115.第七王子は神にケンカをふっかける
《ノアSide》
前回までの俺!
七つの試練を突破した! 黒幕の待つ、神の間へと向かうのだった……!
扉をくぐった先には……。
『わわわ! ノア様……ここって……!』
『宇宙……?』
気づけば、俺は黒い空間にいた。
だが周りを見渡すと、星々が瞬いてることがわかる。
「酸素がねえ……ここは、地上じゃあねえな」
『いやなんでおまえ生きてるんだよ……』
「え? 酸素がないくらいじゃ死なないが?」
『あああんた人間じゃあなかったもんな……』『ゴッドノア(笑)っすからね』
やかましいぞアニマルども!
『オレ様やそこの猫は人外だから、酸素がなくても問題ないが、あんたは何故生きてる?』
「適用空間結界を自動で張ってるからな」
『いつの間に……』
「無酸素空間に来た瞬間、展開するようになってるんだ。無酸素空間に連れてこられることくらい、日常茶飯事だろ?」
『ねえよ』『それあんたの前世の話だろうが……』
さて、と。
状況を整理だ。
「ここは宇宙……か?」
『月面じゃねーっすかね。ほらあれ、我らの青き星』
あらまあほんと。
暗黒の宇宙にぽっかりと浮かぶのは、俺たちの住んでいる星、青き星。
「つか神のいる場所に連れてこられたはずが、なにゆえ宇宙?」
そのときだった。
【ここのほうが、皆にノア様のご活躍を、見ていただけると思ったのです】
脳内に直接声が響く。
神の番人……いや、ちがう。
この声を、俺は知ってる。
「悪魔……!」
『ちげえよ』『リスタだろうが……』
あってるだろがい。
月面に、一人の女が立ってる。
金髪のメイド少女……リスタ。
俺が左遷先で大変な目にあうことになった、元凶。
「ここであったが一〇〇年目だなぁリスタァ……!」
『またセリフが悪寄りになってるっすよ』『まあ何度もひどい目にあってるからな』
するとリスタが微笑みながら、すぅう……と移動してくる。
足を動かすことなく、浮いて、こちらに来た……?
「適用空間結界が、張られてない……だと」
『! じゃ、じゃあリスタは生身で、宇宙空間にいるってことっすか!?』
『信じられん……そんなの……人外でなければ……』
「まあリスタは人外だけども」
『『それはそう』』
まあそんな冗談はさておきだ。
リスタは俺のそばまで来て、微笑みながら言う。
【ノア様、よくぞお越しになられました】
「…………」
この状況で、普通に振る舞おうとしてる。
リスタは普段からイカレテルやべえやつだが……今は特にやばかった。
「おいてめえ……リスタはどこ行った?」
【? わたしがリスタですが……?】
「ちげえな。てめえは、リスタじゃあねえ」
姿形、声に至るまで、その全てがリスタと同じ。だが……。
「残念だったな。俺の目は、その程度の偽装、まるっとお見通しなんだぜ!」
『ど、どういうことっすか?』
「俺の目はあらゆる魔法を看破する」
『なるほど! つまり……偽装の魔法ってことっすね!』
「そういうこった」
『Sっす!』
「略しすぎだ」
ってことで……。
「正体を現すんだな、てめえ……!」
【ふふ……あははは! ノア様にはお見通しですか……】
にぃ……とリスタが笑う。
ぱちんと指を鳴らした次の瞬間、リスタの体が黒く輝く。
『なんという莫大な神気! これは……神……ぐわあああああああああ!』
「ナベ!」
俺はナベの前に結界を展開。
リスタから吹き荒れる力の波動を防ぐ。
やがて、黒い光がきえると。
そこには、黒白の、三対の翼をはやした存在がいた……。
メイド服はきえて、布を体に巻き付けている。
メイド服よりも露出が多く、目のやり場に困る……だが。
そんな物より気になるのは、3対の翼。
そして……。
「……なるほど、その頭の輪っか……神だな?」
【ええ、そのとおりです】
……いら、っとした。
あー……さっきもイラッとしたけど、今もなんかイライラするわ。
『どうしたんすかノア様?』
「なんでもねえよ……ったく。んで、あんたが黒幕の神?」
黒白の翼をはやした女は、リスタと同じ顔をしてる。
だが、カノジョから発する力の波動は人間の領域を遙かに越えていた。
【ご明察。私は、運命の女神リスタルテ】
『運命の……女神?』
ご大層な称号を付けてくそぉう……。
「か、かっこいいじゃない?」
『『やめろ厨二病』』
はっ! しまった。俺の中の闇がうずいていやがった(※厨二病が発症しかけてた)
【神々を殺し、この場へとやってきた……やはり、ノア様。あなたこそが、ふさわしい】
「……あ? ふさわしいってなんだよ」
【神殺し、ですよ】
ああん?
