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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる
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第63羽

 その後、俺達はニナからチームメンバーの紹介を受ける。


 当然この場に居るのは『幸運にもニナの料理(ダークウエポン)を食べずにすんだ買い出し組』と、『その毒牙にかかりながらもかろうじて大会までに回復をなしとげた強者組』だ。


 人数は合わせて五人。


 両手斧を武器とする男子学生。(十一.六レバルト)

 標準的な長さの剣を扱う男子学生。(八.二レバルト)

 重厚な全身鎧に身を包んだ男子学生。(十二.三レバルト)

 長弓を背負った女子学生。(六.六レバルト)

 ラーラと同じような装いの女子学生。(九.〇レバルト)


 ……なあ、ニナ。


 その『レバルト単位』とかホントに必要か?

 単にお前が楽しんでるだけじゃねえの?


 そんな俺の思いなどお構いなしにクレスが話を引き継いで、フォーメーションを説明しはじめる。


「基本は五-五-二のツーピース。展開によって三-三-三-三のスクエア、振り分けはこんな感じです」


 壁に掛けられた作戦版にクレスが配置とメンバー名を書き込んでいく。

 ホワイトボードのようなそれは、魔力に反応して色を変える素材で出来ているため、軽くなぞるだけで文字や図が書ける優れものだ。

 消去するときは横にあるボタンを押すことで、板に付着した魔力が拡散して真っ白になるという仕組みらしい。

 当然魔力のない俺が触っても色は変わらず真っ白なままである。くそお。


「兄ちゃんとパルノさんは観測者(オブザーバー)をお願い」

「ああ、まあそれくらいなら」

「え、と? 観測者(オブザーバー)って何ですか?」


 きょとんとした顔でパルノが訊いてくる。ってか、そんな事も知らないのか?


「お前、学舎でフィールズとかやったことないの?」

「う……、その……。私の育ったところって生徒数が少なくて、フィールズやる人数が足りなかったんです」


 どんな過疎地で育ったんだよ、一体……。


観測者(オブザーバー)っていうのはですね、パルノさん」


 横からニナが口を挟んできた。


「相手の動きをジローッって見ておいて、向こうがダーッとかしてきたらみんなに知らせたりする仕事ですよ。あとは味方にもっとビュって行けー! とか言ったりするんです」

「あ……、え?」

「つまり要約すると、敵の動きを見て味方に知らせたり、味方を誘導したりするのが役目だ」

「そうそう! そんな感じ!」


 俺がニナの言葉を翻訳すると、ようやくパルノも理解できたようだ。というかニナ、お前は黙っとけ。パルノを余計に混乱させるだけだから。


「ま、無難なところだろうな。俺やパルノが前に出たところで良いカモだろうし」


 横を見ればパルノも首をブンブンと縦に振っている。


「それじゃあフォーメーションはそれで良いとして、連係についてもちょっと確認を――」

「ティアルトリスさんじゃないですか!」


 説明を続けようとしたクレスの声を、男の言葉がさえぎった。


 おいおい、この声って……。


 一人盛り上がっている男の声に聞き覚えがあった俺は、嫌々ながら振り返る。

 そこにいたのは少し細身の体とややつり目気味の目をした男、ダンジョンでもティアへ言い寄っていた元同級生のバルテオットだった。


 バルテオットは俺達など眼中にないかのごとく、ティアひとりへと歩み寄りって笑みを浮かべながら話し続ける。


「もしかして私のことを応援しに来てくれたのですか? 何と光栄な!」


 こいつアホだろうか?

 今俺達がいるのはフィールズ出場選手が待機する共通控え室だ。選手以外はこの場に入ることは出来ない。もちろんティアが実家の特権を振りかざせば特別に入室することはできるだろうが、そんな事をする必要はどこにもないのだ。

