↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/45

45.気になるその後

「アイリーン・ボイド。あなたとの婚約をここに宣言する」


 ちょっと待て、何かおかしいと思った卒業パーティ。卒業パーティと言ったら、婚約破棄宣言が定番ではないのか?

 沸き起こる拍手。いつの間にか右手をとられ、跪いたイブライムがその甲に口づけをする。より一層、拍手が大きくなる。


「おめでとう」


「おめでとうございます」


 困惑した表情をイブライムに向けると、喜びの笑みを浮かべている。すっとイブライムは立ち上がり、アイリーンのその腰を抱き寄せた。


「ありがとう」

 イブライムはその拍手に応えている。アイリーンは助けてくれそうな人物を探したが、彼女の身内は父親しかいない。

 お父様助けて、という視線を送ると、また右手の親指を立ててわけのわからないジェスチャーを送ってくる。


 卒業パーティというめでたい日に婚約破棄宣言ではなく婚約宣言。しかもその宣言した人物がこの国の第二王子。相手は隣国のプーランジェの公爵家の娘。

 一層歓声があがると、演奏家たちがワルツを奏で始めた。


「リーン」

 輪の中心部へと連れていかれる。そしていつの間にかのダンス。


「あの、イブ様」


「なんだい?」


「ええと、どうしてこのような流れに?」


「オレがリーンと一緒にいたいから、かな」


「あの、私。卒業したらプーランジェに戻る予定なのですが」


「うん、それは構わないよ。また、こっちに戻ってきてくれれば。そのための婚約宣言だ」


「いつまでにこちらに戻ってくればよろしいでしょうか」


「できるだけ早く?」


「善処します」

 としか言えない。


 一曲踊り終えるとその輪から抜ける。


「おめでとう、イブライム」


「よかったわね、イブ」


 イブライムの両親、つまりアスカリッドの国王と王妃が祝いの言葉を口にした。アイリーンとしては、もう少し説明が欲しい。こんなときは、ユミエーラに助けを求めるに限る。視線で訴えると。


「あら、リーンは納得していないのかしら?」


 どうやら察してくれたようだ。二回ほど頷く。


「イブ、あなたきちんとリーンに伝えていなかったの? プロポーズしていないの?」


 プロポーズという言葉に反応したのはアイリーン。心当たりがあった。きっとあのとき。卒業後の進路を聞かれたときだ。


 何回目かの二人きりではないデートのとき。ケーキが美味しいという評判のカフェで、他愛もない会話を交わしていたが、話題がふと卒業後の進路の話となった。

 アイリーンは、卒業後は宰相である父親の秘書というか手伝いというかをすることになっていたから、自国に戻るという話をした。イブライムとしてはアイリーンにはこのアスカリッドへ残ってほしいというのが本音。だから、プーランジェに戻るというのであれば、結婚の約束をして欲しいと言われた、ような気がする。気がする、だけ。


「されたような気がします」


「もう、相変わらずハッキリしない二人ね」


「ですが。私はプーランジェに戻ります。その、だから、あの。どうしたらよいでしょう?」


 プーランジェに戻らないほうがいいのか。むしろ戻れないのか、とも思える。


「アイリーン」


 イブライムの父親、つまり国王陛下から優しく名を呼ばれた。あのおしゃべり好きな国王だ。


「私たちはあなたの立場もわかっているつもりだ。だから、もしイブライムと一緒になるというのであれば、イブライムには国境の領地を任せたいと思っている。そこであれば、アイリーン嬢もどちらの国にも行きやすいだろう?」


「国境の領地はね。本当はこの人の弟に任せるつもりだったのよ。でも、ほら、シエラが妊娠しているときに事故で亡くなってしまったでしょ? だから、ノエルとその相手にと思っていたのにノエルはジョアキナのところへ嫁ぐでしょ? ちょうどそこの領地が空いてしまったのよね」


