105 連邦首都制圧作戦 1
西部を完全制圧したリリィガーデン王国は王国首都から追加で派兵された軍人を加え、軍主力大隊を連邦首都に向けて進軍させた。
その中にリーズレットの姿はなく。代わりに彼女の侍女であるサリィが駆る機動戦車を先頭にして首都へと向かう。
「あーあ。ボクもリズと一緒に行きたかったなぁ~」
首都へ向かう途中、コスモスの運転する魔導車の助手席に座るラムダはため息を零し続ける。
ため息と共に口から吐き出すのはリーズレットと一緒に行動できない事への不満。
独り言なのだろうが、独り言にしてはボリュームが大きい。それを道中聞き続ける運転手のコスモスが抱えるイライラも限界寸前といった具合に、顔が引き攣っていた。
「ふん。一緒に行動できなくて当然でしょうね。貴方のようなワガママなクソガキと一緒にいたら、聖母のようなマムでさえブチギレますよ」
一緒の空間に居続けて、かれこれ6時間程度。遂にコスモスの苛立ちが爆発する。
「はぁ? そんなわけないじゃん。ボクはリズの許婚だよ?」
「はぁ? 私は認めてませんけど?」
2人は互いに睨み合うと視線がぶつかり合って火花を散らす。
「大口叩くならボクよりも殺しが上手くなってから言ってよね」
「ふん。良いでしょう。連邦首都で決着をつけてやります!」
2人はキルカウントでどちらが上か決めるようだ。このやり取りから3時間後、リリィガーデン王国軍は予定していた地点に到着。
到着した場所は連邦首都が小さいながらも肉眼で捉えられた。軍は首都攻略へ向けての最終補給として魔導車や航空機のエンジンに魔石を投入する。
「いよいよだが、どうする?」
「敵は当然ながら防御を固めていますねぇ」
空中にドローンを飛ばしてカメラの望遠レンズ越しに首都の様子見る情報部所属の軍人達にマチルダが問う。
「あの黒い部隊がいるかどうか、見えるか?」
ブライアンは先の西部戦線でジェイコブを仕留められなかった事への悔しさを忘れられていない様子。
眉間に皺を作りながら問うと、情報部は首を振った。
「いや……。外にはいません。室内にいるのかどうかはわかりませんが」
「そうか」
ブライアンは短く返し、顔を首都へ向けると無言で睨みつけた。
「防衛用の兵器は……。対空兵器と魔法防御、それと魔導レーザー砲ですね」
情報部が空から見える魔導兵器を挙げていくと、腕を組んだままマチルダが頷く。
「奴らにまだ隠し玉があるかは不明だが、首都には壁が無い分突入は楽だろう」
共和国首都と違って街全体を囲む壁が無い。
前時代が終わり、新たな歴史が始まってから作られた連邦は大陸の中で一番大きな国だった。
それ故に外国から攻められる事は無く、常に攻める側だった事への弊害か。
首都防衛戦となった今回は西側に戦力を集中配備させ、リリィガーデン王国軍の侵入を許すまいとしているが……。
「制空権を取れれば制圧は容易だ。いつも通り、敵前線を食い破って内に侵入する。その後、グリーンチームが大統領を確保するまで全軍が支援しろ」
マチルダは近くでちょこんと椅子に座るサリィに体を向けると、
「チーフ、よろしいですか?」
彼女の意見を問う。
尋ねられたサリィはくりくりとした綺麗な目でマチルダをじっと見ながら真顔で返す。
「私はお嬢様に命じられたことを忠実にこなすだけですぅ」
サリィがリーズレットに命じられたこと。
『サリィ、貴女は豚小屋を徹底的に破壊なさい』
それは連邦首都の徹底的な破壊である。
二度とリリィガーデン王国へ喧嘩を売らぬよう……いや、未来永劫歯向かえなくなるまで徹底的に首都を破壊して連邦人の心に恐怖を刻めと命じられた。
彼女はそれを現実にするだけ。軍がどう動こうなどとは考えない。
主が考える未来を現実にする事こそが侍女の勤めである。
リリィガーデン王国軍の火力はサリィの機動戦車に頼っている部分が多い。
彼女に頼らねばならぬのは、正直に言えば悔しいところと感じている軍人はマチルダも含めて多いだろう。
だが、現状ではまだ頼らざるを得ない。
それでもリーズレットの信頼に応えられるよう、個人個人が最大限力の限りを尽くして勝利を納めなければ恩を返すどころでの話ではなくなる。
「承知しました。我々も足手まといにならぬよう努めます」
故にマチルダは敬意を表すべくサリィに見事な敬礼を返した。
