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婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
本編

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107 連邦首都制圧作戦 3


 首都を守る連邦軍はリリィガーデン王国の攻撃に押され続け、遂には最終防衛ラインである大統領官邸前まで撤退を余儀なくされた。


 連邦兵を後退させたのはコスモスやラムダ、ブラックチームとマチルダといった猛者達の力もあるが全部が全部彼等のおかげというわけでもない。


「連邦に死を!」


「くたばれ! 豚共めッ!」


「弾だッ! 弾持ってこォォォいッ!!」


 防衛ラインを維持しようとする連邦兵へ向かって、ベテラン兵に混じって新兵共が死を恐れず突撃を開始した事も大きく評価できるだろう。


 遮蔽物の影から銃を連射して牽制する者、銃剣を装着して敵陣へと突っ込む者。


 様々な攻撃を繰り出すリリィガーデン王国軍の歩兵部隊。


 中には敵の反撃を受けて被弾する者もいた。だが、彼等の顔には揃って「豚殺しの顔」が張り付く。


 絶対に敵を殺してやろう、自分の命と引き換えに1人でも多くの豚を殺してやろうと決意した者達の顔である。


「あああああッ!」


 とある新兵は敵の魔法弾を浴びながらも、敵陣に向かって絶命する直前まで銃のトリガーを引き続けた。


「王国ばんざああああいッ!!」


 とあるベテラン兵はもうダメだと悟った瞬間、口でグレネードのピンを抜いて連邦兵に飛び掛かった。


「殺せッ! 一人残らずだッ! 我らがレディ・マムはそれを望んでいるッ!」


 新兵の上官共は叫ぶ。連邦に本物の戦争を教えてやれ、と。


 グレネードの投擲を行い、地面が爆発した瞬間に歩兵達は前へ出て。恐れ慄く連邦豚共の心臓を撃ち抜くのだ。


「こいつら、死ぬのが怖くないのか!?」


「いやだ! もういやだあああ!!」 


 連邦の豚共は知らない。本物の戦争を。


 泥に塗れ、土埃で汚れ、例え体に銃弾を浴びようとも戦意喪失せぬ本物の兵士達に勝てるはずがない。


 心が弱い豚共なんぞ、地獄の創造者たるリーズレットの背中を見て育った兵士達の敵ではない。


 リリィガーデン王国軍の兵士達全員の奮闘によって、もはや連邦首都陥落は確実となった。


 最終防衛ラインを守る連邦兵は次々にリリィガーデン王国製の銃弾に撃ち抜かれ、地面に倒れて無様な姿を晒していくのだ。


 その頃、大統領官邸大統領執務室の窓からこっそりと外を覗き見た秘書官の顔には諦めの感情があった。


「大統領、敵に投降した方がよろしいのではないでしょうか」


 表情と合せて口から出た言葉通り、秘書官は連邦の終わりを確信して大統領であるマグランへ問う。


「馬鹿な……! こんなはずじゃ、こんなはずじゃッ!!」


 問われたマグランには秘書官の声は届いていないようだった。


 彼は顔を怒りに染めて、何度も何度も通信機のダイヤルを回す。


「何故だッ!! 何故、マギアクラフトに通信が繋がらないのだ!!」


 マグランが何度も通信しようとしている先はマギアクラフトだった。


 しかし、何度やっても通信端末からは「ブー」という通信失敗を表すブザー音しか返って来ない。


 秘書官はとっくに気付いていた。この国は既にマギアクラフトから見捨てられている事を。


 いや、むしろ敵軍を目の前にして後方へ退いて行ったマギアクラフト隊の姿を見れば誰でも気付く。


 マグランが現実が受け入れられないだけだ。


「大統領。投降しないのであれば、まだ軍が残っている間に逃げて――」


「私はこんな場所で死ぬ男ではないッ! 歴史に名を残す、連邦の大統領なのだぞ!!」


 何かの間違いだ、とヒステリックに叫ぶマグランは頭を抱えて喚き散らした。


 首都攻撃において、どこぞの共和国元トップのように我れ先にと逃げ出さなかっただけ指導者としてはマシだろうか。


「はぁ……」


 秘書官はやってられない、と執務室から出て行った。


 大統領執務室手前にある秘書官用に用意された部屋に入ると、自分の執務机にある引き出しを開けて()()()の入った袋を取り出した。


 袋を破いて、中身を手近にあった革張りのカバーで包装された本の上に落とすと鼻から吸引していく。


「もう、おしまいだぁ……」


 彼は悟っていたのだろう。人生最後の楽しみを満喫すると、ゆっくり目を閉じた。


 その直後、廊下に繋がるドアが蹴破られるとグリーンチームが部屋の中へ突入して来た。


 秘書官は目を瞑ったまま、ニコリと笑った。机の下にあった、何も持っていない自分の片手を素早く持ち上げて――それに気付いたグリーンチームの1人が秘書官の頭部を銃で撃ち抜く。 


