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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第二章

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第20話

──スラムの顔役──

「お、いいんじゃねぇか。試してみろよ」


──冒険者ギルド担当者──

「ははぁ……こっちは正直もうクレーム対応だけで手一杯でして。手を打ってくださる分にはもう何でもいいですよ。予算は……何とかします」


──上級冒険者パーティーのリーダー──

「俺らのミスの尻拭いをしてくれたのはお前らだ。今回に限り、俺たちはお前らの指示に従う」




「──と、いうわけで、こちらが今回ゴブリンヒーロー討伐作戦の指揮を執ることになったウルくんです。はい、拍手~」


レーツェルの気の抜けた紹介を受けて、冒険者ギルドの会議室に集まっていた十数名がバラバラに手を叩く。同意した覚えもないのに指揮を任され、一番上座に座らされていたウルは顔を引きつらせ、一同の注目が集まる中おもむろに口を開いた。


「えっと……ただいま紹介にあずかりましたウルです」


そこで言葉を区切ってこの場にいる面子をぐるりと見まわす。


座席はテーブルに合わせコの字型に並べられていて、中央ウルの横にレーツェル、エレオノーレ、カナン、エイダの臨時パーティー組。


向かって左側の列は暗殺者アサシンのフルウをリーダーとした上級冒険者四人組、その後ろにレヴという戦士をリーダーとした若手冒険者五人組が椅子だけ並べ据わっている。


右側の列はウルの担当のロイドを中心としたギルド職員が三名。少し間を空けて一番下座に犬ジイがオブザーバーとして同席しているが、彼は会議の流れと方針を聞きに来ただけだと宣言しており、基本的には部外者だ。


「まず最初に今回の作戦の──」

「──ちょっといいか」


ウルの説明を遮ったのは上級冒険者の弓使いロット。彼は不機嫌そうな態度を隠すことなくジロリとウルを睨みつけた。


「今回の一件で俺らはやらかした身だ。うちのリーダーが納得してる以上、お前らに命令されんのが嫌だなんだと駄々こねるつもりはねぇ。──が、何でそいつが指揮を執るんだ?」


──だよね! おかしいよね!?


ウルが思わず手を握って同意しそうになるのをグッと堪えている間に、ロットは言葉を続けた。


「そのガキはまだ冒険者になって間もないひよっこなんだろ? 序列で言えばカナン、お前さんが指揮を執るべきじゃねぇのか」

「──無理だね」


誰もが疑問に思う当然の指摘にカナンは肩を竦めて即答する。そして自分に突き刺さる視線に、僅かに自嘲の混じった声音で理由を説明した。


「あたしはこの間、あの得体の知れないゴブリンと直接戦った。あれと直接やりあった人間なら分かるだろう。ありゃ強いとか弱いとかじゃなく意味が分からない。あたしは二度と戦いたいとは思わないし、勝てるイメージが湧かない。そんな人間が指揮を執るわけにはいかないさ」

「……確かにのう」


それにしみじみと同意したのは、先日あのゴブリンに殺されたドワーフのガーヴィー。


「ワシも戦いから逃げるつもりはないが、勝てるかと聞かれれば首を傾げざるを得ん。その状態で指揮を執れと言われても難しいわい」

「…………けっ」


ロットは不満そうな表情のままだったが、仲間の宥めるような視線に一旦文句を呑み込む。


「私からもいいかしら?」


続いて口を開いたのはノームの女性ゼンゼ。


「念のための確認なんだけど、その“ゴブリンヒーロー”っていうのは?」


何となく雰囲気で理解し流していた部分について言及する。それに答えたのはウルたちではなくロイドだ。


「それに関しては、我々と彼らとの話し合いの中であの異常個体イレギュラーにつけた仮称です」

「正式な分類ではないということ?」

「はい。いつまでも異常個体と呼び続けるのも不便ですから」

「……ゴブリンにヒーローとは何とも皮肉な名前ね?」

「脅威度を印象付けるには丁度よいかと。加えて言うなら、多少冗談染みた名前の方が現時点では都合が良いのです」

「?」


首を傾げるゼンゼに、ロイドは寝不足でクマの浮かんだ目元を軽くもみほぐして続けた。


「……ついでですから説明しておきましょう。もう分かっている方もおられるとは思いますが、今回のゴブリンヒーローの存在に関して、ギルドや都市上層部の意見は割れています」

