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婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
本編

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90 二代目機甲侍女サリィちゃん


 サリィの乗るナイト・ホークが撃墜された後、リーズレットは何とか連邦軍の猛攻を止めようと奮闘していた。


 しかし、前面に弾幕を張られてなかなか近づけない。空を飛ぶイーグルは対空兵器で狙われ、地上部隊はレーザー魔導兵器に狙われる。


 連邦軍と違って防御型の兵器を持っていないリリィガーデン軍は相手の攻撃を防ぐ手立てがない。

 

 被害をゼロにするなら躱すしかないのだが、ロケット砲などの自走車両は積載量があるため動きが鈍い。


 連邦軍は……いや、恐らくこれはマギアクラフトの入れ知恵だろうとリーズレットは内心思う。


 確実にリリィガーデン王国軍の弱点を突くような対抗兵器の投入。連邦のバックにいるマギアクラフトが提案した作戦に違いない。


「チッ! 面倒なやつらですわねェ!」


 新兵器を投入すれば、相手が対抗兵器を生み出すのが戦争である。


 ある程度は予想していた流れではあるものの、今回は物量の差というのが顕著に出た。


 最強であるリーズレットが懐に潜り込めないのもそれが最大の原因である。


 さっさと敵を食い破り、自軍が反撃できるよう起点を作りたい。さっさと敵を殲滅して侍女であるサリィを助けに行きたい。


 魔導車のハンドルを握るリーズレットに苛立ちと焦りが募る。


 しかし、まだ悪い事は続く。


「きゃあ! ぐっ!?」


 共に前進しようとしていたコスモスが運転する魔導車が被弾した。


 バンパーが弾け飛び、続けてタイヤに被弾。バランスを崩したコスモスの魔導車はぐるぐると回転しながら地面を転がった。


「コスモスッ!」


 横転して停車したコスモスへチャンスとばかりに魔法銃を浴びせる連邦軍。


 リーズレットの魔導車が割って入り、急いで運転席から飛び出してコスモスを引き摺り出した。


 しかし、盾となった魔導車は火を噴いて爆発してしまう。


「コスモス! しっかりなさい!」


「す、すいません。マム」


 命に別状はないようだが、被弾して横転した衝撃で頭を打ったのか意識が朦朧としているようだ。


 爆発して残骸となった魔導車、横転したコスモスの魔導車を遮蔽物にして魔法の弾から身を隠すリーズレット。


 後方からブライアン達が救援に来ようとしているようだが、弾幕が厚くてなかなか近づけない。


「マム! 逃げてッ!」


 マチルダの叫び声が後ろから聞こえた。


 敵の様子を窺うとレーザー兵器の砲身がリーズレット達へ向けられたようだ。


 どうする。どう避けるか。リーズレットが頭をフル回転させながら逃げ道を探した時――背中にあった山が大きく震えた。


「な、なんですの!?」


 ゴゴゴ、と轟音を立てて震えた山の中腹に土砂崩れが起きた。


 土砂が崩れ、現れたのは金属製らしき巨大な扉。それがゆっくりと開いて――戦車が飛び出してきた。


 しかも、飛び出してきた戦車にリーズレットは見覚えがあった。


 あれはアイアン・レディが開発した機動戦車じゃないか、と認識した瞬間に戦車から馴染みの声が発せられた。


『お嬢様~!』


「サ、サリィ!?」


 機動戦車から聞こえた声はサリィの声だった。



-----



「行きますぅ!」


 加速したカタパルト・デッキが外へ続く道を疾走し始め、サリィが乗ったアイアン・クリーナー弐式を外へ射出。


 空を飛ぶように飛び出したサリィ。モニターにリーズレットとコスモスが敵に集中攻撃されているのが見えた。


「お嬢様~!」


「――――!?」


 サリィがリーズレットを呼ぶと彼女は驚いた顔を浮かべる。何か叫んだようだが、生憎リーズレットの声は聞こえなかった。


 しかし、サリィは想いを告げる事を止めない。


「お嬢様、私は、ずっとお嬢様の傍にいます~!」


 サリィは誓いに似た気持ちを改めて伝えた。


 初代チーフであるユリィから受け継いだ意思を口にしながら、2つの操縦桿をぎゅっと握る。


『地上に()()を複数確認。メインシステム、お掃除モードへ移行します』


 空中を飛び、重力に引かれて落下するアイアン・クリーナー弐式。


 メインシステムがお掃除モードに切り替わった事で、全武装のセーフティが解除される。


『チーフ。全セーフティの解除を完了。いつでもゴミを除去できます』


「奥にある邪魔な対空兵器とカメさんをお掃除したいですぅ!」


『ラージャー』


 アイアン・クリーナー弐式は地上へ着地すると同時に後部にあった誘導ミサイルポットが起動。


 コックピットにある180度モニターに映った敵機へ赤い丸が重なって、マルチロックオンが完了した。


「ふぁいやーですぅ!」


 ボボボ、と空中に飛び出した小型ミサイルが上空へ舞い上がり、一定距離に達するとロックオンした敵機へ向かって角度を変えた。


 小型ミサイルはずらりと前面展開された防御兵器の壁を飛び越え、奥に配置されるリーズレットを狙っていたレーザー兵器、イーグルを狙っていた対空兵器の一部に着弾。着弾と同時に大爆発を引き起こす。


