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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第十章 にわにはにわにわとりが
175/197

第165羽

 カブトムシとの戦いを制した俺たちだったが、そのまま調査を続行するかどうかで意見が分かれた。


 ダンジョンに入ってからまだ二十時間ほどしか経っていない。

 まだまだ行けるぜと主張するのは全く疲れを見せていないクロ子を筆頭に、そもそも疲れを感じるのかどうかすら怪しいローザ、そして特に深く考えてなさそうなエンジだ。

 一方で一度戻るべきだと主張するのは体力的な消耗が目に見えるラーラと俺だ。


「確かに丸一日も経っていない上、モンスターとの戦いも一度しか発生してない。だけどな、マッパーとして言わせてもらえば今の状況はあまりよろしくないぞ」


 一時帰還を主張する俺の言葉にエンジが首を傾げる。


「何か問題あるんすか?」


「大ありだよ。じゃあ聞くが、俺たちは今ダンジョンの何階層にいるんだ?」


「三十九階層から降りたんすから、四十階層っすよね?」


「そうとは限らん。階段で降りてきたならいざ知らず、周囲が見えない状態で部屋ごと下へ移動したんだ。一階層分どころか二階層、三階層降りててもおかしくはないだろ」


 つまり今の俺たちは前後のつながりが全くわからない場所へポツンと立っているのだ。

 自分たちの位置を見失っていると言っても良い。


「もちろんいざとなれば緊急脱出用の魔法具で帰ることができるかもしれんが、歩いて帰れない状況を良しとしてそのまま先へ進むのは反対だ。たとえ魔法具がなくても、使えない状態になっても、戻る道筋がハッキリしていれば歩いて帰ることもできるだろ。だがそれがわからないままというのはまずい」


「でもお父様、一度戻ったとしても結局またここへやって来ることには変わりが無いのでは?」


「ぶっぶー。クロ子、マイナス五ポイント!」


「がーん!」


 いつもクロ子が口にしている謎のポイント制度を使って逆に突きつけてやる。驚愕の表情と共に効果音を口から放つクロ子。

 はっはっは、マイナスポイントを叩きつけられる側の気持ちがわかったか。


「三十八階層から降りるときアヤが言っていたように、他にも降りてくるルートがあるんだろうし、実際のところ俺は別ルートの方が正解じゃないかと思うんだ。結局三十九階層じゃあ追いかけてくる壁に阻まれて十分なマッピングができなかったからな」


 下手をすると今の俺たちって三十九階層のトラップに引っかかってる状態なんじゃないかと、自分なりの考えを告げる。


「つまり私たちは今下へ降りるためのルートを進んでいるのではなく、トラップで追い込まれたあげくにここへ押し込められただけだと言いたいのね?」


「そういうこと」


 俺が肯定の言葉を口にすると、アヤは口元に片手をあててしばらく考え込んだあと、結論を口にした。


「わかったわ。本当ならもう一日くらい調査を進めておきたかったんだけど、確かにレバルト君の言う通りならこのまま進んでも徒労に終わる可能性もあるし、一度戻りましょう」


