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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第三章 快適な住まいにはお金に換えられない価値がある

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第57羽

 真っ黒に塗りつぶされた画面へ表示される文章は、この事態を引き起こした張本人の自白だった。

 驚きに固まった俺の反応もおかまいなしに、端末のディスプレイにはローザの言葉が追加されていく。


《あのままではせっかく見つけた新しい()(しろ)にも被害が及びそうでしたし、大家さんの身も危険だと思ったので、障壁を張りました》


「もしかして、最初の魔法を防いだのもお前だったのか?」


《はい。最初の魔法は威力も弱かったので全部吸収できたんですが、二度目のはちょっと威力が強くて吸収しきれませんでした。仕方がないので吸収できなかった分は術者へフィードバックという形で処理しましたけど》


 なんぞそれ?

 魔法障壁って普通、防ぐだけのものじゃないのか?

 吸収するって……、それ障壁とは違うんでないの?

 ていうか全部吸収できなくても跳ね返すのは出来るんだ。……いや、そんな話聞いたことないぞ? 単に俺が魔法に(うと)いだけかもしれんが。


《――というのは建前で、私の()(しろ)を壊そうとした悪い子にはお仕置きが必要かと思いまして。あえて一部を跳ね返したんですけどね》


「建前かよ!」


 なんだよその文末に『はあとまあく』とか付きそうなテヘペロ的流れは!


《あんな子供だまし、いくらでも吸収できますよ。これでも月明かりの一族ですからね! あ、一応手加減はしましたよ? 跳ね返したのは本来の威力から見れば三割程度ですし、いくら人間が(もろ)いといっても気を失う程度ですんでるはずです》


 それを聞いて安心したよ。

 いくらムカつくオバハンとはいえ、重傷負わせたんじゃあ寝覚めが悪いからな。





 それから結構な騒ぎになってしまった。

 リーナ自身は警邏隊(けいらたい)に通報していない。やはり後ろめたい気持ちがあるのだろう。

 だが結局不発に終わったとはいえ、オバハンの魔法は結構な衝撃と音を発生させていたらしく、近隣の住人がいつのまにか通報をしていたようだ。


 例によって長い事情聴取を受けることにはなったものの、俺とパルノは被害者であることが確認されたため、その日のうちに解放してもらえた。

 なんせオバハンの言い分――俺とパルノが空き巣――というのは、部屋の借り主がパルノである以上成立しようがない。俺のこともパルノが説明してくれたようで、おとがめ無しだった。


 リーナについても特に罪を問われるようなことはない。発端がリーナの嘘にあったとしても、その嘘自体は犯罪性がないからだ。

 そりゃそうだろ、親に良い格好しようとして嘘をついていただけなんだから、そんなもの犯罪でも何でもない。


 問題はリーナの母親である。

 原因がリーナの嘘にあるとはいえ、街中で人に向かって魔法で攻撃を加えたのは事実だ。オバハンがいくら自分の正当性を訴えても、俺とパルノが空き巣でないことは証明済み。パルノ自身が借りている部屋に居ただけなんだからな。


 後はリーナ次第だろう。素直に自分の嘘が原因であることを白状すれば、オバハンだってその嘘に振り回されたことが警邏隊にもわかるだろうし、そうなれば情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地は十分にある。


 さすがに母親を助けるためにだったらリーナも正直に話すと思う――、多分。

 これで母親見捨てたら、あの女、正真正銘の外道(げどう)だわ。




 まあ、あの親子については知ったこっちゃあない。俺達にとっての問題はまた別のところにある。


 今回の件、ちょっと騒ぎが大きくなりすぎた。さすがに立体映信(えいしん)のニュースになるほどではないが、捜査のために警邏隊のお世話になる羽目となった。


 俺もパルノも犯罪者扱いはされたくないから、事情聴取の段階で原因も経緯も素直に知っていることを話した。

 そうするとだ、当然のことながら事件の発端となったパルノの外泊にも話は及ぶ。

 パルノが奴隷であること、そして割り当てられたパルノの部屋にリーナという娘を同居させていたことも話さざるを得ない。警邏隊としてはその裏取(うらど)りのために役所や奴隷福祉協議会へも問い合わせを行うわけだ。


 結果としてパルノのやっていたことが関係各所へバレてしまったわけであり、そうなると当然の帰結(きけつ)として規約違反が明るみになり――。



「レ、レバルトさぁぁぁん! わだじ、どれいにんでいどりげざれぢゃいまじだぁぁぁぁぁぁ!!」


 と、こうなる。


 奴隷認定を取り消され特権を失ったパルノは住む家もなくなり、かといって蓄えがあるわけでもなく、頼るべき唯一の友人が実は例の()()だったわけで……。仕事もなく、頼る相手もいない状態で街に放り出されてしまったわけだ。


 パルノは本当に友人が居ないらしい。友人どころか知人もほぼゼロのようだ。

 まあ、居たら最初から窓で初対面の人間捕まえて『泊めてくれ』なんて言ってなかっただろう。


 つまり、唯一だった友人を失ったパルノが頼る相手――というか知り合い――は俺やティアぐらいしか居ないということになる。

 部屋を借りるようなまとまったお金もなく、行き場を失ったパルノが俺に向かって「泊めてくれ」と拝み倒すのも当然の帰結ということか。


 なんだよこれ、振り出しに戻ってんじゃねえか。


 もちろん違う点もある。あの時は一時的な『泊めてくれ』だったが、今回のは無期限の『泊めてくれ』だ。


 よけい質が悪いわっ!