「──ハッキリ言えよ。ンなゴブリンいるわけねーって疑ってるって」

「ロット」


皮肉気に茶々を入れたロットをフルウが窘める。


「そうですね。それは否定しません。ですが逆の立場なら、皆さんも安易に信じることはできなかったのではありませんか?」

「…………」


沈黙が何よりの答えだ。

暗に八つ当たりを指摘されたロットは腕組みして黙り込む。


「加えて、最弱の魔物であるゴブリンに上級冒険者でも手を焼く異常な個体が混じっているという情報は劇薬です。しかも見た目には全く通常のゴブリンと区別がつかない。万一これが真実として広まれば、どのような影響を及ぼすことになるのか……真偽の判断、情報の扱いには細心の注意を払う必要があります」


ロイドはそこで一度言葉を切り、グルリとその場にいる十四名の冒険者を見回す。


「改めてお伝えしますが、今回の異常個体──ゴブリンヒーローに関しては一切の口外を禁止します。その為、迷宮内に棲みついたゴブリンに対する当面の対処は、既にゴブリンヒーローと交戦経験のあるこの場にいる方々だけで行っていただくことになります」


つまりこれ以上の増員は期待できない。

この場にいるほとんどの者は言われるまでもなくそのことを察していたが、それでもゼンゼは誰かが言わなければならない懸念を口にする。


「……つまり逃げ帰ったこの面子だけでアレに対処しろってことね。まぁ、それ自体は別に構わないけれど、当然、ゴブリンヒーローとやらを倒す見込みがあっての依頼なのよね? どんな事情があろうと、どんなにお金を積まれても無謀な作戦なら私は手を引かせてもらうわよ」


その言葉にロイドは無言で視線を動かし、その場にいた全員の視線がウルに集まる。


ウルは緊張とプレッシャーで思わずえずきそうになったが、何とかそれを堪えて口を開く。


「それなんですけど……先ほど彼女の方から『ゴブリンヒーロー討伐作戦』と説明がありましたが、今回の作戦では直接ゴブリンヒーローは狙いません」

「──はぁ!?」


その言葉に一際大きく反応したのはロット。

驚いたのは彼だけでなく、予め作戦を聞いていたレーツェルたちとフルウ以外の冒険者は皆目を丸くしていた。


「あれを狙わねぇって、じゃあ何を狙うつもりだ? まさか先に取り巻きのゴブリンから減らしていこうとでもいうつもりか?」

「そうですね。まぁ、絶対取り巻きから倒すというわけではなくて、アレはしぶとそうなので多分結果的にそうなるだろうな、という話ですけど」

「──無茶だ!!」


叫んだのはロットではなく、それまで黙って会議の行方を見守っていた若手パーティーのリーダー、レヴ。


彼は自分に注目が集まったことで一瞬気まずそうな表情を見せたものの、自分もパーティーのリーダーとして意見を述べねばならないと、意を決した様子で口を開いた。


「……ゴブリンヒーローとやらは他のゴブリンに紛れて暗殺者のようにこちらを狙ってくる。確かにアレをどうにかるすために先に隠れる場所を減らすという発想は理解できます。ですが、そのためには結局、あれと相対しなければならないんですよ? 僕もあれから色々考えてはいましたが、接敵前にあの群れをどうにかするには手数と火力が足りない。そして、もう一度群れに取りつかれて逃げ切れる保証はどこにもありません」


レヴの意見に同意するように、ロットたちもウルを胡乱な目つきで睨みつける。


ウルは『事前にフルウから説明しておいてくれれば良かったのに』と胸中でぼやき、溜息を噛み殺しながらレヴの懸念に答えた。


「そうですね。おっしゃる通りあの狂奔したゴブリンの群れと、そこに紛れて暗殺者のようにこちらを狙うゴブリンヒーローの組み合わせは厄介です。ただそれは、ゴブリンの群れが──」

「────?」

「────」

「────!?」


ウルの言葉に当初レヴやロットたちは懐疑的な反応を示していたが、淡々としたウルの説明を聞くうち、徐々に安堵というより呆気にとられた──より率直に言えば気が抜けたような表情になる。


作戦自体はシンプルで分かりやすく、ミスや紛れが入り込む余地は少ない。


使用される魔道具に関しては初めて聞く物なので疑念がないわけではないが、性能を聞く限り決して特殊なものではなく、また既に効果も実証されているという。


『…………』


それを聞いた十人中十人が『それなら多分どうとでもなる』と考えざるを得ない作戦内容。


「えと……」


そんな周囲の心情を理解することなく、ただ一人説明したウルだけが反応の薄さに戸惑った様子でキョロキョロ視線を漂わせていた。

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