小隊(ピース)はニナが特攻して、それを他のメンバーが支援するといった戦い方らしい。

 三人の敵に囲まれながらも嬉々として剣を振り回す我が妹だが、人数の不利をまるで感じさせない余裕の戦いを見せていた。


 俺と同様、岩陰から戦況をのぞき込んでいたパルノがぽそりとつぶやく。


「妹さん、強いんですね……」

「……まあ、あんなんでも学舎じゃあトップクラスの成績らしいからな」


 理不尽な話だよ、まったく。


 一方のB小隊(ピース)はというと……、あれ?

 一直線に敵本陣目がけて突っ込んでいるけど、いいのか?

 『ひゅいん』ってのは本陣強襲のことなのか?


 見ればクレス率いるB小隊(ピース)がまっしぐらに敵の本陣へ向けて駆けだしていた。 本陣を守る相手チームの三人が構えるところへ、まずはティアの魔法が飛ぶ。


「我望む。永久(とわ)を奏でる白乙女(しらおとめ)息吹(いぶき)よ。咎人(とがびと)(なんじ)()てつく抱擁(ほうよう)を! フロストシェクル!」


 いつぞや、学都で絡んできたチンピラへ使った魔法だ。あの時は腕を軽く凍らせただけだったが、今は手加減をする必要が無いのだろう。本陣にいた相手チームの三人は、ヒザから下を瞬時に氷でかためられ動けなくなった。


「ぐわっ! う、動けねえ!」

「早く解除しろ!」


 移動を封じられあわてる三人へ向けて、今度はラーラの攻撃魔法が炸裂する。


「ロックシェルズ!」


 地面から無数の岩が浮かび上がり、相手のひとり目がけて高速で放たれた。


「いてっ! いててて!」


 哀れな犠牲者はティアのせいで回避行動も取れずに岩の砲弾を食らってしまう。盾でも持っていれば多少は防御できたのだろうが、ローブに身を包んだそのおっさんは見たところ前に出て戦うタイプではなさそうだった。

 フィールド内で受けるダメージはハリセンで叩かれる程度だろうが、そうは言っても何十発も食らうのだからうっとうしいことこの上ない。


「むぅ……、火力不足でした」


 残念そうに空色ツインテールがぼやく。

 ラーラの言う通り、相手はまともに攻撃を食らったにもかかわらず、死亡判定を受けるまでではなかったようだ。


「それじゃあ、後は僕が」


 ラーラに続いてクレスが魔法で風を放つ。風とは言っても自然に吹くような生やさしいものではない。触れれば切り裂かれる危険な烈風が、本陣の旗周りに居る三人全員を巻き込んで吹き荒れる。


 風が止んだ時、三人の姿はすでに見えなくなっていた。死亡判定を受けて強制転移させられたのだろう。


「えーと、オレ出番無かったっすね」


 離れた位置からの魔法三連発で片付いてしまったため、前衛担当のエンジは何もすることがなかったようだ。同じくB小隊(ピース)メンバーである重装甲士の男子生徒も所在なさそうに大剣をぶらぶらと振っていた。


「やべえ! 本陣が!」


 本陣側全滅を見て取った相手チームのリーダーらしきおっさんが慌てふためく。

 いくら目の前にいるニナたちを倒したところで、本陣が占拠されればそこで負け確定である。もっとも、現状ニナたち――というかニナひとりに押されっぱなしのおっさんたちに本陣を守るだけの戦力を割く余裕などない。


「よそ見してるとー、――――後ろからごつーん!」


 本陣へ一瞬気を取られた相手チームリーダーに、ニナの剣撃が容赦なく襲いかかる。


「しまっ――」


 その油断を悔やむ間もなく、おっさんリーダーは死亡判定を受けて転送されていった。


 残る相手は四人。


「ちょっとクレス! ひどいじゃない! ひゅいんって言ったのにー!」

「ごめん姉ちゃん。なんか本陣強襲する方が早そうだったんで」


 どうやら本陣を襲ったのはクレスの独断だったらしい。というかニナが文句言わなかったら『ひゅいん』は『敵陣を襲う』という意味で納得していたところだったよ、きっと。

 しかし何というか……、よくそんなので連携取れるよな。ひとえにクレスの理解力前提なんだろうけどさ。


 すでに戦況はこちら側の圧倒的有利で進んでいる。A小隊(ピース)はニナが敵チームのふたりを相手にしているため、残りの四人で敵ふたりを囲んでいる状態だ。よほど力量差がない限り負けないだろう。

 おまけに敵の本陣はクレスたちが支配下に置いているのだ。このまま三分経てば本陣占拠となり、その時点で俺達の勝ちとなる。


 もちろんここまで有利な状況になったなら、時間切れまで待つ必要もない。本陣そばにティアたちを残して、クレスと重装甲士がA小隊(ピース)の援護に向かって行った。援護っていうよりダメ押しって感じだけど。


 正面のニナたちに加え、後ろからクレスたちの攻撃を受けた相手チームは、さすがに耐えきれなくなる。本陣占拠の三分を待たずして、あっという間に相手チーム全員が死亡判定を受け全滅した。


「よーし! 完勝だー!」


 ニナの雄叫びが響く。


 終わってみれば一方的かつ圧倒的な試合展開だった。最初にティアの一撃で相手の前衛三人が離脱した時点で、趨勢は決していたということだな。


 ともあれ、初戦を突破できたのは良かった。俺とパルノ、ふたりの戦力外メンバーを抱えているのだから、まともな試合にならないという事だって考えられたのだ。


 ……まあ、あれか。

 ティアとニナ、そしてクレスの三人が居れば、ふたり分の戦力不足くらいは簡単にカバーできてしまいそうだが……。


2015/4/19 話数間違いを修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