 何をどう考えたら、ティアが自分を応援するためにやってきたとかいうセリフが口から出てくるのだろうか。自意識過剰にも程がある。


「いえ、違います」


 当然のごとく銀髪少女が即座に否定した。


「でしたらどうしてここに?」

「見てわかりませんか? 大会へ出場するためです」


 そう言いながらティアが自分の剣を軽く持ちあげる。

 バルテオットはその答えを聞いて、(いぶか)しげな視線を周囲へ送る。その先にいたのが俺だと気づくと、(さげす)んだ表情を浮かべつつ、「ふんっ」と鼻で笑った。


「まさかとは思いますが、そこの『残念レビィ』と一緒にではないですよね?」

「まさかも何も、それ以外に見えますか?」


 相変わらず感情のかけらもない、硬く冷たい声でティアが言う。

 それを聞いたバルテオットは、信じられないとでも言いたそうな顔でティアへ翻意(ほんい)(うなが)した。


「あんなのと一緒にいたら、世間に良からぬ噂を立てられてしまいますよ。第一、魔力ゼロの人間なんて何の役にもたたないでしょう? 悪いことは言いませんから、すぐにでも出場を取り消した方がティアルトリスさんのためです。どうしても出場したいのであれば、私のチームに来ませんか? メンバー提出の締め切りはとうに過ぎていますが、なあに、私の父に言えばなんとでもなります。今からでもこちらへ移りましょう」


 うわ、さらっと権力ごり押しを匂わせやがった。


「お断りします」

「あなたのような方はご自身の周囲にいる人間も選ばなくてはダメですよ。ティアルトリスさんにふさわしいチームは私のところしかありません。うちは由緒正しい生まれの人間しかいないのでご安心ください」

「拒否させていただきます」


 間髪入れず断るティアへ、なおもバルテオットが食い下がる。しつこいな、こいつも。


「なぜですか!? 大会に出場しても負けるチームにいては何の意味もありませんよ。勝ちたいのなら勝てるチームへ入るべきじゃないですか!? 残念レビィみたいな足手まといがいたら、予選も突破できませんよ!?」

「別に勝ちたいから出場するわけではありません」

「じゃあ何のために出場するんですか!?」

「私は先生のアシスタントですから」

「はあ?」


 ドヤ顔で断言するティアの言葉に、バルテオットがマヌケ面をさらす。何を言っているのか理解できない、って顔してるわ。

 まあ、俺もティアが何言っているのか意味わからんし、そこでドヤ顔する意味はさらにわからんけど。


「な、なんでアシスタントがそこで関係してくるんですか!?」

「アシスタントが先生の身を守るのは当然のことです」


 え? そうか? 当然? ……ではないと思うんだが。


「そ、その前にどうしてティアルトリスさんが残念レビィのアシスタントをしているんですか!?」

「勤続三周年です。このまえボーナスもいただきました」


 えっへん、とでも言いたそうなくらいティアが胸を張る。


「さ、三年…………!」


 一方、バルテオットの方は絶句という表現がぴったりな表情で固まるが、すぐに再起動するとティアへつかみかからんばかりに迫って言う。


「もしや、残念レビィに何か弱みでも握られているのでは!?」

「そのような事実はありません。あと近いです。離れてください」

「なんと哀れなティアルトリスさん! ああ、それを知ってはなおさら黙って見てはいられません!」

「放って置いてもらえると嬉しいのですが」

「必ずあなたを救い出して見せます! 辛いでしょうが、少しだけ私に時間をください!」

「余計なお世話ですね」


 ティアのセリフもかなりぞんざいになってきている。さすがにうんざりしてきたようだ。


「残念レビィ!」


 そんなティアの態度などお構いなしに、バルテオットは俺に人さし指を向けると言い放った。


「どんな手段を使ったのかは知らないが、卑劣なことをしやがって!」

「勝手に決めつけんな」


 相変わらず自分にとって都合の良い言葉しか耳に入らないんだな、こいつ。


「私と勝負しろ!」

「やだよ」

「残念レビィのくせに逃げるのか!?」


 どんな理屈だよ、それ。


「私とお前のチーム、どちらがトーナメントで先に進めるか勝負だ! 私が勝ったらすぐにティアルトリスさんを解放するんだ!」

「その勝負、俺に何のメリットがあるんだよ? 第一、解放するも何も、別に俺が拘束(こうそく)しているわけじゃねえっての」


 ため息混じりに答えると、バルテオットはまたも鼻で笑う。


「ふん、さっそく言い訳か? 相変わらず口だけは達者だな。どうせ結果はわかっている。早いか遅いかだけの違いだ。今すぐ彼女を解放すれば許してやろう。お前のような能無しが、のこのこ試合に出て無様な姿を町中にさらすのは別に構わんが、同じチームのティアルトリスさんがそれで迷惑をこうむるのはいただけん。この場で謝罪をして、二度と彼女に近付かないと誓うなら見逃してやらんこともない。あ、そうそう、謝るときは土下座して頭を地に着けろよ。許しを請うならそれくらいの誠意は見せろ」