 無期限でパルノが居候(いそうろう)となり、対抗するようにティアが泊まり込み、付随するように例の黒装束が張り付き続けるわけか? いや、ホント勘弁してください。


「パルノさんさえ良ければ、うちの使用人宿舎にいらっしゃいませんか?」


 息苦しくなる未来予想図に俺が頭を抱えていると、横からティアがそんな提案をしてきた。


「使用人がひとり退職して、来週からひとつ部屋が空きますから。ずっと、というわけにはまいりませんが、新しく部屋を借りる資金が貯まるまでであればお父様にお願いできると思いますよ」


 そうか。もう奴隷じゃないんだから、ティアの親父さん――奴隷福祉協議会の非常任理事――を避ける必要もなくなったのだ。


「それが良い。そうさせてもらえよ、パルノ」


 俺もティアの提案に賛同する。決して平穏な生活を守るために厄介払いしたいとか、そういう不純な理由では無い。

 行き場のないパルノにとっては是非もない話である。もちろん無制限に甘えることは出来ないだろうが、自立するまでの仮住まいとしては十分だ。


「え、えと……。ホントに良いんですか?」


 遠慮がちにパルノがティアの顔を伺う。


「ええ」


 不安げな元奴隷少女に向けて、銀髪少女がやわらかく微笑みを返した。




 こうしてパルノはティアの家、正確にはティアの家に勤める使用人達の宿舎に間借りすることとなった。


 とはいえあくまでもこれは一時的な措置である。家賃がタダとは言っても、食費やそれ以外のお金は必要だし、自分で部屋を借りるためのお金も貯めなくてはならない。

 ティアの好意にいつまでも甘えるわけにはいかないだろう。もともと家の中におけるティアの立場は良いとは言いがたいらしく、パルノが居座(いすわ)れば居座るほどティアに対する風当たりが強くなりそうだ。


 最初はティアの家で使用人の仕事ができないか試してみたらしい。だがやはり魔力の少なさがネックになるようで、一週間もたたずに『ご縁がなかった』を言い渡されたと、べそをかきながらパルノが言っていた。いくら魔力が少ないといっても、普通の生活をするくらいなら不自由しないんだろうが……、さすがにティアの家で求められる仕事のレベルをクリアすることは出来なかったようだ。


 となると、さしあたっては当面の生活費を用立てる必要に迫られる。

 可能であれば正規雇用が望ましい。だがそれが簡単に見つかりそうにない以上、食いつないでいくために何らかの収入が必要だ。


 こういうときこそ、この場所が役に立つ。石井さんありがとう。本当に感謝してます。


「なんか適当なのないかなあ?」

「な、何かありませんかあ?」

「ありません」


 目の前のクールビューティがにべもなく言葉を返す。


「そんないけずなこと言わないで、なんか紹介してよ」

「そ、そこを何とかお願いしますう」

「無いものは無いんです」


 なおも食らいつく俺とパルノに、受付職員のアルメさんがため息をついて眉間を指でほぐす。


 彼女の装いは今日も白いブラウス風の制服。首から肩にかけてのラインがとてもシャープに強調され、大人の色気がこれでもかと言わんばかりにあふれていた。この上メガネをかければ、美人秘書にクラスチェンジすること間違い無しである。いつかお手製のメガネをプレゼントしようと俺は心に決めた。


 アルメさんが居るここは、言わずと知れた『人』と『仕事』が巡り会う出会いと別れの酒場――ではなく職業斡旋所『出会いの窓』だ。


「はあ……、レバルトさんひとりでも大変なのに……」


 珍しく愚痴(ぐち)らしきセリフをこぼすアルメさん。

 アルメさんにしてみれば、もともと面倒だった求職者がグレードアップしてステレオ音声になったようなものなんだろう。


 助けを求めるようにアルメさんが同僚の窓口職員を見回す。アルメさんが右を向けば右側にいる職員達がすかさず目をそらし、アルメさんが左を向けば左側にいる職員達がわざとらしく書類整理を始める。アルメさんが後ろを向けば、机に座っていた管理者らしき職員がとっさに狸寝入(たぬきねい)りを始めた。狐の尻尾にも似た翡翠(ひすい)色の髪の毛が、その都度ふらふらと揺れている。


 っていうか、俺達ってそんなに『やっかい()』扱いされてんの? いや、やっかい児扱いされてるのは多分俺なんだろうけどな。


 ため息をつきながらもなんだかんだと親身に対応してくれるアルメさんは、ホント職員の(かがみ)です。


「ではレバルトさん、とパルノさん。今手元にある求職票をひとつずつご紹介しますね。レバルトさんは例によって魔力のあるお仕事は無理。パルノさんは魔力が少ないので一定以上の魔力が必要な仕事と、女の子ですから力仕事は無理ということでよろしいですか?」


 (なか)自棄(やけ)気味にアルメさんが書類を引っ張り出し、俺達にその内容を説明し始める。




 ――三十分後。


 いつも通りに打ちのめされた俺、そしてかつてない挫折(ざせつ)にへこまされたパルノのふたりは、足取りも重く窓を後にするのであった。










◇◇◇(終)第三章 快適な住まいにはお金に換えられない価値がある ―――― 第四章へ続く

2015/3/11 誤字脱字修正

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