エピローグ
「No.0031986 この響きに心当たりはないかな?」
「あー、仁科か?なんだ、唐突に、しかし久しぶりだな。」
「いや、石山。君が国の機関で働いてるっていうのを思い出してな。」
「…それで、そのなんだNo.003‥‥‥なんだっけ?」
「いや、知らないならいいんだよ。俺は不幸な子を作りたく無くてな。」
「あぁ、そりゃぁな。もちろん俺もそう思ってるさ。」
「なら、心配はいらねぇな。」
「そうだな、俺で役立つならな。」
「あぁ、頼んだよ。」
「なんだ、用はそれだけか?」
「ふっ、今度会った時に面白い話をしてやるよ。じゃあな。」
「あぁ……」
電話を切って石山は深々と座った椅子に思い切り背中を預けて、しばらく天井を見上げた。
そしてインターフォンを押す。
「はい。お呼びですか。」
電話越しに実に事務的で単調な声が流れる。
「啓子君。例のNo.0031986の資料を持ってきてくれ。」
「お待たせしました。こちらがその資料です」女性職員が差し出すと、石山は素早く目を通した。
「春哉か。親子関係が確認された後の処遇はどうなっている?」
「こちらに詳細があります」 石山は資料をめくりながら言った。
「啓子、当該のご夫婦に会って意向を聞いてくれ。春哉君の今後についてだ。必要な調整は私が取りまとめる。」
「どう転んでも?」
「報告通りなら、転ぶ方向は一つしかないと思うがね。」
「では早急に。」
会釈をし、出て行こうとする女性職員を石山は呼び止めた。
「それともう一件。事故で損傷したアンドロイド修理状況はどうなった?」
「その件でしたら事故の二日後には改修を終え、プログラム強化済みで戻しております。メモリーについても旧本体から引き継いであります。今回は完璧です。」
「結構……これで運用をアンドロイド主体に絞りたいねぇ」
『自然出生児サンプリングの廃止案』石山のモニターにその文字が映し出されていた。
そして、プリンターが静かに起動音を立てた。
季節は少し進んで六月のある日(梅雨の中休み)
バス停に楽しげな子供たちの話声が聞こえる。
「おはようございます。琴葉ちゃん今日も元気そうね。」
「おはようございます。冬理君と春哉君男の子が二人だと大変じゃないですか?」
「そりゃあ、もう毎朝戦場で。由香さんのところは女の子だから楽でしょう?」
「そう思いますか?これが、もううちの琴葉は男勝りで思ったより大変ですわよ。」
バスが停留所に入ってくる。
「おはようございます。冬理君、春哉君、琴葉ちゃん」
「「「おはよーちーせんせー」」」
三人の声が見事に重なった。
「じゃあね、行ってらっしゃい。」
「はーい。ママ」
「ほら、二人とも早く乗って」
「おー行くぞ、冬理」
「遅れるなよ。春―」
バスの扉が閉まり賑やかな声とともに走り去っていく。
見送りを終えた有希と由香はお互い笑顔で見合った。
「また、今後一緒に出掛けたいわね」
「そうね。宇宙科学公園以外にしましょうね。」
ふたりはしばらく笑い合った。
プルルルルー
「よぉ、仁科か。」
「ハッ、どうした?まだ三日しか経ってないが」
「近々、お前とうまい酒が飲めそうでな。」
「そうか?そりゃぁいい知らせだ。早く会いたいもんだよ」
「あぁ、上手く行けば今年のうちには軌道に乗るさ」
「泣く子がいなけりゃ俺は良いのさ。」
「大切なのは育つ環境よ。今度のアンド―さんはやってくれるぜ。じゃあ、またな。」
「楽しみにしてるよ。」




