第4話JKミスコン
2024年8月9日、ついにJKミスコン本戦の火蓋が切って落とされた。予選での悔しさをバネに、ゆずきは並々ならぬ決意を胸にこの戦いに挑んだ。その努力が実を結び、彼女の出だしはまさに好調そのもの。愛媛の自宅の部屋から届けられるゆずきの歌声と笑顔は、中国四国エリアのリスナーの心をがっちり掴み、瞬く間に1位を独走する形となった。連日、ランキングボードのトップに輝く自分の名前を見ては、ゆずきは静かにガッツポーズをした。このまま突き進めば、夢に見たTGCのランウェイが、もうすぐそこに見えてくるはずだ。
一方で、全国の各エリアでも、未来のライバルたちがそれぞれの光を放っていた。関東エリアで1位を独走していたのは、都会的な雰囲気を纏うさくらちゃん。洗練された配信スタイルと圧倒的なフォロワー数で、他の追随を許さなかった。そして、関西エリアのトップに君臨していたのは、元気いっぱいのミウちゃん。持ち前の明るさとトーク力で、多くのファンを魅了していた。彼女たちは、画面の向こうにいるゆずきにとって、今はまだ見ぬ存在だったけれど、これから先の長い芸能界の道のりで、終生のライバルとなり、同時にかけがえのない親友となっていく、特別な仲間たちとなる運命だった。互いの存在は知らずとも、それぞれの場所で同じ夢を追いかける少女たちの間には、すでに目には見えない絆が生まれ始めていたのかもしれない。
本戦が始まって数日が経ち、ゆずきの首位独走は盤石に見えた。しかし、この世界は一寸先も読めない。本戦の締め切りとなる8月18日、午後10時を目前に控え、事態は急変した。それまで安定していたゆずきの順位が、まるでジェットコースターのように乱高下し始めたのだ。画面には、彼女の順位を追い抜こうとする他の配信者たちの名前が次々と表示され、ポイント差はみるみるうちに縮まっていく。
「まさか……」
ゆずきの背筋に冷たいものが走った。深夜まで及ぶ配信、ファンへの丁寧なコメント返し、体力の限界まで歌い続けた喉。全てを捧げてきたこの10日間が、まるで水の泡になるかのような、悪夢のような展開だった。特に、関東のさくら、関西のミウに加え、地方から突然現れた新星たちの怒涛の追い上げはすさまじかった。まるで、彼女をこの座から引きずり下ろそうとするかのように、大量のギフトが彼女たちの配信に降り注ぐ。
そして、その日の最終盤、ゆずきにとって最大の「ドラマ」が起こった。それまで彼女の「マネージャー」を自称し、誰よりも熱心に応援してくれていたはずのたいよう君の「裏切り」だった。土壇場になって、ゆずきのマネージャー職を放り出し他の配信者の応援にくら替えしたのだ。彼の行動が、ゆずきのメンタルに致命的なダメージを与え、彼女の配信ペースを乱す決定打となった。信じていた人からの裏切りは、ランキングの下降以上に、ゆずきの心を深く傷つけた。
午後10時の締め切りを告げるカウントダウンがゼロになった瞬間、最終順位が表示された。
「2位」
信じたくない現実が、画面に突きつけられた。1位を独走していたはずのゆずきは、惜しくも2位でフィニッシュしたのだ。彼女の目から、大粒の涙がとめどなく溢れ落ちた。喜びの涙ではない。悔しさ、絶望、そして、裏切りへの悲しみが入り混じった、複雑な感情の雫だった。
「なんで……なんで、私じゃないの……」
真っ白なドレスに身を包み、画面越しに映る自分の姿は、まるで夢破れた花嫁のようだった。頬を伝う涙が、メイクを台無しにするのも構わず、ゆずきはただただ、声を上げて泣き続けた。本戦の緊張とプレッシャー、そして最後の最後に突きつけられた残酷な現実に、彼女の心は打ち砕かれた。しかし、この涙は、きっと未来への糧となる。今はまだ、その意味を知る由もなかったけれど。