「防御兵器を壊さないと~」


『問題ありません』


 アイアン・クリーナーは地上をキャタピラで高速前進しながら機体中央にある巨大な砲塔で歩兵を守る防御兵器へ狙いを付けた。


 コックピットには専用の照準が表示され、照準の色が白から赤へと変化する。


「ふぁいやーですぅ!」


 ドン、と撃ち出されたのは弾の先端部分がAMB (アンチ・マジック・バレット)になっている専用弾。


 その専用弾は発射時にソニックブームを生み出す程の速度で撃ち出された。


 巨大な砲塔から発射された巨大な専用弾は魔法防御を展開する兵器へ真っ直ぐ突っ込み、魔法防御に接触すると表面をガリガリ削り始める。


 魔素の火花が散って、魔導防御を貫通すると勢いをそのままに魔導兵器をぶち抜いて遥か彼方へ飛んで行った。


「やったー! やや?」


 敵の防御を貫いたサリィはコックピット内で喜ぶが……モニターの下部に主砲残弾『5』という数字を見た。


「魔法防御を貫く弾は残り少ないですか?」


『イエスです。残弾数は残り5発のみ、撃ち尽くせば補給を要します』


「むむむ……」


 AMBの生産は未だ確立されていない。どうにか、AMBを使わずに敵の防御を貫けないかとサリィはサポートゴーレムに問う。


『ラージャー。アイアン・クリーナー弐式、オール・クリーナー・モードに変形します』


 AMBを使わずに敵を殲滅する方法。それはアイアン・クリーナーの持つ最大火力を使用する事であった。


 それを使用する為にアイアン・クリーナーは変形を開始。


 キャタピラになっていた脚が可変して逆関節タイプの太い二本足に。


 本体両サイドにあった多連装ロケットランチャーはスライドしながら背面に移動。本体の上に乗っかっていた主砲が短くなって、本体の後方へ向かって折れ曲がる。


 本体前面にあったコックピットブロックが主砲のあった位置へと移動すると、コックピットブロックのあった位置には内部に隠された巨大な第2の砲が露出した。


 巨大な戦車から二足歩行する巨大な化け物へ。

 

 本体下部に現れた巨大な砲は化け物の大口のよう。


『アイゼン、ロック』


 逆関節に変形した脚から地面へ食い込むアイゼンが落ちた。


『第一主砲、第二主砲との連結を開始』


 後ろへ折れ曲がった主砲が本体下部にある第二主砲と連結し、回転しながら押し込まれる。


『リアクター最大出力で稼働。エネルギー圧縮開始』


 下部にあった第二主砲の砲身が伸びると、搭載された大型リアクターが唸り声を上げる。


 オオオオオオ!! 


 まるで化け物が雄叫びを上げるように。リアクターの稼働音が戦場に響き渡った。


 砲身に紫色のような光が収束していく。


 リアクター内に蓄積された魔素を純粋な魔法火力へと変換する機構が稼働して膨大なエネルギー弾を生成し始めた。


 コックピット内ではピピピピ、と電子音を発しながら専用の照準器が収束していく。


 やがて「ピー」と甲高い音に変わると、照準器が白から赤に変わった。


『撃てます』


「ファイヤァァですぅぅぅ!」


 第二主砲から飛び出したのは光の弾だった。


 光の弾――魔法エネルギーの塊は展開された連邦軍の中央真ん前に落ちた。すると、音すらも置き去りにして連邦軍の視界を真っ白に染める。


 彼等は何も感じず、何も聞こえなかっただろう。ただ、真っ白な世界を見ただけだ。


 連邦軍全体が白い世界に包まれると、ようやく音が鳴った。


 空から稲妻が落ちたような激しい轟音。全てを溶かすような爆発が連邦軍を包み込んで、全てを無に変える。


 生き残った者はいない。残っている兵器もない。残骸すらも残っていない。


 全て、一切合切を消し去って。大地には連邦軍全体を包み込んだ証拠として巨大なクレーターが出来上がった。


 アイアン・クリーナー最大の兵器を使用した本体からは排熱口より「ブシュー」と勢いよく大量の排熱が行われると空には白煙が舞う。


『全ゴミの除去を確認。チーフ、お疲れ様でした』


「はいですぅ~!」


 一時はピンチに陥ったリリィガーデン王国軍であったが、連邦軍はハイパー機甲侍女サリィちゃんによってお掃除されてしまった。


 さすがは侍女長。


 嘗て、リーズレットを支えていた初代侍女長であるユリィの意思を確かに引き継いだサリィ。


 彼女は遂に真の機甲侍女長へと至ったのであった。



読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故だろう。小説なのに、前話と今話は読み進める度にアニメな映像が脳内で鮮やかに展開されていく。 しかも俺の中でメカ作画監督が変形上手な大張正己……でわなく、ダイナミックでアクロバティックで…
[良い点] 圧倒的強さ一発逆転
[良い点] 何という熱い展開! ユリィといいサリィといいほんまええ娘(こ)や。 もうワクワクドキドキがとまりません! [一言] 「死ぬときはスタンディングモードで」 という機動戦車の台詞がどこからとも…
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