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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第四章 強いチームには大抵の場合補欠という切り札がいる
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第61羽

 意味不明な言葉を発する妹に、出来た弟がツッコミを入れる。


「姉ちゃん、それじゃ兄ちゃんには何のことだかわかんないよ」

「んじゃ、そんなクレスからお兄ちゃんにお話があります」

「何の躊躇もなく丸投げしたね……。はあ……」


 ため息を吐くクレス。六歳年下の我が弟である。

 ニナと違い、いたって真面目に育ってくれた。俺やニナと同じく金色の髪の毛は、伸ばした長髪を束ねて右肩から前へ下ろされている。ニナとは二歳差のため、現在同じ学舎へ通う学生だ。


 学年が異なるとはいえ同じ学内にいる身内ということで、ニナの巻き起こすあれやこれやといった騒動のとばっちりを受けているらしい。おまけに生来の真面目な性格が見て見ぬ振りを許してくれないため、どうしても姉の尻ぬぐいに振り回されているみたいだ。


「苦労してんな、お前も……」

「ああ……、兄ちゃんが僕達の面倒を見ていた頃の苦労が今になってよくわかるよ……」


 兄弟そろってニナに振り回される者同士、お互い(いたわ)るような視線を向けてそうぼやく。


「で? 話ってのは?」

「あ、ああ……、そうだったね。兄ちゃんは『フィールズ』ってやったことあるよね?」

「まあ、学校や学舎の授業でちょろっとくらいはな。本格的にやったことはないぞ?」

「うん、まあそれで良いんだけど。今度フィールズの大会がこの町であるでしょ?」


 フィールズ。

 それはスポーツの名称だ。


 様々な文化や技術を節操もなく持ち込んだ日本人達によって、スポーツも数多くもたらされている。野球、サッカー、バレー、マラソン、等々数え上げればきりがない。だがいずれのスポーツも定着こそしたものの、競技人口はそこまで増えなかったようで、マイナースポーツの域を脱しなかった。


 そんなこの異世界でもっとも盛んであり、競技人口も多いのが『フィールズ』というスポーツである。

 もともとは軍隊が訓練を行う際の野外模擬戦が元になっているらしい。敵味方それぞれ十二人ずつのチームに分かれ、定められたフィールド内で相手の本陣を落とすか、相手チームを全滅させた方が勝利という至極(しごく)単純なルールである。


 プロチームによるリーグ戦もあり、その試合はお茶の間で全国の視聴者を楽しませるべく立体映信(えいしん)で放映されている。プロフィールズプレイヤーは子供達のあこがれでもあり、トッププロの試合報酬は一試合で一般家庭の年収十年分にも匹敵するという。

 プロ以外にも草チームや学生の部活動が盛んなため、全国規模のトーナメントが行われたり、町単位での小さな大会があちこちで開かれていた。


「ああ、そういえば街灯に垂れ幕がぶら下がっていたな」

「そうそう、それ。僕と姉ちゃんが所属するチームも今度の大会に出るつもりなんだけど、ちょっと人数が足らなくてさ」


 なるほど読めてきた。人数あわせのために俺も参加しろって言うんだろ?


「だから名前だけでも貸してもらえないかな?」

「無理だ無理。無理が着飾って三点倒立するくらい無理だ」


 即座に俺は拒否をする。


「えー! お兄ちゃんひどいよ! かわいい妹と弟のお願いなんだから、そこはキリッと『俺に任せろ』って言うところじゃないの!?」

「馬鹿言うな、魔力ゼロの俺が試合に出て何の役に立つってんだよ!?」

「いや、兄ちゃん。別に試合へ出る必要はないんだよ」

「どういうことだよ?」


 (いぶか)しげに視線を向けると、クレスが説明を続ける。


「試合をするための人数は確保できてるんだけど、大会にエントリーするには補充メンバーも事前登録しておく必要があるんだ。今困ってるのはその補充メンバーが足りないって事なんだよ」