 戻るにはまだ早すぎるかもしれないが、このまま進んでも無駄足に終わりそうな気がするからな。

 マッパーとしては歓迎できない状況というのも本当だ。


「じゃあみんな、集まって」


 アヤの呼びかけに俺たちは一箇所へ集まって……いや、ひとりだけしゃがみ込んでブツブツつぶやいているのがいた。


「お、お父様からマイナス……。マイナスポイントがお父様で私のマイナスがポイントに……」


 なんかマイナスポイント食らったのがよっぽどショックだったらしい。

 クロ子は大槌の柄を抱え込むようにしてしゃがんでいる。


「おーい、帰るぞクロ子」


「放っておいてください、どうせ私はマイナスの娘です……」


 あれま、いじけてしまったか。

 しゃあねえな。


「素直に言うことを聞いてくれるんなら、プラス十ポイントあげるんだけどなあ」


 ポイントマイナスでいじけてるんだから、その分ポイント与えれば良いんじゃないかという俺の予想は見事に的中。


「はい! はいはい! 私素直な子です、お父様!」


 跳躍するように立ち上がり、片手を真っ直ぐあげる。

 まるで授業参観日の小学一年生のようだ。


 うん。

 なんかこいつの扱い方がわかってきたような気がする。






 緊急脱出用の魔法具を使い地上へ戻った俺たちは休息を取るためにアヤの別荘へと入る。


 その後、地上待機組へとこれまでの調査報告を終え、来客用の部屋を借りて一晩ゆっくりと体を休めた。

 一日とはいえ二十時間もダンジョンにいたのだ。

 体の方はやっぱり結構な疲労を感じていたらしい。


 溶けるようにベッドで眠り、翌日目覚めた俺たちが再びダンジョンへ潜る準備をしていると、新たに二パーティが戻ってきたという。


「出発は少し延ばしましょう。せっかくだから情報の共有をするべきよ」


 もっともなアヤの言葉に反対する者はいない。

 これから出発しようとしていた俺たちと、今まさに戻ってきたばかりの二パーティは急遽情報共有という名の打ち合わせをすることになった。


「フロア全体が一方通行?」


 俺たちの報告を聞いた他パーティのメンバーが首を傾げる。どうやら彼らは両方とも三十八階層から下へ進めなかったようだ。

 ふたりほど一方通行の話を聞いて嫌そうに顔をしかめている。もしかしたら彼らはマッピングを担当しているのかもしれない。


 俺たちが提供した情報の代わりに、他のパーティが入手した情報を教えてもらう。

 どうやら二パーティ共に三十八階層から下に降りる階段を見つけたらしい。当然俺たちが見つけたものとは別だ。


「となると、下りる階段によって三十九階層でのルートが変わる、か……」


 アヤの仲間が思案深げにそうつぶやく。


 俺たちのたどったルートはやはり数あるルートのひとつなのだろう。

 どの階段を選ぶのが正解なのか、あるいはどの階段からでも三十九階層を抜けて四十階層までたどりつけるのか、それはわからない。

 最終的には分岐をしらみつぶしにするしかないのだ。


 とりあえずは三十九階層の一方通行と、そこから小部屋ごと下ろされた先でのカブトムシ型モンスターについて忠告し、俺たちは一足先にダンジョンへと再び潜ることにした。


 出発前にチラッと確認した立体映信りったいえいしんのニュースでは、なおも魔力暴走の被害範囲が拡大していた。

 チャンネルのいくつかは放送が行われておらず、それが事態の深刻さをよりいっそう感じさせる。


 ティアは無事だろうか?

 意識が戻っていれば良いのだが……。






 再びダンジョンへと挑戦する俺たちはまたも八時間かけて三十八階層まで降りると、前回と同じ階段から下へ降りる。


「今回は最初から慎重に進んでいきましょう」


 アヤの言葉に反対する者はいない。

 前回は退路が断たれていることに気付くのが遅れ、後手後手になってしまったからな。


「問題は最初の進路をどちらに向けるか、だよな」


 三十八階層から降りた場所は後ろが行き止まりの通路になっている。

 最初に進む方向は選択の余地もない。

 だが十メートルほど進んだところで最初の分岐が現れるため、まずはそこで右へ進むか左へ進むかを選択する必要があった。


「前回は右を選んだが、今回は逆に左へ進むか、それとも途中までは前回と同じルートにするか。どうすんだ、アヤ?」


「今回は左へ進みましょう」


「オーケー、じゃあ丁寧にマッピングしていくからゆっくりめに進んでくれ」


 アヤが左と決めたのならそれに異存は無い。

 このパーティのリーダーはアヤだからな。


 こうして俺たちは三十九階層の調査を再開する。


 結論から言うとものすごく面倒なフロアだった。


 いや、マジでこのダンジョン設計したヤツは性格悪いと思う。

 もともと一方通行で後戻りできないということもあって非常に面倒なのはわかっていたが、予想以上に面倒だということが二回目の調査で判明した。


 なんせ一方通行だから分岐がひとつあるだけでその両方を調査するのが、まぁめんどい。

 普通のフロアであれば分岐のひとつを進んだ先が行き止まりなら、いったん分岐まで戻ってくれば良い。

 しかしこのフロアはそれができない。

 進んだ先が行き止まりの場合、初回同様に小部屋自体がエレベーターとなって丸ごと降りていき、そこでカブトムシ型のモンスターが待ち受けているのだ。


 もう何度カブトムシと戦っただろうか。

 アヤとクロ子のおかげで戦闘には毎回すんなりと勝っているが、問題はそこじゃない。

 カブトムシを倒したあとで周囲を調査したところ、転移陣のある小部屋に行き着く。

 試しに転移陣に乗ってみたところ、なんと俺たちはそのまま三十階層まで戻されてしまったのだ。


 三十階層から三十九階層まで下り、一方通行のフロアで行き止まりまで進み、送り込まれた場所でカブトムシを倒す。以下その繰り返しである。


 一番上の階層まで飛ばされるよりはマシだったが、それでもワンサイクルで十時間くらいかかるのだ。

 それを延々繰り返していればうんざりもするさ。


 結局正解のルートを導き出すまでにかかった時間は五日。

 四パーティそれぞれが手分けして調査し、情報を共有して効率化したにもかかわらずこれだ。


 そりゃアヤたちが半年経っても攻略できてないわけだよ。あまりに面倒くさすぎる。

 そんな感じでようやく三十九階層から四十階層への階段を見つけ、準備万端にして降りていく俺たち。


 アヤを先頭にしてたどり着いた四十階層はこれまたやっかいな場所だった。


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