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にわにはにわにわとりが  作者: 高光晶
第一章 異世界には夢もチートもなかった

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第9羽

 あたりには魔光照まこうしょうの灯りもなく、転移前にラーラが点した魔法による光も既に消え去っていた。

 俺たち四人は暗く静寂につつまれた部屋の中で、互いが相手の切り出す言葉を待っている。


「とりあえず。現状の確認が優先だね。みんな、端末で位置を確認できるか試してくれ」


 建設的なリーダーの意見に全員がうなずく。


 その場に居る全員(ただし俺をのぞく)が各自個人端末を操作して地図を呼び出す。

 ダンジョン内ではこうやって自分の位置を確認することが可能だ。

 入場券を読み込ませた端末では、各階層の地図を表示させる機能が付いている。


「だめ……か」


「こっちもだめっす」


「私のもだめです」


 三人がそろって首を横にふる。

 フォルスの端末をのぞかせてもらうと、そこには端末の表示部が真っ白に染まった状態の地図が表示されていた。


 通常ダンジョン内ではマップが自動で記録される。

 自分が歩いた通路や小部屋が勝手に地図情報として蓄積されていくのだ。

 また、わざわざ自分の足で歩かなくても、売店で販売している地図データを購入すれば、対象階層の地図が全て表示されるようになる。

 自分の足で少しずつマッピングをして楽しむもよし、時間を節約するために地図データを購入して攻略に集中するもよしだ。


 当然ながら俺達もダンジョンへ入場するのは初めてではない。

 第五層くらいならこれまでにも何度か足を運んでいる。

 フォルスに至っては第五階層どころか、かなり深い階層まで潜っているらしいので、必然的に地図情報もかなりの量が蓄積されているはずだ。


 地図情報は自分から申請して削除しない限りダンジョンを出た後も保持されるのだが、エンジやラーラだけでなくフォルスの端末ですらこの場所がどこなのか示されない。

 つまり、この場に居る誰もが位置を正確に把握する術を持っていないということになる。


「ということは、俺たちは手探りで出口を探さなきゃならない――ってことだな?」


 俺の疑問にフォルスがうなずく。


「そういうことになるね」


 しばし全員が無言となった。


「だけどまあ、さしあたってはこの部屋の周囲を調査してみようか。案外地上への出口が近くにあるかもしれない」


 その意見に異をとなえる者はおらず、俺たちはひとまず部屋を出て周囲を見て回ることにした。


 だが俺は積極的な反対こそしなかったものの、えもいわれぬ不安を感じていた。

 言葉にするのは難しいが、体にまとわりつく嫌な気配というか、ダンジョン全体からしみ出る雰囲気に不快なものを感じるのだ。


 ここは見た目こそ転移前の部屋と似ている。

 ただうまく言えないのだが、何かが違う。

 俺の直感がそう告げていた。


 例えるならそうだな……。

 テレビゲームの中で、『背景は同じグラフィックを使い回してるのに背景音楽だけがおどろおどろしい曲に変わった』みたいな感じだ。

 ダンジョンの中で音楽がボス敵用に切り替わった、と言えばわかりやすいだろうか。


 だがそれを論理的に説明するのは無理だし、そもそも「じゃあどうするの?」と問われても代案が浮かばない。

 だから俺はその不安を口にすることなく、フォルスの判断に従って素直に三人の後ろをついて行くしかなかった。


 部屋に設けられた唯一の扉を開き、俺たちは通路らしき場所へ出る。


「ラーラ。悪いけど灯りを頼めるかな?」


 フォルスの頼みを受け、ラーラが魔法で作った小さな灯りを点す。

 灯りに照らされて周囲の様子が浮かび上がる。

 部屋を出た場所からは三方向に通路が伸びていた。

 正面、右、左である。


「まずは右から行こうか」


 フォルスの言葉を聞いた瞬間、頭にチクリとした痛みが走った。

 よくわからないけど嫌な予感がする。


「フォルス。右はやめよう。やめた方が良い。……何でと言われても答えようがないんだが」


 それを聞いたフォルスは何事かを思案するような顔をする。

 だが少し考え込んだ後、口を開いて俺の意見を受け入れた。


「…………じゃあ左からにしようか」


「いいのか?」


「ああ、レビィの勘は結構当たるからね」


 根拠もない俺の意見をフォルスは真摯に聞いてくれた。


「確かにそうです。レビさんは妙に勘が鋭いのです」


「あ、それはオレも思うっす。兄貴の直感はよく当たる気がするっす」


 残りの二人も同意する。


 自分で言うのも何だが、三人が言うように俺は昔から勘が良い。

 理由を求められても説明はできないのだが、ここぞという時の危機回避能力は高いような気がする。

 この直感のおかげで事故を回避したことも一度や二度ではないし、三年前に巻き込まれた事件でも命拾いをすることが出来た。

 魔力が全く無い俺の、唯一とも言える武器だ。といっても、意識して使える武器というわけでもないけどな。


 俺たちは部屋の出口に目印を付け、まずは左側の通路から調査を開始した。

 しかし何度かの曲がり角を経て、結局五分ほどで行き止まりにたどり着いてしまう。


 いったんスタート地点の部屋まで戻って、今度は扉を出て直進する道を進んだ。

