表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/162

第14話

──クソッ! 何で俺達ばっか……!


上級冒険者パーティーのリーダーにして暗殺者アサシンのフルウは、ここ最近自分たちに連続して降りかかるトラブルに胸中で悲鳴を上げた。




現在の迷宮都市エンデにおいて、多くの冒険者たちは迷宮に潜れず仕事が無いと悲鳴を上げているが、フルウたち上級冒険者の立場は真逆。事件の解明と解決のためにギルドから絶え間なく強制依頼を命じられ、しかもここ数日は街の治安維持にまで駆り出される有様だ。


加えてギルドや都市の上層部はとにかく解決しろと喚くばかりで具体的な方策を打ち出す訳でもなく、現場は混乱。フルウたちはとにかく自分たちの身の安全を最優先としつつ、周囲に与えられた依頼の範囲でこれ以上の被害拡大と原因究明のために駆けずり回っていた。


疲労を押してフル稼働しているフルウたちだったが、しかし今の都市の問題全てに対処するには上級冒険者だけでは圧倒的に手が足りない。


本来であればトップが優先順位を明確にして戦力を配分すべきなのだが、上層部は「迷宮探索の健全化を」「市民の命が最優先」と好き勝手なことを言うばかりで方針がまとまらず、戦力を満遍なく分散してしまっている。


それを『愚策』とまでは言わないが、決して賢い選択でないことは確か。結果的に迷宮内で原因究明を命じられたフルウたちは手が足りなくなり、経験不足の若手パーティーを補助役サポーターにゴブリンと得体の知れない敵が潜む六層を探索せざるを得なくなっていた。



それでも最初は上手く行っていた。

戦士のレヴをリーダーとした五人組は、かねてからフルウたちが目をかけていた一団。特にレヴたち中心メンバー三人は、結成から一年足らずで見習いを脱し中層に進出した経験を持つ有望株だ。物分かりもよく、逸ってミスをすることもない。流石に自分たちと同レベルの仕事を期待するのは無理があるが、荷物持ちや警戒の補佐など彼らのおかげで負担は大幅に軽減できた。


また数は力だ。

他の上級冒険者パーティー──しかも六人組が全滅したことを受け、フルウたちも自分たち四人だけで活動することに不安を感じていた。単純に人数が四人から九人に増えて戦力が倍とはいかないが、それでもレヴたちの存在が精神的な安定に一役買っていたことは間違いない。


そう。確かに彼らは役に立っていたのだ。


しかし──




「きゃぁッ!?」

「エーラ!!」


レヴのパーティーの魔術師が、小柄なゴブリンに取りつかれて悲鳴を上げる。レヴは慌てて救出に向かおうとするが、


「落ち着け! お前が持ち場を離れたら完全に前線が崩壊するッ!」

「でも──っ!?」


──バシュッ!


抗議しながらも寸でのところで立ち止まったレヴに代わり、ロットの弓がエーラに取りついていたゴブリンの眼球を射抜き、救出する。しかしエーラはショックで恐慌状態にあり、しばらく戦力としては期待できそうになかった。


「──ゼンゼっ!」

「駄目! この乱戦状態じゃ皆を巻き込んじゃう……!」


戦況を打開しようと呪文遣いに指示を出すが、返ってきたのは悲鳴のような叫びだった。



ことの始まりは十四、五体からなるゴブリンの小集団との遭遇。


待ちかねた手掛かりとの遭遇であり、フルウたちには油断も緩みもなかった。


本来この程度の数であれば、フルウたちは勿論、レヴたちでも比較的簡単に殲滅することができる。だが、彼らはゴブリンを囮に背後から何者かが強襲してくる可能性を警戒し、当初戦力の半分を周囲の警戒に振り分け、慎重にことにあたった。



──強いてフルウたちに失策があったとすれば、その初動の判断だったろう。



迎撃を任されたレヴが感じたのはほんの小さな違和感。非力で狡猾、卑屈な生き物として知られるゴブリンが、露ほどの恐怖も見せず自分たちに襲い掛かってきたことだった。


何か策があるのかと警戒を強めるが、その警戒はゴブリンたちそのものではなく、その周辺に向けられたもの。


ファーストコンタクト。


──ドゴァッ!!


