第21話
件の冒険者との繋がりが判明した中堅五人組パーティー。その情報をリンから知らされたヴァンは、更に四日をかけて彼らの能力や行動パターンについて綿密な調査を行った。
報告通り五人組は懐具合に余裕があるらしく、探索は二日に一度ペース。しかも他の冒険者のように需要が高まっている今が稼ぎ時と朝から晩まで迷宮に潜ることもなく、朝夕の混雑を避け遅めに迷宮に入り早めに探索を切り上げている。
実力にも活動内容にも突出した特徴はない。バランスのとれた若手中堅冒険者であり、狩りも行えそうだが現在は採取中心に活動を行っているそうだ。
「……なるほど。今の迷宮は先般の損失を取り戻そうと躍起になる冒険者で溢れトラブルも多い。彼らはそうした衝突を回避するため、効率よりも安全優先で人気の少ないエリアを中心に活動している、と──うってつけだな」
「…………」
神殿騎士ヴァンはリンからの最終報告を読み、満足げに頷く。
何が“うってつけ”なのかは敢えて言及しないその物言いに、リンは沈黙を以って同意した。
「明日、迷宮内でそのパーティーに接触する。案内とポイントの選定は任せて構わないな?」
「はっ」
ヴァンの指示にリンは即答した後、確認を取る。
「こちらは何人で行動する予定でしょうか?」
「……五人、お前を含めて六人だな」
「……宜しいので?」
リンはヴァンがいつでもその倍以上の団員を動かせるよう準備していたことを暗に指摘するが、ヴァンの答えは簡潔だった。
「我々も明日は冒険者として行動する予定だ。あまり大人数で動くと怪しまれる」
ヴァンやリンを含め、教会関係者のほとんどがギルドに冒険者として登録を行っており、迷宮に潜るには支障がない。と言うより、教会関係者に限らず成人した迷宮都市の住人の大半が何かあった時に備えて冒険者登録自体は済ませている。
教会関係者が実地訓練と称して迷宮に潜ること自体は珍しくないが、明日の目的を考えるとあまり大人数で動いて人目を引くことは好ましくない。
「何より、それで十分だ」
荒事になった場合に備え人手を準備しておくべきではとのリンの意見をヴァンは一蹴した。
無駄な争いを避けるためにも人手は多くいた方がいい。リンはそう考えていたが、怪しまれたくないというヴァンの考えにも一理あり、それ以上の差し出口は避けた。
僧侶や聖騎士を中心に構成された彼ら神殿騎士は、こと対人戦においては無類の強さを発揮する。仮に荒事になったとしても、手こずることはないだろう、と。
宗派やスタイルによって得意不得意はあるものの、神の奇跡により回復・防御・攻撃・解呪の各種呪文を使いこなし、貧弱な魔術師とは違ってある程度白兵戦もこなす僧侶。
純粋な戦士に匹敵する白兵戦能力に、初歩的な呪文能力と加護を併せ持つ聖騎士。
彼ら神の戦士たちは対人戦に必要な要素全てを高水準でバランスよく備えており、戦争などでは無類の強さを発揮してきた。
そもそも重い鎧で身を固め、多少怪我をしても自分で治療できる戦士が強くないはずがない。
弓矢などの遠距離攻撃や呪文攻撃は得意の防御呪文でガード。毒や呪いといった搦め手も回復されてしまう。
集団戦では“回復役を狙う”のがセオリーだが、神殿騎士たち相手ではそれも通用しない。余程の実力差や数に違いがない限り、同数の戦いで神殿騎士が遅れをとることはなかった。
強いて彼らの弱点を挙げるならバランス型で飛び抜けた能力がないことと、手札の種類が少ないこと。
純粋な戦士職と白兵戦能力を比べても叶わないし、魔術師と比べれば習得できる呪文の種類が少なく、応用力には欠ける。
そのため魔物相手だとバランス型の能力を一点突破されることも珍しくないが、それでもタフな回復役は冒険者としても重宝される。
信仰上の制約などに目を瞑れば、彼ら以上に優遇された職もそうないだろうというのが、一般的な世間の考えだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──と、こんな感じでお願いします」
『…………』
目の前で行われたデモンストレーションに、犬ジイとその部下、協力者たちが呆気にとられる。
その視線の先にいるウルは周囲の驚愕に気づくことなく、予想通りの結果が得られてホッとした表情。
「えと、作戦は以上なんですけど、実行にあたって何か質問とかありますか?」
『…………』
