↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/144

第二章。ミステリーの香り

 波に揺られる事五時間。

 シードラに着いたのは、町に明かりが灯り始めた頃だった。

 宿にディーナスを預け、ペロリン亭に向かう。

「今日は朝まで帰してもらえなそうね。モミも覚悟しなさいよ」

「そんな事言って。前回、早々に酔いつぶれたニーヤをおぶったのはケンセイさんですよ」

 心なしか浮かれている二人の後ろを、ペロ様と歩く。

 彼女は相変わらず無口で、無表情。

 だからと言って無愛想なわけではなく。

 例えるなら、可愛らしいお人形さん。

 彼女は今何を想うのか。

 決して戻る事はないと。二度と訪れる事はないと思っていた場所に戻った今。

 嬉しくないわけはないだろう。


 そんな事を想っていると突然、彼女が足を止めた。

 感情をあまり表には出さない彼女が、何かを考えるように立ち止まった。

「ペロ様?」

「ペロ、どうかしたの?」

 戸惑う僕達。そんな中、ペロ様が僕を見て言った。  

「だっこ」

 だっこ……?

 両手をあげてる姿から察するに――『抱っこして』のサインだよな。

「あ、うん……」

 何故抱っこ? そんな事を思いつつ、とりあえず彼女を持ち上げる。小さなお尻を片腕に乗せるような――抱っこだ。

「違う」

 違ったらしい。体勢が気に入らないのか自分で身体をよじり、体勢を整える。

 出来上がったのは、お姫様抱っこだ。

 そして、彼女は全身の力を抜いた。

 瞳を閉じ、手足を投げ出し、まるで死んでいるかのように。


「あの……ペロ様? 何をしているんですか?」

 突然の奇行に、モミさんも戸惑いを隠せない。

「死んだふり」

 その答えからは、僕達は奇行の理由を理解できなかったが、

「皆――驚く」

 その言葉で察した。


「ぷっ。アハハハハ! ペロ、アンタそれ洒落にならないって」

「ペ、ペロ様……フフッ。さ。流石にっ……それは冗談が過ぎるかと……」

 魔王と共に死ぬはずだったペロ様。

 そんな彼女だからこそ出来る。身体を張った自虐的なドッキリ。

 まさか彼女はそんなユーモラスな事を考えていたとは誰も思わず、僕達は涙が出るほどに笑った。

 腕の中のペロ様は、何処か満足気だった。


 そしてペロリン亭に着いた僕達だが――。

「……何で?」

 店の扉は固く閉ざされ、明かりも灯っていない。

 それどころか、

「看板も……ありませんね……」

 窓から中を覗いてみると、店内はもぬけのから。

 ペロリン亭は――なくなっていた。


「とりあえず、ちょっとそこらへんの人に聞いてみようか」

「あ、そういえば鍛冶屋にナタラのおじさんが居ましたよね」

 ニーヤの提案に、モミさんが思い出したように答える。

「あーいたいた! じゃあそっち行ってみよう」

 同じくテヘペロ村出身者が営んでいるという鍛冶屋に向かう――が。


「いない――よね……」

 鍛冶屋に来てみたが、人の気配はない。

 テヘペロ村にゆかりのある店が――人が消えた。

 これはミステリーの匂いがする。

「あれ? あなた! もしかして、モミちゃんじゃない?」

 そんな時、突然背後からかけられた声に振り返ってみると、中年のおばさんが立っていた。

「え、ええ。そうですけど……」

「やっぱりモミちゃんだったのね! いやぁこんなに綺麗になって! 子供の頃から可愛かったものねぇ」

 どうやらモミさんの知り合いらしいが、当の本人は困惑気味。

「あの――失礼ですが、どちらさまでしょう?」

「ああ。ゴメンゴメン! 会ったのはもう十年も前に一度だからねぇ。モミちゃんは子供だったから、覚えてないのも当たり前よねぇ。あたし、あなたのお母さんと付き合いがあってね」

「母と――。そうですか」

 一瞬、モミさんの表情が曇った。

「あ、もしかして……」

「ええ。村が襲われた時に……」

 モミさんの母親は四ヶ月前、村が魔物に襲われた時に殺されていた。

 その事実を知ったのは今が初めてだけど、何となく想像はついていた。

 だから、今まで家族の話題は避けていたんだ。僕も、彼女達も。


「それは……悪かったね。モミちゃんが生きてるから、てっきり……さ」

「いえ、いいんです。えっと――お名前を伺ってもよろしいですか?」

「ああ。あたしはタルニだよ。大陸の西の方で暮らしてたんだけど、この町に住んでいた兄が最近突然死んじゃってね。あそこの宿なんだけど、知ってるかな?」

 そう言って指差した建物に、モミさんが驚いた表情で頷き、胸に手を当てる。

「何度かお世話になった事があります。お兄さんだったんですね。どうか、神の安らぎを」

「ありがとね。ところで、モミちゃん達は何をしてたんだい?」

「ええ。久しぶりに戻って来たんですが、知り合いのお店が閉まっていまして――ペロリン亭と、この鍛冶屋さんなんですが、ご存知ありませんか?」

 モミさんの言葉に、タルニさんの顔色が変わり、険しい表情で口を真一文字に結んだ――。

 みたいな感じならますますミステリー然としてくるが、そんな事はなかった。

「ああ――皆テヘペロ村に帰ったみたいだよ」


 話を聞くと、二ヶ月ほど前、村を復興するために皆戻ったらしい。

 ミステリー要素の何一つない真実に、僕達は胸を撫で下ろす。

 これも何かの縁――という事で、僕達はタルニさんの宿に泊まることにした。

 夕食に海産物を食べまくったのは、言うまでもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。