88 連邦難民兵部隊
拠点捜索隊を守るべく、リーズレット達は連邦軍を迎え撃とうと山から5キロ程度の位置に陣取った。
5機のイーグルとサリィの操縦するナイト・ホークが地上で待機。加えてロケット砲魔導車等もスタンバイを終えて万全な状態であった。
対し、進軍して来る連邦軍らしき軍は最前列に魔法銃を持った兵士がいくつかの塊になって真っ直ぐ進んで来る状態。
双眼鏡を覗くマチルダは最前列にいる兵士達を見て、進軍して来るほとんどが連邦の正規兵ではないとすぐに理解した。
「最前列にいるのは難民兵でしょう。奥に指揮官と思われる正規兵もいますが……少数ですね」
難民兵はまともな防具――現在主流となっているベストタイプのボディアーマーやヘルメットなども装着していない。
着の身着のまま戦場へ連れて来られ、魔法銃を持たされただけといった具合である。
そんな使い捨ての駒のような扱いを受ける難民兵達の最後尾に100名程度の連邦正規兵の姿が見えた。
「しかし、問題は……」
未知数なのは、いくつかの塊となって進軍する難民兵が囲んでいる自走魔導兵器だ。
6輪の中型トラックにパラボラアンテナのような物体が積まれた兵器はこれまでの戦闘で見た事がない。
恐らくはマギアクラフトの最新兵器だろうと予測される。
「あれだけ堂々と進軍して来るという事は余程の何かがあるんじゃないですか?」
「同感だ。あれは共和国首都にあった防御魔法の類ではないでしょうか?」
アンテナらしき物がくるくる回転しているだけで、攻撃の用途に使われるとは思えないとブライアンは言った。
「確かに攻撃用の兵器とは思えませんわね……。進軍する歩兵を守る為の兵器と考える方が妥当ですわね」
コスモスとブライアンの言葉にリーズレットも同意する。
「あれを防御兵器だと仮定して、まずは効果のほどを見ましょう。ロケット砲の準備を」
この場にいるリリィガーデン王国軍が持つ最大火力はロケット砲だ。それで貫けるか否かでどう動くべきかが決まる。
待機していたロケット砲が動き出し、空中に浮かぶドローンからの情報を得て狙いを定める。
まずは1発。
1発だけ撃ち出された弾が進軍する難民兵の頭上から降り落ちる。
相手はロケット砲に気付いて騒がしくなった。弾はぐんぐんと落ちて行くが……難民兵を吹き飛ばす事は無かった。
正確に言えば、彼等を囲む半球体の透明な壁に弾が着弾。その時点で爆発して中にいる兵士に損害を与える事は出来なかった。
「やはり……」
「共和国首都では壁のように入り口を塞いでいましたが、あれからもう改良を加えたのでしょうか?」
共和国首都攻撃から1ヵ月も経っていない。改良を施すには早すぎる。
しかし、マチルダの問いにリーズレットは首を振った。
「さすがに無いでしょう。別のバリエーションを用意しておいて、首都で使った方は不採用としたのではありませんか?」
首都で使われていた封鎖式は横に範囲が広かったが、頭上部分まで防御できていなかった。
対し、今回の自走式は半球体で覆っているようだが面積自体はそこまで広くない。
自走車両を囲む難民兵の団体1つ1つの間には結構な距離が開いている。恐らくは自走車両の周辺数メートルまでしか効果範囲として機能していないのだろう。
「しかし、ロケット砲で貫けないとなるとイーグルやナイト・ホークの攻撃も無効化されてしまいますか」
確かにこれではリリィガーデン王国軍のオハコにもなった空からの攻撃と遠距離砲撃による広範囲殲滅が封じられてしまったと言える。
さて、どうするか。リーズレットは少しばかり悩む。
こういった場合の対処として、最も効果を与えられるのは『地雷』である。地面の中に埋め込んで踏めば爆発を起こす兵器だ。