ウルの問いに周囲は困惑した様子で顔を見合わせるが、特に質問や問題の指摘などは出てこない。
沈黙を誤魔化すように、ウルは自嘲気味に言葉を続けた。
「あ~……ホントはもう少し余裕をもって数を準備したかったんですけど、時間がなかったというか、予算オーバーしちゃったと言うか……」
『…………』
違う。いや確かにウルが準備した魔道具の数は少なかったが、不測の事態に備え最低限の予備は確保してある。誰も作戦に不備があるとは考えていなかった。
周囲の反応がないのはただただ驚き、呆気に取られていただけ。
──化けたな。
犬ジイは静かに、驚きと共に確信する。
ゴブリンヒーローの一件で片鱗は見えていた。だがその時は自分が直接現場にいなかったこともあり、偶々手持ちの札がハマっただけだろうと軽く見ていた。
しかし、ことここに至って確信する。この少年の牙は──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
迷宮第七階層。
岩場と砂地の複合エリアで、多様な鉱物資源を採掘することが可能だが、種類の割に素材の量はそこそこ。すぐ下の第八階層も岩盤エリアで潤沢な量の鉱物資源が採掘されることから、冒険者の間ではあまり人気のないエリアであった。
ただ上手く市場ニーズを捉えて採掘する素材を選べば、最小の労力でそこそこの利益を上げることはできる。リンの調べでは、ターゲットの五人組は市場ニーズの高い稀少鉱石を狙って活動を行っているらしい。
それはヴァンたちにとって都合の良いことに、これから行うことを他の者たちに目撃されにくいということでもあった。
「団長」
「……戻ったか」
リンを含めた三人の部下が周辺の探索から戻ってくる。神官系の部下たちは戦闘面では頼もしいが、唯一斥候系のスキルだけは持ち合わせていない。この中で立場は一番低いが、斥候もそこそこにこなせるリンが代表し報告のため口を開く。
「ターゲットはここから三〇〇メートルほど先、砂地と岩場の境界面で採掘作業を行っています。周辺に人影や魔物の気配はありません」
「……砂地というのは?」
迷宮にさほど詳しくないヴァンは、リンに判断材料となる情報を全て吐き出すよう促す。
「ただ深く広いだけの砂地です。先は行き止まりで、特に何か資源が採れるという話も聞きません。加えて砂男が棲みついているという噂があるため、冒険者はあまり近づこうとしません」
「砂男──確か人を眠りに落とす妖精だったか?」
あまり害のない妖精のはずだが、と疑問を表情に浮かべるヴァンに、リンは頷きながら注意を促した。
「はい。単独では無害な存在ですが、迷宮内で眠ってしまえば……」
「ああ。無事ではすまんか」
疑問が一つ解消され、そしてまた新たな疑問が生まれる。
「奴らは何故、そんな場所で作業を行っているのだ?」
岩場側から強力な魔物に襲われでもしたら逃げ場がない。戦術的にあまり賢い位置取りとは思えないが、何か有益な鉱物資源でも採れるのだろうか?
「……これは私の推測も混じりますが、この階層は砂地に近づくほど極端に魔物の気配が薄くなっています。砂地周辺は魔物も嫌がって近づかないのではないかと」
「ふむ。危険は高くないか?」
「はい。そもそもまだ上層ですので、それほど強力な魔物は生息していません。であれば、人気の少ないこちらの方が場も荒らされておらず作業しやすいと判断したのではないかと」
「……なるほどな」
ターゲットである冒険者パーティーの行動に不自然な点はないようだ。
そして、そうであるならばこの状況は自分たちにとって望ましい。
邪魔が入るリスクは小さく、一方が行き止まりで逃がさず追い詰めることは容易い。
──こうも自分たちに都合の良い展開が続くと罠の可能性を疑いたくなる──が、みすみす好機の女神を取り逃した道化男になるわけにもいかん。
ヴァンは静かに決断すると、こちらを見つめる部下たちを見回し、口を開いた。
「……予定通り、ターゲットを襲撃する。リン。お前はここに残って他の冒険者が近づいてこないか警戒しろ」
「はっ」
「他の者は私と共に来い。交渉は行うが素直に口を割ることはないだろう。準備を怠るな」
部下の一人が、念のため確認する。
「……生け捕りの必要はありますか?」
「不要だ。死体を地上に持ち帰り、蘇生してから話を聞いた方が早い」