「良いでしょう、その勝負受けて立ちます」


 相手にするのも馬鹿馬鹿しいので、俺は学生時代と同じように適当に聞き流していたが、そこへ余計な反応を見せたのは銀髪少女本人だった。


「え……? ティアルトリスさん?」

「おい……、ティア」

「そこまでおっしゃるのなら、勝負を受けると申し上げているのです」


 こんなの相手にせず放っておきゃいのに……、なんでそこでつっかかるんだよ。


「あなたのチームが私たちより上位成績をおさめた場合、お望み通り私は先生のアシスタントを辞します。それでご満足ですか?」

「え、ええ。もちろん……」

「では私たちが勝った場合ですが、……そうですね。あなたが今身につけている装備一式をいただくということでよろしいでしょうか?」

「へ? ……あ、いや、私のチームが残念レビィに負けることはありませんから、そのご心配は必要ないですよ?」

「何をおっしゃっているのかわかりませんが、それでは賭けが成立しません。ではこの勝負自体なかったことにいたしましょう」

「いや、そ、それは困る! ……わかりました。あなたの自由を勝ち取るために私はこの装備一式を賭けましょう!」


 ティアにおされてバルテオットが賭けを承諾する。賭けの対象であるティア自身が、賭けを受けるとかわけわからん。


「これで賭けは成立です。証人はこの控え室にいらっしゃる選手の方々ですよ。約束は違えぬよう心しておいてください」

「もちろんです。必ずあなたを救い出してみせますから! 残念レビィ、せいぜい予選落ちしないよう、無様に逃げ回れよ。このバルテオット様自ら決勝トーナメントでお前に引導を渡してやるから」


 バルテオットはティアへ向けてそう言うと、俺に捨てゼリフを残し自分のチームが居る場所へ戻っていった。


「なんというか、兄貴。相変わらず全然嫌われてるっすね」

「あの男は嫌いです。口調は丁寧ですが下心が透けて見えます」


 場が落ち着いたのを見てエンジとラーラが俺の側へやってくる。ふたりとも俺と一緒に居ることが多いため、これまでにも何度かヤツと遭遇(そうぐう)している。俺と同じくヤツには良い印象を持っていないようだ。


「ふがー、むごむがが! んごー!」


 ちょいと横を見れば、クレスがニナの口を手で塞ぎ、もう一方の手で体を抑えていた。ひとりでは抑えきれなかったのだろう、両手をそれぞれ斧武器と全身鎧のチームメイトが抑えていた。


「ムキー! 何よあのツリ目男は! お兄ちゃんの事さんざん馬鹿にしてー! 首キューの刑だ! 極刑だー!」


 バルテオットが立ち去って、口を塞いでおく必要がなくなったのだろう。言論の自由を取りもどしたニナが騒ぎはじめた。


「放してクレス! ニナは今からツリ目男をケチョンケチョンにしてくるんだから! ギャフンって言うまで許してやらないんだからー!」

「まあまあ、姉ちゃん。落ち着いて」

「落ち着いてられっかー!」

「ここで騒ぎを起こしたら失格になっちゃうよ」

「む……」


 さすがのニナも失格にはなりたくないだろう。大会のためにずっと練習をしてきたチームメンバーたちのがんばりを、個人的な問題で無駄にするほど馬鹿じゃないはずだ。


 ニナの耳元で、普段爽やか系で通っているクレスがニヤリと笑う。


「それにさ、姉ちゃん。なんかあのひと自信がありそうだったから、どうせ勝ち上がっていけばどこかで当たるだろ? せっかくボコボコにするんだったら大勢の観客がいる前の方が良いじゃないか。決勝トーナメントまで行けば立体映信(えいしん)でも放送されるんだし、さ」


 なんか弟が黒かった。


 あれ? お前ってそういうキャラだったっけ?


 おいこら。ふたりそろって渇いた笑い浮かべるんじゃない。チームメンバーがドン引きしているぞ。


2021/03/28 誤字修正 斧両手 → 両手斧

※誤字報告ありがとうございます。

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