「本メンバーが出られなくなったときの補欠って事か?」

「だから最初にそう言ったじゃない」


 ニナが頬をふくらませて不機嫌そうに言い放つ。

 確かに最初『補欠で良いよね!?』とか言っていた気がするが、唐突にあんな事言われて理解できるわけがない。俺はお前みたいに直感と本能で会話してるわけじゃないんだ。


「補欠か……。まあ、そう言うことなら別に構わねえけど……、何度も言うが俺は全く戦力にならんからな」

「大丈夫だよ。他にも補充メンバーはいるから。兄ちゃんにまで出番が回ってくることはまずないって」

「なら良いが」

「それと……、出来ればティアさんも補充メンバーに登録してもらえたらありがたいんですけど」

「私もですか?」


 クレスの口から自分の名前が出てきたため、それまで話に加わることなくルイの世話を焼いていたティアが反応する。


「ん? おい、クレス。足りない人数ってひとりじゃないのか? 結局何人足りないんだ?」

「うちのメンバーが十五人いるんだけど、レギュラーが十二人と補充メンバーが三人で、あと必要なのは五人かな」

「補充メンバーってそんなに必要なのか?」

「うん。正式ルールでやる大会だと補充メンバーも八人必要なんだよ。この補充メンバー八人っていうのが小さなチームだと結構集めるの大変だったりするんだよね」


 まあそうだろうな。レギュラー争いがあるようなでかいチームならともかく、草チームとかだと人数自体が少ないだろうし。


「私は別に構いませんけど」


 ティアは特に難色も示さず承諾した。


「ってことは、俺とティアを入れると……、あと三人か?」

「うん。そうなんだ……」

「ねえねえ、お兄ちゃん。誰か知り合いで登録してくれそうな人いないかな?」


 クレスは疲れたような顔でうなずき、ニナは大して気にした様子もなくあっけらかんと訊ねてくる。

 フォルスが居れば頼み込むんだが、今のところ帰って来たという知らせはまだ届いていない。


「うーん、そうだなあ……。ラーラとエンジは頼めばいけそうだよな……。あとひとり……」


 試合に出るわけじゃないんだ。スポーツ音痴なヤツでも良いなら――。


「パルノで良いか」


 どうせまだ仕事もせずにぶらぶらしてるんだろうし、例の騒動時に『泊めてやった恩を返してもらう』というのを口実にすればなんとかなるだろう。


「その人達に頼んでもらっても良いかな、兄ちゃん?」

「本人が受けてくれるかどうかはわからんけど、頼むだけなら良いぞ」

「やったあ! さっすがお兄ちゃん!」


 そう言って素直に喜ぶ妹だったが、ふと気になって聞いてみた。


「やったあ、は良いけどな、ニナ。お前来年卒業だろ? 進学するにせよ就職するにせよ、この時期にフィールズの大会なんか参加して遊んでて良いのか?」

「ん? 大丈夫だよ? もう進学決まってるし」

「は? どういうことだ? 何でこの時期にもう決まってるんだ?」

「なんか先生がね、『学院行くか?』って聞いてくるから『うん』って答えたらそうなった。『特別進学枠』とかいうのに入れてくれるんだって。試験とかもないって言ってたから、勉強しなくても大丈夫みたい」

「姉ちゃん、学舎に入ってからの成績も常に五番以上だったっていうぐらいだからなあ。学費も免除されるって話だし、父ちゃんも母ちゃんも喜んでたよ」

「にししし」


 妹が変な笑い方をしていた。

 口を開くと馬鹿っぽい妹だが、実は相当頭が良い。


 俺だって幼い頃は前世の知識をフル活用して神童と呼ばれたものだが、妹の場合そんなチートなしで普通に頭が良かった。

 成績優秀、魔力も平均の倍以上あるためスポーツ万能である。容姿が(きわ)立って優れているわけではないが、この通り人と壁を作らない性格で男子生徒からの人気は意外に高いらしい。スペックだけを見れば非常に優秀で、なるほど将来を嘱望(しょくぼう)されるのも分かる気がする。


 だがなんだろうね、この違和感。言動がことごとくガッカリ感あふれるニナを見ていると、世間様の評価と実際目にしている本人のギャップがひどいことひどいこと。


 この妹を端的に言い表すとすればそれは『残念』、そう『残念な妹』である。


 ラーラやエンジ、加えて最近で言えばパルノもそれぞれ残念なやつらではあるが、妹ほど『残念な』という言葉が似合う人間はそうそういないだろう。

 そういえば俺も『残念レビィ』なんて不名誉なあだ名を付けられてたっけ? ……ふむ、こんなところで似たもの兄妹ってことなのかな? まあいいや。


 もうひとりの家族であるクレス。実はこちらも割と優秀である。

 妹ほどでは無いがそれでも平均よりも高い魔力を持ち、そのため運動に関しても平均以上のパフォーマンスを発揮する。そして生真面目な性格が学問に向いているのだろう、学舎での成績も良いようだ。妹が天才肌の賢さなら、弟は秀才肌の賢さといった感じだろうか。


 おまけにこいつ、意外と女の子受けが良い。自由奔放を地で行くニナに振り回された子供時代が良い方に作用したらしく、女の子の扱いが丁寧で優しいと評判だとか。……普通逆に影響を受けそうなもんだがなあ。


 兄弟だけに当然顔は俺とよく似ている。だがなんだろうね。『人間の美醜などはしょせん顔のパーツが配置された位置で決まる偶然の賜物(たまもの)に過ぎない』なんてことを言った人間がいるそうだが、全くその通りだと俺は思う。


 横に並ぶと確かに兄弟であることが一目で分かるほど、俺とクレスの顔は似ている。だがふたりをバラバラに見たとき、なぜか俺は『普通の男』、そしてクレスは『かっこいい男』と評価されるのだ。目鼻の位置が一センチ、場合によっては数ミリずれただけでイケメンがブサメンになり、フツメンがイケメンになる。人の顔とは不思議なものだ。


 弟と俺の両方を知る一部の人間には、「レバルトさん? ああ、クレスの顔を崩したような人ね」などと失礼千万なことを言う(やから)すらいるのだ。


 ふざけんな! 生まれてきたのは俺の方が先だっつーの!

 むしろこっちが基準点だっつーの!


「どうしたの? 兄ちゃん?」


 気付けば俺に似たイケメン弟が顔をのぞき込んでいた。


「あ、いや。なんでもない」

「そう? なら良いけど……。でも助かったよ、これでようやくエントリーの目処がついたし」

「それは良いけど、ホントに大丈夫だろうな? 正式ルールのフィールズなんて、俺には絶対無理だからな? メンバーには体調管理しっかりしろ、って言っとけよ」

「心配性だなあ、兄ちゃんは。大丈夫だって」


 そう言うと爽やかな笑顔を浮かべながら、クレスはニナを連れて帰った。


 ま、登録メンバーと言ったってしょせん補欠だしな。もともと三人も補欠がいるって話だし、俺に出番が回ってくることはねえだろ?


 え? なに? フラグ乙、って?

 どう考えても先の展開が見え見え、だって?


 そ、そうかな……? 大丈夫だと思うんだけどなあ……。

 そんなラノベみたいな事にはならないと……、思う――いや思いたいんだが……。


 ……ちょっとだけ不安になってきた。


2015/05/24 訂正 金髪の髪の毛→金色の髪の毛

2015/05/24 訂正 俺達の面倒を見ていた頃→僕達の面倒を見ていた頃

2015/07/05 訂正 大将を倒した方が→相手チームを全滅させた方が

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