防御魔法が人や物を通過させ、殺傷効果のあるものだけを防ぐのであれば。地面に埋まっている状態の地雷は殺傷効果が無いと判断されるんじゃないだろうか。
「しかし、時間はありませんわね……」
こういった魔法防御のような、魔法という不可思議で不確かな存在に対して検証を行わなければ断定はできないのが難点だ。
今から地雷を用意するのも、グレネードを加工して即席地雷を作るにしても時間が足りない。
「仕方ありませんわ。防御魔法で守られていようと相手は即席で編成された難民兵。接近戦を仕掛けますわよ」
所詮は一般人が魔法銃を持っただけ。まともな防具も付けずに防御魔法に頼っているだけだ。
「ブラックチームとグリーンチームは私と来なさい。コスモス、貴女もですわよ。魔導車で相手の懐に突っ込んで魔導兵器を破壊しますわ」
「「「 イエス、マム! 」」」
「マチルダは魔導兵器を壊した場所にいる兵士を残りと共に処理なさい」
「お任せ下さい」
リーズレットの指示に従って、各員魔導車に乗り込んだ。
「ラムダ、行きますわよ。貴方は1ヵ所目で降りて好きにやりなさい」
「あいあいー」
リーズレットはラムダと共に魔導車へ乗り込むとエンジンをスタート。
ハンドルを握ったリーズレットは防御型魔導兵器を囲む連邦軍へ向かってアクセルを踏み込んだ。
「行きますわよォ!」
突撃隊として抜擢された者達と共に敵へと爆走を開始。
勿論、先頭を走って相手の注意を惹くのはリーズレット。
防御魔法の内側から放たれる魔法銃の弾をジグザグに走行しながら回避して、一気に距離を詰めた。
敵が守る魔導兵器の側面へ突っ込み、リーズレットを避けようと慌てだした敵兵へ構わず跳ね飛ばす。
リーズレットの運転する魔導車は数名の敵兵を轢き殺し、側面を抜ける瞬間に――
「ラムダ!」
「任せて!」
助手席に座っていたラムダが敵の魔導兵器へジャンプした。
「ふふん! ラックショー!」
ラムダはくるくる回転するアンテナの根本にあった隙間にピンを抜いたグレネードを捻じ込んだ。
その後、ナイフを抜いて地面へ向かって再びジャンプ。着地した瞬間に走り出して、手当たり次第に敵兵の喉を描き切った。
すると背後で爆発が起きる。魔導兵器のアンテナが空中に吹き飛んで行った。
「さて、どうだ?」
爆発を見ていたマチルダはライフルを構え、ラムダが狙っていない敵兵に向かってトリガーを引く。
発射された弾は敵兵へと進んで行き――魔法防御に遮られる事無く敵兵の頭部を貫いた。
「よし!」
防御魔法が解除された事を確認したマチルダは待機していた自軍に攻撃指示を出す。
突入した部隊は次々に魔導兵器を破壊していき、破壊していった順にリリィガーデン王国軍のロケット砲が降り注ぐ。
難民兵も魔導兵器を守ろうと抵抗はするものの、やはりリーズレット達は止められない。
懐に入り込まれ、銃を撃たれればまともな防具をつけていない難民兵などひとたまりもなかった。
程無くして難民兵部隊は壊滅。
これで捜索に専念できるかと思われたが……。
「マム! 敵の後続部隊を確認!」
殲滅後、ドローンで上空からの映像を見ていた情報部から通信が入る。
「次も防御型魔導兵器及び別の兵器と思われる自走車両を多数確認! 敵の種類は……正規兵も多数混じっています!」
難民兵はただの先発隊、もしくはリリィガーデン王国軍の力を確認する為の生贄だったのか。
先ほどの規模とは比べ物にならない程の敵兵と兵器が姿を現し、リリィガーデン王国軍に向かって進軍して来るのが確認された。
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