『ぐ……はっ!?』


レヴたち前衛は、ゴブリンたちの想定外の勢いとパワーに押し負けた。


背後からその様子をうかがっていたフルウは少し遅れてその原因に気づく──ゴブリンたちの瞳に宿る狂奔。それは彼にとって馴染み深い狂信者と同じ光。肉体のリミッターが取り払われ、一二〇%のポテンシャルを発揮するに至った者の目だ。


『落ち着け! 多少勢いがあるだけで、普通のゴブリンだ!』


すぐさまフルウは檄を飛ばし、崩れかけた前衛の立て直しを図る。何らかの要因でバフがかかっているとはいえ、所詮はゴブリン。慌てなければ問題なく対処できる。


むしろことその時点においても、フルウたちの警戒の最優先は目の前のゴブリンではなく、その背後にいるだろう未知の敵。ゴブリンたちが予想外の力を発揮したからこそ、何者かがゴブリンを使い捨ての囮として用いたのだとの予測を強くしていた。



──その優先順位の誤りが、二つ目の失策。



『────がっ!?』

『ガーヴィー!!』


前線で若手を統率していたガーヴィー──ドワーフの聖騎士パラディンが、乱戦の影を縫うようにヌルリと至近距離に出現した一匹のゴブリンに喉笛を裂かれ、絶命した。


やられたのが上級冒険者のドワーフでなければ、あるいはそれを為したのが脆弱なゴブリンでなければ、彼らの驚き──混乱はもっと小さかったかもしれない。


更に勢いづくゴブリンたちは前線をズタズタに切り裂き後衛にまで襲い掛かってくる。また、ガーヴィーを殺した得体の知れないゴブリンも、この乱戦に紛れて既に見分けがつかなくなっていた。


後はもうグチャグチャだ。

前衛も後衛もない乱戦状態で、指揮官であれば目を覆いたくなるような消耗戦の有様。


個々の地力の違いから一方的にやられるようなことはないが、数ではゴブリンたちが上。しかも──


「──ガハッ!」

「ギル!!」


まただ。得体の知れないゴブリンの奇襲によってまた一人前衛が命を落とす。


“全滅”の二文字が現実感を以って一行の脳裏にのしかかっていた。


──撤退だ。こうなったら仲間の死体も諦めるしかないが、それでも何人生き延びれるか……


フルウが短刀でゴブリンたちをいなしながら、撤退の機を探る。


死体さえ持ち帰れば死んだ仲間も蘇生できる可能性があるが、この状況で死体を運んで撤退するほどの余裕はない。それどころか死体を無視して整然と撤退できたとしても、このゴブリンたちの勢いと先ほどからの奇襲を考えれば、半数も生還できるかどうか……


フルウは仲間の死に混乱するレヴたち若手の様子を確認。

その後チラリとパーティーの仲間──ロットとゼンゼに目配せし、即座に決断する。


「撤退だ! 死体は置いて全力で逃げろ!」

『は──っ!?』


信じられないといった風に目を見開くレヴたち。


「急げよ!」


しかしフルウたちはそんな彼らの困惑などお構いなしに撤退を始めてしまう。


そしてレヴたち見習いの反応の遅れはフルウたちの狙い通りだった。

危険な任務に若手を連れてきた立場上、生き残るために大ぴらに若手を犠牲にして生き残るような真似はできない。だが、撤退という判断に彼らが即座に従わず、やむを得ず犠牲になったのなら話は別。結果的にレヴたち若手はフルウたちの逃亡を助ける殿を担うことにもなる。


決して褒められた振る舞いではないが、今は一人でも多くの上級冒険者の戦力が必要な非常時。ギルドも問題視することはないだろう。


──悪く思うなよ!


いち早く乱戦から抜け出したフルウ。しかし──


「────は?」


その行く手に白い毛並みのオークが立ちふさがっていた。


──まさか、ここで?


ゴブリンを囮にしての奇襲。当初から彼らが警戒していたシナリオだ。


しかしゴブリンの襲撃すら受け止めることができず全滅しかけ、フルウたちの思考からは完全にそのシナリオが吹き飛んでいた──いや、対応する余力がなかった。


──まだだ! いるのはオーク一体だけ。それならまだ何とか──他に伏兵は……!?


混乱。走りながらで思考がまとまらない。とにかくオークに一撃加えてすり抜けるか、フルウが覚悟を決めた──刹那。


「ガァァァァァァァァツ!!」

『────!』


オークの咆哮ハウル──精神的に混乱していたところ、その直撃をもろに受けてしまいフルウたちの身体が硬直する。


──マズい! 動け、今すぐ動け! このままじゃ死──


死を覚悟したフルウたちの脇を駆け抜けて、そのオークの女戦士はゴブリンの群れに単騎で突撃した。


「…………は?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