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休息

――ウイリア大聖堂――


「これは凄いな……」

 その教会は間近で見ると一層凄い迫力だった。

 圧倒的過ぎる存在感に思わず息を飲む。

 神々しさえをも感じさせる建築美は、本当に神様がいるかの様だ


 その時、一人の少女の姿が目に入った。

 腕に下げた籠の中には色とりどりの花。そんな綺麗な花とは正反対の、質素な服を着た少女。

 十歳くらいかな、あんなに小さい子も働かなきゃいけないのか……。


 ワーワルツは僕がいた世界とは違う。

 何度も自分に言い聞かせてはきたが、やはりふとした瞬間に比べてしまう。

 目の前の少女を『可哀想』と感じるほど、僕は恵まれた生活をしていたのに。

 それすら耐えられず、死と言う逃げ道を選んだ自分が情けなく思えた。

 

「こんなとこに来るんじゃない! あっちにいけ!」

 教会の前に立つ、見事な刺繍入りの真っ白なローブを着た男が少女を追い払っている。

「汚い格好でうろちょろするな! 聖堂が汚れてしまうだろ!」

 何だ、あれは教会の人間じゃないのか? あれが神に仕える人間のする事かよ。


「教会に喧嘩売ったりはしないでよね」

「に、ニーヤ!?」

 いつの間にか、背後にはニーヤが立っていた。

「また走り出して行きそうな顔してたよアンタ」

「流石に僕もそこまで馬鹿じゃないよ。確かに少し腹は立ったけど」

「あんなのにいちいち腹を立ててたらこの先やっていけないわ。大陸ではあんなの当たり前らしいし」

「……うん。気をつけるよ」

 大丈夫、もう馬鹿な事はしない。皆に迷惑をかけたくないし。

 ニーヤの辛そうな顔も見たくないから。


 

「さ、どうせ暇なんでしょ? 折角だし一緒に回ろうよ」

「そうだね。じゃあ案内してくれよ」

「アタシだって初めてなんだから、案内なんて出来ないわよ。そう言えばアンタお金使った?」

「いや、まだ使ってないけど」

「じゃあ先に両替商のとこ行かないとね。そのままじゃ不便だし」

 赤い髪をひるがえし、ニーヤが歩き出す。

 後を追うように、僕は彼女の少し後ろを歩いた。


 金貨を両替するとモミさんから聞いたのより一枚多い銀貨九枚になった。

 どうやらこの世界は通貨のレートがころころ変わるらしい。

 良く分からないが、何となく得をした気分だ。


「お、あれはヌールの肉じゃないか?」

 屋台からいい匂いが漂っている。ラーバスで食べた、串に刺さったあの肉だ。

「そうね。まぁ珍しい物じゃないから、何処にでもあるのよ」

 店の前に行くと、この前と書いてある文字が少し違う。値段が違うのかな?

「いらっしゃい。焼きたてで旨いよ、一本銅貨三枚、二つなら五枚におまけするよ」

「銅貨三枚ですって? ちょっと高すぎじゃない?」

 ラーバスでは銅貨一枚だった。都会だから物価が高いのかな?


「これでも安いほうなんだよ。最近は税がきつくてねぇ」

 屋台のおじさんが困った様な顔で言った。

「王妃様が亡くなってから、どんどん税が上がる一方さ。教会も寄付金の名目でやたらと金をせびりやがる。まるで神様の為に働いてる様なもんだよ」

「大変ですね。それじゃあ二本下さい」

「お、まいどあり。はいおつり、ありがとうな」

 

 屋台で買ったヌールを食べながら町を歩く。

「ラーバスの方が美味しかったわね」

 味は悪くなかったけど、前に食べた方が美味しかった。

 あのおばさん、『ウチがワーワルツで一番』って言ってたっけ。

 本当にそうなのかもしれない。今度また食べに行こう。


「そう言えば、ヌールって一体何なんだ? 僕の世界にそんな動物はいないんだけど」

「そうなんだ? ヌールってのは『メ~』って鳴く動物よ」

 メ~って鳴く? 羊か? 山羊かな? 

――それにしても今の可愛かったな。


「何? もう一回言って。どうやって鳴くんだって?」

「め、メ~って鳴くのよ」

 少し俯き加減でニーヤが鳴いた。何だこれ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。

「もう一回」

「え? め、メ~――って何やらせんのよ馬鹿!」

 ふざけ合って、笑い合って、町を回った

 昨日より距離が少しだけ縮んだニーヤと。


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