神殺しだぁ……?
「なんだおめえ……神殺し? 殺してほしいのか?」
【はいっ】
……はいっ、て。
なんだこいつ……笑顔で、うなずきやがったぞ? 頭のおかしなリスタでも、こんなイカレタことはしなかったぜ……?
【わたしは死にたいのですよ、ノア様】
「……意味不明だ。あんたと話すと頭が痛くなる。おとなしくリスタを返してくれ」
【それは不可能ですわ】
『ど、どういうことっすか!?』
するとリスタルテは微笑みながら答える。
【この少女の肉体は、女神が完全に乗っ取りましたの】
『肉体の……乗っ取りだと? 魂の上書きか!』
【そのとおり、さすが悪魔。ご存じでしたか】
ナベが説明する。
『この世界に生きるやつらは、肉体とそれを操る魂とで構成されてる。神のやつは肉体を持たないため、天界の外では活動ができないはずなのだ』
『で、でもおかしいじゃないっすか! リスタ……リスタルテはカーター領にいた、普通の人間っすよ!』
『ああ……だから、女神リスタルテは、地上の人間リスタの肉体をのっとったのだ。地上で活動するためにな』
『そんな……じゃ、じゃあ元々いたリスタの魂は……』
するとリスタルテは、こんなことを言う。
【あの子の魂は、つい最近まで健在でした。】
『な、なんすかそれ……じゃ、じゃあ! うちらが話していた、リスタは……』
【ええ。あなた達の知るリスタは、たしかにリスタの人格でした。ですが、天界に来るときにその魂を消去させてもらいました】
……ああん?
つまり……。
「俺たちが知るリスタは……死んだのか?」
【ええ】
……リスタが、死んだ、だと。
あのイカレタ、殺しても死なないような女が……?
【まあ正確にはまだ生きてますが】
『どういうことっすか!!!!』
ロウリィも珍しく感情的になっていた。
ナベも尻尾を立てて威嚇してる。……俺も、気分は良くねえ。
【リスタの魂はわたしの肉体の奥底で、永劫の眠りについてもらっております】
リスタの肉体のなかには、女神リスタルテと、リスタの魂が入ってる。
んで、リスタの魂は女神によって封印されてるってことか。
『なんなんすか!? あんた、なんのためにこんなことを!?』
【さっき言ったでしょう? わたしは……殺されたいのですよ】
『死にたいなら勝手に死ねよ! リスタは関係ねーだろ! 返せ! 返せよ!』
泣いてるロウリィの頭を、俺がなでる。
感情的になっても意味が無いのだ。
「神は肉体を持たない不滅の存在、だからか?」
【よくわかりましたね、その通りです】
あー……。
むかつく。すんげえ……むかつくわ。イライラする……。
「でも俺は神とかいう連中、ボンボン殺してるが?」
【たしかに、低位の神なら、神器や神域級魔法……神の力によって殺すことは可能。ですが……】
「高位の神は殺せないのか」
【はい。高次元の神は、あらゆる手段を持っても、絶対に殺せない存在なのです。自ら命を絶つこともできない……永久不滅の存在】
「だから……肉体を欲したのか」
【はい。リスタの肉体を破壊すれば、そこに入ってる魂も消し去ることが可能……まあ、肉体と完全に同化するためには、かなりの時間がかかりますが】
なるほど、今まで計画を実行してこなかったのは、リスタの肉体に完全に同化するために時間がかかったってことか。
「つまり……なんだ。女神は自殺したいけど肉体がなかった。だから地上にいるリスタに取り憑いて肉体を得た。死ねるようになったから、俺に殺してほしいと……?」
【よくわかりま……】
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン……!