 銃を向けると思わせて、相手に射殺してもらう。自分は白い粉がもたらす幸福を感じながら。


 彼は楽な最期を迎えられたのだろう。


「奥だ!」


 秘書官を射殺したグリーンチームは奥へと向かい、大統領執務室へ繋がるドアの左右に陣取った。


 1、2、3で1人がドアを開けて、大統領執務室へと突撃していく。


 中ではマグランが窓から逃げ出そうとしていたが、グリーンチームの隊長であるガウインがその姿を捉えるとすぐに駆け出して服を掴む。


 部屋の中に引っ張り戻されたマグランは地面へと引き倒され、ガウインに銃口を顔に向けられた。


「連邦大統領マグランだな?」


「貴様らッ! 私を誰だと思っていへぶッ!?」


「今じゃただの豚だろうよ」


 引き倒されたマグランが怒声を上げると、ガウインは返答と共に彼の腹を蹴飛ばす。


「縛っておけ」


 彼は部下にマグランを拘束するよう命じ、マチルダへ通信を入れた。


「マチルダ様。目標を確保しました」


『よくやった。こちらも終わりそうだ。予定通り合流しよう』


 ガウインは了解、と返し通信を切ろうとするが――


『ああ、正面から出ていいぞ。たった今、終わった』


 

-----



 グリーンチームは捕らえた大統領を連れて官邸の正面ドアから外に出る。


 ドアの先、美しかった連邦首都は既に無く。


 首都に建ち並んでいた建物は瓦礫に変わり、地面には連邦兵の死体と血で染まる。


「ああ……」


 その光景を見たマグランはガクリと項垂れた。項垂れて、ブツブツと小言で何かを言い続けるがグリーンチームのメンバーに背中を押されると弱々しい足取りで歩き出す。


 ガウイン達は制圧した大統領官邸前に待機する自軍と合流し、一番奥で情報部とやり取りをしていたマチルダを見つけて歩み寄る。


「マチルダ様」


「ああ、ガウイン。よくやった。さて、クソッタレの大豚野郎とようやくご対面だな」


 両手を広げ、サディスティックに笑ったマチルダは生気が抜け落ちたマグランの顔を見た。


 項垂れたままのマグランはマチルダの顔を見ようともしない。


 ニヤッと笑ったマチルダは彼の頬を思いっきり引っ叩いた。


「ぐっ!?」


 強烈なビンタを食らったマグランは地面へ倒れ、無様な姿を晒す。


「今はこれで勘弁しておいてやる。マギアクラフトの本拠地を吐いてもらわねばならんからな」


 マチルダは今すぐにでもマグランを殺したいのだろう。


 だが、その衝動をグッと我慢するように奥歯を噛み締めると、尻餅をついて怯えた瞳を向けてくる豚を見下ろして告げる。


 この戦争で死んだ仲間、死んだ国民達。彼等の無念を晴らすのは情報を得た後だ。


「では、マチルダ様。我々は中を調べます」


「ああ」


 情報部のメンバーは歩兵小隊共にマグランへ殺意に満ちた瞳を向けて横を通過して行くと、彼等は大統領官邸の中へと消えていった。


 官邸内にマギラクラフト本拠地へ繋がる情報が無いか調べに行ったのだろう。


「さて、貴様にも喋ってもらおうか」


 マチルダはマグランを引っ張って、新兵達が設置したテントの中へ連れて行く。


 彼を椅子に座らせ、マチルダは正面に座ると脚を組んで家畜を見るような目をマグランに向けた。


「マギアクラフトはどこへ行った? 奴等の本拠地はどこにある?」


「…………」


 彼女の問いにマグランは答えない。いや、正確に言えば答える気力すらも無いのかもしれない。


「マギアクラフトはどこへ行った! 奴等の本拠地はどこにある!? 言えッ!」


 尋問開始から30分程度経過し、3度目の問いで遂にマチルダがブチギレた。


 彼女はマグランの顔を殴り、髪を掴むと地面へ投げ飛ばした。 


 苦痛に呻き声を上げるマグランがようやく喋り出すが―― 


「……我々は見捨てられたのだ」 


「ハッ。ご主人様に捨てられた豚が。哀れだな」


「いいや、違う。我々、全員だよ。この大陸に生きる全員が見捨てられたんだ」


 彼は見捨てられたのは自分達、連邦だけじゃないと言っているようだった。


「は? 貴様、どういう意味だ?」


 マチルダは「意味不明だ」と疑問を口にするが当然だろう。


 彼女が属するリリィガーデン王国はマギアクラフトと敵対していて協力関係は無い。


 だというのに、見捨てられたとはどういう事なのか。


 マチルダがマグランを再び尋問しようとした時、テントの外が騒がしくなる。


 彼女が入り口へ顔を向けた瞬間、外から軍人が飛び込んで来た。


「マチルダ様! 外に来て下さいッ!!」


 慌てた様子の軍人に乞われ、一緒に外に出たマチルダは彼が指差す空を見た。


「あれは……」


 マチルダが見上げた空、連邦北部の街よりも更に北。


 そこには10発以上の大型ミサイルが空に向かって打ち上がっている光景であった。



読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 連邦壊滅したが、やっぱり発射された大型ミサイル! ミサイルの到着地点は連邦首都?リリィガーデン王国? [一言] せっかく活躍した若手兵やマチルダやラムダが心配!
[一言] 正直、マギアクラフトっつうかヴァイオレットの目的が見えないよね。 在り来りなところで世界征服とかかな?
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