 左側よりは奥まで続いていたが、やはり十分も進むと通路が途切れてしまう。

 扉も階段も見当たらなかった。


 またも部屋の前まで戻り、フォルスが確認するように全員へ声をかけた。


「残るは、右の通路だね」


 もはや進む道は右側の通路だけだ。

 相変わらず嫌な感じは続いているが、かといって他に選択肢はない。


 さっきも言ったように、危険がさしせまっている時に俺の勘は良く当たる。

 逆に言えば命の危険にかかわるような危機的状況でないと勘は働かない。

 事実、学力テストの選択肢問題では全く役に立たなかった。


 経験則に照らし合わせてみると、右側の通路に命が危険にさらされるほどの何かがあるということ……、かもしれない。


 やだなあ。


 俺たちは用心しながらゆっくりと歩を進める。


 進み始めてから何分たっただろうか。

 先頭を歩いていたフォルスが急に立ち止まった。


「どうした、フォル――」


 そこまで言いかけて俺たちもそれに気付いた。

 通路の奥から物音が聞こえてきたのだ。


 なんだろう?

 乾いた木片を打ちつけたような――いや、もっと軽い物体が打ち合わされるような音がいくつも聞こえてくる。


 全員が無言となった。

 八つの目が灯りの届かぬ通路の奥を凝視する。


 その間にも音はますます大きくなり、やがて音の正体が俺たちの前に姿を現した。

 魔法の灯りに照らされて俺たちの目に映ったのは、人間の身長と同じくらい白い骨だった。

 直剣と円盾を手に持ち、直立歩行する人骨をかたどったモンスターらしき一団だ。


「なんだ? こいつら?」


「こんなモンスター、パンフレットには載っていなかったと思うけど……」


 口にした俺とフォルスはもちろんのこと、エンジとラーラもその顔に訝しげな表情を浮かべている。


「来るぞ!」


 俺が仲間の表情をうかがっていたわずかな合間に、モンスターは先頭のフォルスへ襲いかかってきた。


 敵の数は三体。

 そのうち二体をフォルスが相手取り、残りの一体をエンジが牽制する。


 戦い方はこれまでと同様だ。

 二人が敵の攻撃をしのぎ、ラーラの魔法でダメージを与える。


 え? 俺?


 俺は……、まあ補助みたいなもの?

 戦闘ではほとんど役立たずだし、足手まといになるだけだからな。

 基本的には全体を見通して必要に応じた指示や警告を出すくらいだぞ。

 おお、なんかこう言うと司令塔みたいでかっこいいな。


「くっ……! レビィ! メイスを出して! 剣だと効果が薄い!」


「わかった!」


 まあ、実態はこんな風だ。

 予備の武器や道具類を持ち歩き、必要に応じて渡したりするわけだ。


「キャディーさん。五番アイアンちょうだい」


「はいよ、五番アイアン」


 みたいな感じだな。

 ……途端におばちゃんくさくなったが。


 俺はメイスの所有権をフォルスに移譲する。

 所有権さえあれば、戦闘中でも瞬時に持ち替えが可能になるからだ。

 もちろん距離が離れていれば無効となるが、十メートル程度の距離ならば問題ない。


 端末を操作して移譲のための操作を行い、そこで初めて俺は異変に気付く。

 移譲操作ができなかった。

 いや、操作をしても所有権がフォルスに移らなかったのだ。


「レビィ! 早く!」


「な、なんで!? 移譲が出来ない!」


「え!?」


 俺のあわてた声にフォルスの気が一瞬それる。

 その隙を逃さず人骨モンスターが斬りかかった。

 その見た目にそぐわないスムーズな動きで直剣を振りかぶった人骨モンスターは、フォルスの頭上から一気に振り下ろす。


「ぐっ!」


 普段のフォルスなら余裕で防げたであろう一撃だった。

 だが俺の声に動揺していたフォルスは反応が一瞬遅れてしまう。

 避けるのは間に合わないと判断したのだろう、腕に装着した円盾をとっさにかざして敵の剣撃を受け流そうとした。


 しかし間に合ったかに見えた防御は、人骨モンスターの予想以上に鋭い剣筋を捕らえ損ねていた。

 ラーラの点した灯りを鈍く反射した直剣が、フォルスの肩を深く抉る。


「フォルス!」


 俺は目を疑った。

 人骨モンスターの直剣が振り抜かれた後、フォルスの肩からダンジョン内で絶対に見るはずのないもの――鮮血――が流れ出たからだ。


「ロックシェルズ!」


 戦闘開始時から詠唱を開始していたラーラが、そのタイミングで魔法を発動させた。

 壁の一部が不規則にうごめいたかと思うと、その歪みの中から手のひら大の岩が無数に生まれ出る。

 壁から解き放たれた岩の砲弾が、瞬時に加速して猛烈な速度で三体の人骨モンスターに襲いかかった。

 雨あられのごとく打ち出された砲弾は、狙い違わずモンスターの背骨部分を砕きつくすと、その活動を停止させることに成功した。


「フォルス! 大丈夫か!?」


「う……ん。なんとかね……」


 痛みに顔をゆがめながら、フォルスは自分へ治癒魔法をかけていた。

 フォルスの右手に癒しの光が浮かぶ。

 その手を負傷した肩へかざすと、みるみるうちに傷がふさがっていく。


 フォルスの傷が癒えたのを確認した俺は、全員を見回して言った。


「いったん最初の部屋に戻って体勢を立て直そう」


 反対する者は当然居なかった。


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