第五幕 ラストシーン
王城。
高い塔の執務室。
窓は大きく、王都を一望できる。
石造りの街並み。
整然と並ぶ屋根。
まっすぐ伸びる街路。
広場では人が行き交い、
市場は静かに賑わっている。
争いもない。
混乱もない。
完璧な都市だった。
整いすぎた都市だった。
宰相フェルナーは窓辺に立っている。
背後の机には、山のような書類。
税収報告。
人口統計。
魔力観測記録。
すべて読んだ。
すべて理解した。
そして――
何も言っていない。
言えない。
彼は静かに王都を見下ろす。
整った街。
穏やかな空気。
騒ぎもない。
だが。
数字は違うことを語っている。
商人は減っている。
職人も減っている。
物流は細くなっている。
魔力の流れも変わった。
この都市はまだ立っている。
だが、
重心がずれている。
わずかに。
しかし確実に。
フェルナーは小さくつぶやく。
「国家は」
少し間が空く。
視線は遠く。
「崩れるとき」
言葉は静かだ。
誰も聞いていない。
「音を立てない」
窓の外では、
いつもの王都が動いている。
兵士が巡回し、
貴族の馬車が通り、
市場で値段交渉が行われる。
何も変わらない。
何も起きていない。
だが、
遠く。
王都の向こう。
山の向こう。
霧の彼方。
細い煙が、
まっすぐ空へ伸びている。
辺境の煙。
小さな町の窯の煙。
誰も気づかない。
だがフェルナーは、しばらくそれを見ていた。
王国は、
まだ倒れていない。
だが。
もう
まっすぐでもない。
ほんのわずかに、
傾いている。
第五幕、終。




