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リヴェイル  作者: Siki_2645
2/9

第一話 ~リヴェイル村~

馬車を降りた瞬間、

商人の恰好をした青年は小さく息を吐いた。


「……やっと着いた」


リヴェイル村。


ルーメリア王国辺境にある、小さな田舎村だ。


石畳は欠け、建物も古い。

王都のような華やかさなんてない。


けれど、

焼き立てのパンの香り。

店先で談笑する大人たち。

走り回る子供。

昼寝をしている犬。


ここには、

王都にはない空気があった。


例えば、誰も、

勇者を求めていない空気。


「おーい!エド!」


八百屋の店主が、

遠くから手を振る。


青年――商人エドモンドも軽く振り返した。


「久しぶり」


「今回は何売りに来たんだ?」


「雑貨とか薬とか色々」


「おっ、あとで見に行くわ!」


王都では、

誰もこんな気軽に話しかけてこない。


勇者とは、

民から距離を置かれる存在だからだ。


けれどここでは違う。


“エドモンド”として接してくれる。


それが少しだけ嬉しくて、

エドモンドは自然と口元を緩めた。


その時だった。


「うわっ!?」


誰かと肩がぶつかった。


抱えていた木箱が傾き、

中に入っていたリンゴが地面へ転がっていく。


「あー……悪い」


間延びした声。


目の前には、

黒髪の青年が立っていた。


眠そうな赤い目。


やる気のなさそうな表情。


どう見ても、

反省している顔ではない。


「いや謝るなら拾うの手伝えって!?」


「え、ぶつかったのお互いじゃね?」


「そっちから来たよね!?」


「細けえなあ」


青年はそう言いながら、

転がったリンゴを一つ拾う。


そして。


当然のように齧った。


「はあ??お前のじゃねえよ!?」


「減るもんじゃないだろ」


「減ってる!!」


周囲の村人たちが、

どっと笑う。


「まーたルカが適当言ってらぁ」

「エド、災難だなー!」


どうやら顔見知りらしい。


ルカと呼ばれた青年は、

まるで気にした様子もなくリンゴを齧り続ける。


「……お前、面白いな」


「あんたがめちゃくちゃなんじゃないか!」


思わずそう返すと、

ルカは少しだけ目を丸くした。


それから、

ふっと笑う。


「はは。いい反応すんじゃん」


その笑い方が、

妙に自然で。


気づけばエドモンドも、

つられるように笑っていた。


――王都では、

こんな風に笑ったことなんてなかったな。



「きゃああああああああああああああああああああ!!!」


その時。


村の外れの方から、

悲鳴が響いた。


先ほどまで気だるげな顔をしていた青年――ルカの表情が変わる。


「魔物か…」


低い声。


その目は、

まるで戦場を知っている人間みたいに冷たかった。


ぞくり、と。


エドモンドの背筋を、

微かな違和感が走る。


――だが、それも一瞬だった。


「悪いな。エド…だっけ?ちょっと行ってくる」


次の瞬間には、

男はいつもの気の抜けた表情に戻っていた。


地面を蹴る。


その動きは、

村人のものとは思えないほど早かった。


「っ……」


エドモンドの目が細まる。


今の身のこなし。


あれは、

訓練を受けた騎士か、

あるいは――。


「……いや」


考えすぎか。


そう呟きながら、

エドモンドも駆け出した。


◇◇◇


村の外れへ辿り着くと、

そこでは小型の魔物が暴れていた。


犬ほどの大きさの、

灰色の魔物。


とはいえ、

普通の村人からすれば十分脅威だ。


「た、助けて……!」


腰を抜かした女性を庇うように、

ルカが前へ出る。


「うわ、めんどくさ」


気怠げに呟きながら、

その辺に落ちていた木の棒を拾った。


次の瞬間。


魔物が飛びかかる。


ルカは半歩だけ横へずれた。


ガッ――!


勢い余った魔物が、

そのまま地面へ突っ込む。


「わ、っと」


ルカは慌てたように木の棒を振る。


偶然のようなタイミングで、

棒が魔物の頭に当たった。


ギャンッ!?


情けない悲鳴を上げ、

魔物は逃げ出していく。


静寂。


「……逃げた?」


村人たちが呆然と呟く。


ルカは欠伸をしながら木の棒を捨てた。


「あー、疲れた」


「いや絶対疲れてないよね?」


思わずエドモンドが突っ込む。


するとルカは少し笑った。


「細けえなあ」


周囲の村人たちから、

安堵した笑い声が漏れる。


けれど。


エドモンドだけは、

わずかに目を細めていた。


今の動き。


まるで、

魔物が飛びかかる位置を最初から知っていたみたいだった。


「……気のせいか」


そう呟いた時だった。


ぐぅぅぅ……。


間の抜けた音が響く。


沈黙。


「エド、腹減った」


「さっき俺のリンゴ食べてたよな!?」


「足りなかった」


真顔だった。


エドモンドは数秒黙り込む。


それから。


堪えきれず吹き出した。


「……ふふっ、アハハ!なんだよそれ!」


自然に笑っていた。


作った笑顔じゃない。


取り繕った勇者の顔でもない。


それを見たルカは、

少しだけ目を細める。


「やっぱそっちの方がいい顔するな、お前」


その言葉に、

エドモンドは一瞬だけ目を見開いた。


けれど。


不思議と嫌ではなかった。


夕暮れが、

リヴェイル村を橙色に染めていく。


◇◇◇


深夜。


人気のなくなった村外れで、

ルカは小さく息を吐いた。


「……さて」


次の瞬間。


足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


禍々しい魔力が、

夜の空気を震わせた。


赤い瞳が妖しく輝く。


光が弾ける。


転移した先。


巨大な玉座の間で、

異形の魔族たちが一斉に跪く。


「お帰りなさいませ、魔王様」


ルカ――いや、魔王は。


心底面倒そうにため息を吐いた。


「……会議、まだ終わってなかったのかよ」

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