彼女ならば確実に前線へ穴を開けるだろう。その穴を更にこじ開けるのはマチルダ達の仕事である。
「マチルダ伯爵様。補給が終了しました」
技術班からの補給終了報告が成されると、マチルダは頷いた。
軍人達を整列させたマチルダは鋭い目を向けて叫ぶ。
「それでは、諸君。これより連邦首都制圧作戦を開始する」
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補給を終えたリリィガーデン王国軍は連邦首都を制圧すべく進軍を開始。
地上で先陣を切ったのは打ち合わせ通りサリィの操縦する機動戦車であった。
巨体から独特なリアクター音を響かせ、キャタピラで悪路を物ともせずに進むサリィ。
その姿に連邦兵達は顔に恐怖心を張り付けた。
彼等の脳裏には前線から撤退して来た者達が語った悪夢が思い浮かんでいた事だろう。
巨大な砲を持った魔導兵器が一撃でマギアクラフト製の魔導兵器を粉砕した、と。
リリィガーデン王国の殺戮兵器と相対すればマギアクラフト製の魔導具などオモチャに過ぎぬ、と。
「あれと戦うのか……?」
「大丈夫、なんだよな……?」
連邦に勝算はあるのだろうか。
自分達の後ろにいる連邦政府には勝つためのプランが用意されているのだろうか。
「マギアクラフトもいないのにどうやって――」
「侵入させるなァー!」
現状に絶望する兵士達へ小隊長が怒声と共に喝を入れ、銃を構えさせた。
「防御兵器展開!」
西側に展開する軍人達と攻撃用の魔導兵器を覆うように魔法防御のドームが展開された。
砲を積んだ亀のような魔導兵器に乗る連邦兵士は真正面からやって来る機動戦車に狙いを付ける。
「撃てェー!」
並んだ3機の魔導兵器から魔法のレーザーが放たれた。さすがに3機同時攻撃ならば進軍を止められる、と考えていたようだが……。
機動戦車はレーザーの直撃を受けても止まらない。それどころか、機動戦車の装甲は魔法攻撃を弾くようにして無傷のまま直進を続ける。
「と、止まらねえ!?」
連邦兵士達の目に映る機動戦車の姿が徐々に大きくなっていく。恐怖に駆られた兵士達は魔法銃を乱射し、魔導兵器も2射目のチャージに入った。
しかし、抵抗虚しく距離はどんどん詰まって行き、遂には機動戦車の第一主砲先端が魔法防御の内側へ。
『さようならですぅ』
停止した機動戦車から可憐な少女の声が響いた。一瞬遅れ、巨大な砲からは弾が撃ち出されて魔法防御を展開する魔導兵器を木っ端微塵に吹き飛ばす。
魔法防御が消え、兵士と攻撃用の魔導兵器が無防備になると遅れてやって来た航空機と魔導車隊が狙いを付ける。
空からは10機以上の航空機がロケットランチャーと機銃による攻撃。地上からは30台以上の魔導車に搭載されたミニガンによる一斉掃射。
「うわあああッ!?」
「退け! 次の防衛ラインまで退けえええ!!」
攻撃用魔導兵器は破壊され、歩兵達はミニガンの餌食となって地上に死体が散らばった。
『どんどん行きますぅ』
再び動きだした機動戦車は死んだ連邦兵の死体、まだ生きて逃げ惑う連邦兵、どちらも問わずキャタピラで踏み潰して連邦首都内部に突入を開始。
「嘘だ! こんなの夢だ!!こんな日が来るなんてッ!!」
背後から追って来る機動戦車から逃げる連邦兵は必死に走りながら声を漏らす。
まさか大国連邦が潰える日が来るなんて。連邦兵士になった自分は虐げられる事無く人生を全うできると信じていたのに。
リリィガーデン王国なんて小国はすぐに属国になると思っていたのに。
敵兵を弄ぶように自分達の気分で生死の選択を決めて、資源豊かな領土を奪い、敵国の国民を奴隷のように扱って。
自分達だけが幸せを享受する。ベレイア連邦は更に強大となって、国民である自分達には輝かしい未来がやって来る。
そんな日が約束されていると、彼等は錯覚していた。
まさか、3ヵ国同時の侵略を跳ね除けて自分達の命が脅かされる日が来ようなど連邦中央軍所属の兵士達にとっては想像もできなかっただろう。
「い、嫌だァァァァ――」
多くの連邦兵士も想像なんぞしていなかったろう。
自分の最後が戦車のキャタピラに踏み潰される事だなんて。
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