第8話「吟遊詩人エコーの不協和音」
魔王軍の襲撃を退け、町の人々の視線が少しだけ和らいだ……かと思ったが、そんなことはなかった。
「やっぱりあんたがいると、ろくなことが起きないねえ……」
井戸端で噂する住人たちの声が聞こえてくる。結局、俺――勇者シンの好感度は相変わらず最底辺を這いつくばっているらしい。だが、これが俺の力の源だ。
「ま、気にしても仕方ないよな」
そう自分に言い聞かせながら、町の中心に向かって歩いていると、妙な歌声が聞こえてきた。
「おおおおおおおおおん~~! ひぃぃいいい~~!」
耳をつんざくような不快な音色。これは……音楽と言えるのか? 近くにいた子供が泣き出し、店先の猫が驚いて逃げ出す。
「あぁ~……これはひどいな」
俺の隣でリリエルが眉をひそめる。どうやら同意見らしい。だが、なぜかその音は奇妙に心に響く。
「君たち、良い耳をしてるね!」
目の前に現れたのは、豪華な衣装に身を包んだ青年だった。羽飾りのついた帽子、金刺繍の入ったジャケット、そして何より派手なマント。これでもかというほど自分を飾り立てている。
「僕はルードルド・エコー! 吟遊詩人さ!」
「エコー……」
「おっと、気軽にエコーと呼んでくれ!」
エコーは胸を張ると、またしても耳をつんざくような声を響かせた。
「いや、だから……やめろって……」
耐えがたい音に頭を抱えたが、なぜか身体の中から力が湧いてくるのを感じた。
――スキル【不快叶音】発動。
不快な音に耐えれば耐えるほどバフ効果を得られる、というとんでもないスキルらしい。
「うぅ……まさか、こんな能力が……」
「どう? 僕の歌声は!」
「……すごい、とは思うが、もう少し音を抑えてくれ」
「よし! じゃあ次の曲を聞いてくれ!」
聞いてくれ、じゃない。今のでもう十分すぎるほどダメージを受けたんだが……。
「面白いね、君たち! 僕も旅に加わるよ!」
「えっ?」
「面白そうな勇者を見つけたら同行する! それが吟遊詩人の流儀さ!」
誰が決めたんだ、その流儀。だが、こうして新たな仲間(?)が加わることになった。
――勇者一行、強制的に音楽性の破壊を迎える。
次回予告:第9話「新たなる試練! 耳栓は必須?」
・エコーのスキルの真価が明らかに!?
・シン、耐えれば耐えるほど強くなるが……。
・リリエルの表情がどんどん険しくなっていく!?