12.気になる彼女(後編)
「そうだったわ。リーンの方も、何か相談事があったのよね。私ばかり興奮してしまってごめんなさい」
ノエルは落ち着きを取り戻し、ノートを閉じてアイリーンの手元へと戻した。それから一口お茶を飲む。
「それで、リーンの相談したいことって何かしら?」
ノエルは椅子に座り直して身体の向きを少し変えた。
「あの、新入生歓迎パーティの件です」
「ああ。あれね。ただのパーティよ」
「ええと、それが苦手なのです。まだ、よくわからないところですから」
よくわからない、というところでノエルは察した。つまり、よくわからない人とは踊りたくない、ということ。
「そうね。この学院のパーティって、そういう出会いも兼ねているから」
やっぱり、か。
「いくらアスカリッドの恋愛が自由だといっても、身分の問題はあるからね。いきなり私が庶民と結婚します、なんて言ったら、それはそれで問題なわけ。だから、ある程度は学院の中で出会わせましょうっていう魂胆もあるのよ」
ノエルのその言葉に頷く。
「そういった意味では、学院主催のパーティは多いわね。新入生歓迎と卒業パーティだけでも二回でしょ。その他に、社交シーズに合わせて一回開かれるし。それに、生徒たちだけでなく、新入生歓迎と卒業パーティは家族も出席できるし」
なんか、集団お見合い的なものを感じる。
「家族がいないリーンにはちょっと大変かもしれないわね。エスコートの問題もあるし」
「ああ、やっぱり。そういう問題があるのね」
「まあね。学院の中でカップルになっているところは問題ないけれど、なっていないところは自分で相手を見つけるか、家族に頼むかっていうのが多いかしら」
「どちらもいない私はどうしたらいいかしら?」
「そう言われると、どうしよう」
うーん、と二人で唸る。
「いっそのこと、学長にお願いしてもいいかしら?」
とアイリーンが言うものだから。
「それはそれで面白いけれど、面白いだけで終わってしまうからやめてちょうだい」
とノエルに言われてしまう。
「では、欠席で」
とアイリーンはずっと考えて、言いたかったことを口にする。
「それはそれで問題。あなた、留学生で学院の中でも注目を浴びているし、生徒会のメンバーも引き受けてしまったし」
「どうしようもないのね」
八方ふさがりとはまさしくこのことか。前にも後ろに左右もいけない。もちろん斜めの学長という逃げ道も塞がれてしまった。
「ちなみに、ノエルはどなたと?」
間違ってもイブライムではないだろう、とは思うのだが。家族という意味では彼が適任かもしれない。
「私? 私はジョアよ。まさか、イブだと思った?」
そのどちらでもないと思っていました、とは言えない。まさかの黒髪眼鏡とは。
「もしかして、イブを貸してほしいとか?」
その言葉に首を横に振る。極力、王族とは関わりたくない。ノエル除く。
「会長とかにも、相談してみる? それとも会長が良い?」
金髪の会長のフランシスは赤髪のダンカンといい仲だ。ただし、アイリーンの脳内に限る。だから、その二人の仲を裂くようなことはしたくない。
「あー、部長とかは? 部長もああ見えて彼女がいるけど、相手は年上だし学院を卒業されたし、話をすればわかってくれるかも。部長の彼女さんも寛大な人だから。きっと、大丈夫よ」
部長か。そう言われると、部長はまだアイリーンの中でカップリング対象になっていない。しいて言えば、サラだが。
「ちなみに、サラ先輩はお付き合いしている方とかいらっしゃるの?」
「もしかして、部長とサラ先輩だと思ってた? 仲は良いけれど、恋人同士ではないのよね。サラ先輩はね、ダンカンさんよ」
なんだと。ここでまた新たなる関係が。
副会長のダンカンとサラが恋人同士で、そのダンカンを狙う会長フランシス。という構図が、アイリーンの脳内には展開されている。一本、話が書けそうだ。
「後で問題にならないところでお願いしたいです」
「わかったわ。部長に確認してみましょう」
と、次の日、ルークに確認したところ「喜んで引き受けるよ」と言ってもらえた。とりあえず、パーティはなんとかなりそうだ。
パーティはなんとかなったのだが、なんとかならないのが新入生の部活動見学。
「そういうことで、アイデア募集中」
ルークが腕を組みながら言う。昨日の今日でアイデアが出るとは思えない。ところが、ノエルがおずおずと一冊のノートを差し出した。
「部長、これ、リーンが書いたものですが。素晴らしいのでぜひ見てもらいたいと思って」
「エル。ちょっと。プーランジェの言葉を勉強するために、それを貸したのであって。部長に見せるために貸したんじゃないわ。複写したいっていうからであって」
とアイリーンは混乱中。
「そうなんだけど。でも、こんなに素晴らしいものを私が独り占めするのはどうなのかな、と思って。どうせなら、みんなに見てもらいたいし、できれば部活動見学で使いたいの」
