慣れない日常
――リンニル――
町に着いた頃には明かりは消え、もうすっかり真夜中だった。
宿で簡単な食事をとり、モミさんと部屋に入る。
いつものように鎧を解除してもらい、そそくさと風呂に向かった。
何度繰り返しても、これは慣れるもんじゃない。
疲れ果てた身体とは裏腹に、活躍の場所が無いセクシーソードは元気が有り余っていた。
「あら、今日のお風呂は狭いですね」
ごく普通にモミさんが入ってきて、またごく自然に、僕の背中にお湯をかける。
「あ、す、すいません。いつもいつも……」
「いえいえ。好きでやってるんですよ。ご迷惑じゃないですか?」
「迷惑なんかじゃないですけど、やっぱり恥ずかしいです」
「あら、まだ慣れませんか? 私はもう大分慣れましたよ」
「そ、そうですか? 全然慣れませんよ。慣れる気がしませんし」
「まぁ、慣れたら慣れたで、それは少し寂しい気もしますね」
彼女の優しい手の運び。一日の疲れが全てとれていくようだ。
いつもより狭い湯船。モミさんの肩がかすかに触れる。
「さ、さすがに狭くないですか?」
「いつもよりは狭いですけど、別に気にしませんよ」
僕はすごい気になるんだけど。
「そういえば。森の中でみた青い炎、あれは魔法か何かですか?」
「ええ、あれはペロ様の『神火』です。他の誰にも真似の出来ない、神の聖なる炎ですよ」
「神火、ですか。あんな青い炎見た事なかったので驚きました。とても綺麗で、神々しい感じでしたね」
「私達も久しぶりに見ました。あまりペロ様の力を使わせないのが私達の役目。今日は少し反省しています」
アタシ達の役目はペロ様の護衛。前にニーヤがそう言っていた。
少し悲しげなモミさんの横顔に、ふとその事を思い出す。
「私の戦ってる姿を見てどう思いました?」
「少し驚きました。モミさんがあんなに強いとは思わなかったんで」
「驚きますよね。あんな戦い方、普通の女の子はしませんし……。私おかしいんですよ。戦闘は嫌いなんですけど、一度始めちゃうと楽しくて仕方ないんです。魔物の潰れる感触、飛び散る血液。それが全て快感に変わってしまうんです」
……そうだったんだ。どうりであんな楽しそうに戦っていたのか。
「気持ち悪いですよね? 幻滅しましたか?」
「い、いや。そんな事無いですよ」
「嘘つかないで下さい。正直に言ってくれてもかまいませんよ」
「確かにちょっと驚いたけど、だからと言って幻滅したりしませんよ」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
「良かったです。安心しました」
安堵した様子で、いつもより柔らかなモミさんの笑顔にのぼせそうになった。
「さ、ケンセイさんどうぞ」
布団を少し開けた彼女の隣にもぐる。一緒に寝るのは大分慣れた。
明日はどんな一日になるんだろう。ワーワルツに来て何日たったんだっけ。少しずつ魔女の元に近づいている。
――彼女にあったら何を話そう。
そんな事を思いながら、モミさんの優しい香りに包まれ眠りに落ちた。