 ユミエーラの説明は軽いような気もするけど、わかりやすい。それと同時に今、さらりと知らなかった事実を聞かされたような気がする。


「母上、エルとオレは兄妹ではなかったと?」


「そうよ、正確には従兄弟ね。ま、その件は後で詳しくね」


「知らなかった」


 イブライムさえ知らなかった衝撃の事実。


「リーン、おめでとう」


 様子を伺っていたボイド公爵。


「お父様。えっと、私はイブ様と結婚してもよろしいのでしょうか?」


「それを聞く相手は私ではないよね」


「ですが、プーランジェの陛下が何とおっしゃるか」


「あ、それね。大丈夫、問題ない。根回しはしておいたから」


 根回しという表現が少し恐ろしい気もするが。

 つまりプーランジェの国王は、アイリーンの相手がアスカリッドのどこかの馬の骨ではなく王族であったことから、プーランジェとアスカリッドの二つの国が協力して云々、で納得してくれたらしい。文字にするとさらっとした表現ではあるが、多分、ボイド公爵がかなり頑張ったに違いない。


「お父様の仕事の手伝いの方が」


「リーンがどこにいても仕事ができるように、これも根回し済み。ただね、いろいろ手続きのために卒業後は一度プーランジェに戻ってもらうけど、それが終わればすぐにでもアスカリッドに戻ってこれるよ」

 父親の仕事はさすがに早い。もう一つだけ気になることを訪ねる。


「あの、ライの方は?」


「うーん。ちょっといじけているけれど、大丈夫じゃないかな」


 それは絶対に大丈夫ではない、と思う。

 ライオネルにも心から好きだと思えるような女性と出会っていただきたい。


 イブライムの視線を感じたため、父親との会話を要約して伝える。ただし、ライオネルとの件を除く。


「よかったな、リーン」

 イブライムに言われたが、何がよかったのかさえもよくわからなくなってきた。

 プーランジェの陛下がイブライムとのことを認めたことなのか。アスカリッドにいても父親の仕事の手伝いができることなのか。まあ、全部がよかったと言えばよかったことになる。


「そうよ。リーン。手続き終えたら、早くアスカリッドに戻ってきてちょうだい。結婚式までは王宮の離れに部屋を準備しておくから。それに、あなた。まだあの漫画を完結させていないわよね。それも完結させなさい」


 ユミエーラの言うあの漫画とはもちろん月雲の漫画。今、三巻まで発売されたところで、ちょうど原作の二巻目の半分まで。


「必要だったらあなたの仕事部屋も準備するわよ」


 もう、逃げられない。イブライムからも、ユミエーラからも。まあ、逃げる気もないが。


「ありがとうございます」


 頭を下げて、そう言うことで精一杯。





 その後、謎のヴェールに包まれたままの漫画家アイは月雲シリーズの漫画を描き続けている。そしてこの漫画と原作がプーランジェ語に訳されてプーランジェの書店に並びはじめたらしい。特にプーランジェのご令嬢たちには、好まれて読まれているとか。


 プーランジェといえば、王太子の婚約者の件で揉めていたようだが、結局予定より一年遅れでその婚約者が正式に決まったらしい。揉めに揉めた末、大いに反省したナディソンがそこに返り咲いた。というのも、ナディソンがそんな態度をとってしまったのも、すべてがディミトリー殿下のせいであったことが判明したからだ。

 もともとディミトリー殿下もナディソンのことが好きだったらしい。そしてその痴話喧嘩に巻き込まれてしまった可哀そうなソフィアとカーナ。

 また、ソフィアはジェリアンの兄との婚約が決まり、近々結婚式をあげるとのこと。一部からは美女と野獣であると揶揄されているようだが、ここのカップルにとってそんな言葉は気にならないらしい。むしろソフィアは、私だけが魅力に気付ければ十分です、なんて言いふらしているから、フルーム卿は年下の婚約者にめろめろだとか。

 らしいが多いのは、アイリーンもカーナから聞いた話だから。そんなカーナはジェリアンとそれなりにやっているとのこと。


 そして、イブライムの正式な婚約者となったアイリーンではあるが、残念ながらまだ結婚までには至っていなかった。だが、アスカリッドの第二王子の国を超えた運命的な恋愛話は、この国の民たちにとって憧れにもなっている。


 そんなアイリーンは、今日もユミエーラが準備してくれた仕事用の部屋で漫画を描いていた。

 内容はもちろんビーでエルなもの。

 でもよく見たら、二次創作。

 次は、同人誌を布教させるつもりなのだろうか。

いつも読んでくださりありがとうございます。

ブクマ・評価がとても励みになりました。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。