そこまで大絶賛してもらえるのは嬉しいけれど、せめて事前に相談して欲しい。
「ごめんね、リーン。でも、これ。見れば見るほど、私が一人で堪能するのはもったいないのよ。もっとたくさんの人に見てもらうべきだわ」
ノエルからの称賛が止まらない。嬉しいけれど恥ずかしい。
「リーンさん。僕が見ても良いかな?」
と一言断ってくれるのが、ルークなりの優しさだ。
ここまできたら乗り掛かった舟。一緒に沈んでやろうと思う。
「はい。でも、私の趣味で書いてあるものなので、受け入れられなかったらそっと閉じてください」
「ははは、リーンさんは面白いね」
そしてルークはノエルからノートを受け取る。ゆっくりとページをめくる。その脇から、サラが覗き込む。
「やだ、ちょっと、何これ。私の理想のロイドがここにいる」
「サラ、耳元で騒ぐのはやめてくれ」
「やめられない。ルークが見たって面白くないでしょう。私に見せなさい」
「面白いか面白くないかの判断は僕が決める。それよりも、これがわかりやすいということだけはわかる」
それからルークとサラは黙ってノートのページをめくっていく。最後のページまで見終えると、ノートを閉じてテーブルの上に置く。ルークは腕を組んで何かを考えているようだ。その隙にサラがそのノートを手にする。
「これを部活動見学に使う」
とルークは呟いている。
「いや、それではリーンさんの負担が」
とかなんとか。左手で顎を撫でている。この沈黙が怖い。
「リーンさん。これはとても斬新で素晴らしい」
ルークからも大絶賛。
「私も一冊欲しいわ」
同人誌を売ってくれ的なノリのサラ。さすがサラ。
「サラ。いいから君は黙っていてくれ。話しがまとまらない」
興奮しながら、アイリーンのノートを手にしているサラに冷たい視線を投げかける。
「こうやって、自分たちのお気に入りの一冊を紹介するものを、活動見学で展示してみたらどうか。と僕は思ったのだが、残念ながらこんな素敵な絵は描けない」
「では」
とアイリーンがパチンと手をたたいた。
「ポップを作るというのはどうでしょうか?」
「ポップ?」
と他の四人が聞き返す。
「はい。その本をどうしてオススメしたいかを紹介する簡単な文章です。これくらいの紙に書きます」
これくらい、というところでアイリーンは両手の親指と人差し指を使って長方形を作った。
「紙の形もいろんな形でいいんですけれど、例えば昨日サラ先輩からオススメされたこの本でちょっと作ってみますね」
アイリーンは部室内にあった色紙とペンでさらさらと文字を書く。まずは本のタイトル。これは『美しき二人』。それから作者名。キャッチコピーは『愛は時代を駆ける』かな。文字のフォントもわざと丸みを帯びた甘い感じで書いてみた。それから、オススメのポイントを書いて、さらっとイラストをつける。
「こんな感じです。これを、本と一緒にこうやって並べると。どうですか? 読みたくなりませんか?」
「サラが好きな本だから、読むのをためらっていたが。こうやって本が並んでいたら、気になって読みたくなる」
とルークがアイリーンの作ったポップとその本を手にする。
「部活動見学の期間中に、これを本と一緒に部室内に飾っておくのはどうですか? もし作ってみたいっていう一学年の生徒がいたら、一緒に作るのもありですよね。そうすれば私たちもいろんな本を知る機会にもなりますし」
「そうだな。やってみようか?」
ルークは残りの三人の顔を見る。彼女たちは頷く。さりげなく自分の好きな作品を布教できるチャンスなのだ。やって損は無い。
「でも、リーンみたいな絵は描けないわ」
ノエルが残念そうに言う。
「でしたら、イラストのイメージを伝えてくれれば、私の方で描きますよ。これくらいの絵ならすぐに描けますから」
「リーンさん。黒髪の短い髪で、眼鏡の男性魔導師を描いてみて」
いきなりサラが無茶ぶりをしてきた。
「クールな感じですか? 可愛らしい感じですか?」
「可愛らしい感じでお願い」
サラのことだ。多分、この魔導士は『受け』にちがいない。という妄想を膨らませて、描いてみる。
「こんな感じでいかがですか?」
「ちょっと可愛すぎるけれど、だいたいはこんな感じだわ。この絵を使ってもいいかしら?」
「ちょっと待ってサラ。紹介する本は全年齢対象の本だ。年齢制限のある本はやめてくれ」
「ルーク。この本は全年齢対象よ」
「君の読んでいる本の大半は、君の年齢でさえも危うい本ではないのかい?」
「失礼ね。そういう本は積んであるのよ。あと一年我慢しているの」
でも、手元にはあるんですね。とアイリーンは思った。
数ある作品の中から読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマ・評価もありがとうございます。嬉しいです。
まだ続きます!





