第4章:違和感
王太子は馬車を降りた。
視察という名目だが、実際には確認だ。
この街のどこかに、ほころびがあるはずだった。
繁栄しているように見えても、
どこかに無理がある。
そう思っていた。
護衛を従え、王太子は街を歩く。
石畳ではない。
土の道だ。
だが水はけがいい。
雨の跡が残っていない。
足元は安定している。
王太子は周囲を見る。
最初に気づいたのは――灯りだった。
通りの柱に灯っているのは魔導灯ではない。
油灯。
ガラスの中で、小さな炎が揺れている。
王都なら魔力灯だ。
半永久的に光り続ける。
だが維持費は高い。
魔力結晶。
術式維持。
管理魔術師。
すべて金がかかる。
だがこの街では違う。
油灯は安い。
修理も簡単。
誰でも扱える。
王太子は次に耳を澄ます。
どこかで低い音がする。
回転音。
軋む木の音。
音の方向を見る。
川だった。
川の上に大きな輪が回っている。
水車。
その回転が、横の建物へと伝わっている。
粉挽き小屋。
水の力で石臼が回っている。
魔力ではない。
ただの水の流れ。
それだけで小麦が粉になる。
さらに歩く。
少し開けた場所。
そこには高い木の塔があった。
羽が回っている。
風車。
乾燥小屋と倉庫につながっている。
穀物の乾燥。
換気。
保存。
王都なら魔術冷却庫だ。
だがここでは風が使われている。
魔術はある。
だが小さい。
簡易術式。
水を浄化する魔法。
倉庫の湿度を調整する魔法。
防虫結界。
どれも大規模ではない。
最小限。
必要な分だけ。
王太子は立ち止まる。
側近が聞く。
「殿下?」
王太子はゆっくりと街を見る。
灯り。
水車。
風車。
人の手。
そして、ところどころにある小さな魔術。
魔力は使われている。
だが――
依存していない。
王都は違う。
照明。
輸送。
冷却。
保存。
すべて魔力。
魔法が止まれば、都市も止まる。
だがこの街は違う。
魔力が減っても動く。
王太子は静かに言う。
「……効率がいいな」
側近はうなずく。
「魔力消費が少ないのでしょう」
王太子は再び街を見回す。
この配置。
この設計。
偶然ではない。
ばらばらに見えるが、どこか統一されている。
水の流れ。
風の通り道。
人の動線。
そして魔術の位置。
すべてが――
無駄なく配置されている。
王太子の胸に、ゆっくりと理解が浮かび始める。
これは偶然ではない。
誰かが整えた街だ。
そして、その「誰か」を
王太子は知っている。
口には出さない。
だが心の奥で、ひとつの名前が浮かぶ。
レティシア。




