お代わり自由
しばらく歩くと、見覚えのある場所に出た。
「ここは――無神街じゃないですか。ナギさんの家はこの近くなんですか?」
「ええ、もうすぐです」
こんなに可愛いのに、苦労してるんだろうな。身体も弱そうだし、何だか可哀想だ。
「ここです。わざわざありがとうございました」
案内されたとおりに進むと、彼女の家に辿り着いた。
「いえいえ。じゃあ身体に気をつけて。ゆっくり休んで下さい」
そう言って宿に戻ろうとした時、彼女が僕の腕を掴む。
「少しあがっていきませんか? お茶くらいお出ししますよ」
無下に断るのも気がひける。少しくらいなら――。
彼女に手を引かれるまま、家の中に入った。
外見とは違い、中は意外と小奇麗だった。
そこまで広いわけでもないけど二階もあるみたいだし、結構住みやすそう。
「一人で暮らしてるんですか?」
「いえ、家族で暮らしています。はいどうぞ」
「ありがとうございます。あ、これ美味しいですね」
彼女の淹れてくれたお茶は、この世界では馴染みのある飲み物だ。
でもいつも飲むモノより美味しい。身体の中から、力が湧き上がって来る様な感じさえ覚える。
「特別なお水を使ってますからね」
「へーそうなんですか。ご家族の方はどちらにいるんです?」
「多分二階にいると思います。よろしければご挨拶させていただきたいんですが、よろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ」
「それじゃあ二階へお上がり下さい」
ん? 僕が行くのか? 普通降りてくるだろ。
それともワーワルツではそういうものなのかな。
ワーワルツの家庭にお邪魔した事は無かったし。もしかしたらそういう文化なのかも。
「じゃ、じゃあ失礼して」
彼女に促され、階段を上がる。何だろう、何となく緊張するな。
二階に上がると、ローブを被った二人の女性がベッドに腰を下ろしていた。
「あ、どうもこんばん……は……?」
目の前にいる女性は、二人とも全く同じ顔。
いや違う、三人だ。
僕の後ろにいる、ナギさんも同じ顔をしているから。
「ちゃんと連れて来たのね。偉いわナギ」
ベッドに座っている女性が言った。連れて来た? 何の事だ?
「まぁね。じゃあ後はよろしく、ちゃんと私の分も残しておいてよ」
そう言ったナギさんの口調は、さっきまでの優しげな感じは無い。
そのままドアを閉めると、下に戻って行った。
「ど、どういう事ですか? 貴女達は一体……?」
現状が把握できない。三つ子? 分身の術?
目の前の女性がゆっくり近づいてくる。
「会いたかった、ずっと貴方を待っていたのよ――」
色気を含んだ声。目の前で立ち止まると、彼女のローブがひらりと床に落ちた。
そして現われた、たわわに実った二つの果実。僕の視線は完全に釘付けだ。
さらにその下、大地のへそをさらに南下した秘境。
綺麗に整った、まるで模様の様な模様――模様? 何だこの模様。
ここで初めて気付く。
この女、人間じゃない!
頭には山羊の様な角を生やし、肩越しに見える漆黒の翼。
くそっ、こいつは魔物か!
剣に手を掛けるより早く、魔物の手が僕の顔を掴む。
視界が陰さすと同時に、口唇で感じた柔らかさ。
魔物は、僕の口唇を奪っていた。
何? 何してるんだこいつ? これは攻撃か。いや、痛くも苦しくもない。
それとは逆。まるで正反対。快感の波が僕を襲う。
侵入者を拒むような、エナメル製の扉を優しくノックする。
自分の意思とはまるで無関係に、自ら扉を開き、舌を受け入れた。
口の中を隅々まで調べつくす程の動き。
その後に流れ出す、甘い蜜の様な唾液。
それは脳髄を溶かし、思考を停止させる。
口唇が離れる瞬間、唾液が蜘蛛の糸の様に、別れを惜しむ様に。
「さて、ゆっくり頂くとしようか。さぁベッドにおいで」
彼女はベッドに腰を下ろすと、すらりと伸びた両手を広げた。
「もう目がイっちゃってるね。お姉全部吸っちゃだめだよ」
「分かってるよ。さぁおいで」
何も考えられない。目の前の女は本当に魔物なのか。
もうどうでもいい。あの腕の中に飛び込みたい――。
「ああ、すごい匂いだねぇ。相当溜まってるんだろう」
「うわ、やば。こっちまで匂って来てるよ。うずうずしちゃう」
「ほら、吸ってもいいんだよ。遠慮しないで」
吸ってもいい。吸ってもいいのか。
吸いたい。吸いたい。
「ああっ。激しいねぇ。ゾクゾクするよ」
何だこれ。甘いぞ。
うわ、めっちゃ甘い。どんどん溢れてくる。
あれ、何で僕はこんな事してるんだ。
こいつは魔物じゃないのか?
いや、めちゃくちゃ可愛いし、この際何でもいい。
それにしても旨すぎる。
「ちょ、ちょっと飲みすぎじゃない? お姉、ソイツ死んじゃうよ」
「だっ、ダメっ! 気持ち良すぎる! レミ! 助けてっ、助けてぇ!」
「お姉!? どうしたの!? ちょ、ちょっと離れなさい! 離れなさいったら!」
――足りない、飲み足りない。
「お姉!? お姉!? しっかりしてよ!」
――もっと寄こせ。もっとタクサン。
「ちょ、ちょっと何よ…? アンタ一体何! いや! 離して! 離し――」
「もう終わったー? 私の分ちゃんと残してるんでし――」
――オカワリ。オカワリガキタ。
「な、何よこれ……。ちょっとどうなって――きゃああっ!?」
――マンタン。ミルクタップリ。
――セイニュウヒャクパアセント。
「ケンセイさん!」
「アンタ大丈夫!? ってこれ、どうなってるの……?」
――ドリンクバーオカワリジユウ。
――メロンマンゴーライチトロピカル。
「なっ、アンタ何すんのよ!? やめてよ! やだったら! いやああああああああああ!」