そこには、白竜ロウリィと、黒狼ナベリウスがいた。
二人は真の力を解放し、リスタルテに攻撃を放っていたのだ。
だが……。
【この程度では、神は殺せませんよ?】
二人の攻撃はリスタルテの黒白の翼によってガードさせられていた。
いや、あの翼に攻撃が触れた瞬間、攻撃が分解されたのを目撃した。
「受肉しても、神の力は健在。雑魚の攻撃は通用しないってことか」
【はい。ですから、世界最強に、殺してほしいのです。二度の転生を経て、魔法と剣を極め、さらに信者を増やしたことで、神格を手に入れた……あなたに】
……なんだ、そのいいかた。
「なんでてめえが転生のこと知ってやがる?」
【なぜ? それは……わたしがあなたを転生させたからに、決まってるでしょう?】
『んな!? ど、どういうことっすか!?』
リスタルテが微笑みながら言う。
【不自然に、思ったことはありませんか? ノア様。あなたのやることなすことが、全て、いい方向に転がってしまうことが】
『たしかに……ノア様の無能ムーブが、一度も失敗したことないっすね』
『全部上手くいっていた。でも、あれは怨霊のしわざじゃ……』
はっ、と二人が何かに気づいたような顔になる。
……俺も察しが付いた。
「そうか……リスタルテ。あんたか。あんたが、俺の運命をいじくってやがったのか」
【ご明察。あなたの言うくだらない無能ムーブが、全て上手くいくように、運命をねじ曲げたのはそう、このわたし、リスタルテなのですよ】
……くだらない?
【無能ムーヴ? 無能に見せてるのに、成功するなんてあり得ない、そんな馬鹿みたいなご都合展開がおきるのは、創作のなかだけですよ?】
……馬鹿みたいな、ご都合展開?
【全てはわたしが仕組んだこと。あなたがそうやって、馬鹿な民たちに、馬鹿みたいに持ち上げられることで、信者となる。そうすることで、神格を得る。神を殺す力を得る】
『だから、無能ムーヴを成功させていたと? 周りから賞賛され、信者を獲得し、神となるために?』
なんてこった……。
『転生はどうなる?』
【転生させたのは、神格を獲得するための器を作るためです。最強の肉体と最強の精神。その二つが同居する、神の力を受け止めるだけの器を作る。そのための二度転生】
ああ、なんてこった……。
つまり、なんだ。
俺が剣聖、賢者、そして王子と二度も転生したのも……。
俺の無能ムーヴが、全部成功したのも……。
全部運命の女神が、俺の運命をねじ曲げてたのか。
なんてこったい……。
【全ては今日この時、わたしを殺すため。ノア・カーター。あなたは神を殺すために作られた、神の傀儡。偽りの英雄】
…………。
【しかしこの今日このときをもって、あなたは偽りの英雄から、神を殺した本当の英雄となる。さぁ……! ノア様、どうぞわたしを殺してください。それはこの肉体の、のぞみでもあるのです!】
はあー……。
あーーーーーー………………。
【さぁ……!】
俺は、言う。
「だが、断る!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
堂々と、そう言い放つ。
【こと……わる? どうしてですか? もしかして自分の運命をねじ曲げられたことに、憤りを覚えてるのですか?】
「ちっげーよタコ!」
【た、タコ……? め、女神に向かってなんて口の利き方を……!】
「うるっせえええええええええええええええええええええええええええええ!」
俺は……怒っていた。
でもリスタルテが言うところの、俺の運命がいじくられたことへの怒りではない。
「勝手によぉ、人の……リスタの、運命を決めてんじゃあねえ!!!!!!!!!」
たしかに、俺の全てをこいつに決められてたってのはむかっ腹が立つ。
だがよぉ……だがよぉお……!
「自分が死にたいっていう都合を、他人に押しつけてんじゃねえよメンヘラ!」
【め、メンヘラァ!?】
「死にたいなら勝手に死んどけ! だが……! リスタは関係ないだろうが!!!!!!!!」
神がどうなろうと知ったこっちゃねえ。
「俺は! 自分の都合で人を殺そうとしている、てめえを許せねえ!」
【理解不能……理解不能です。なぜこの男は、そんなに怒ってるのですか? ノア・カーターにとって、リスタは、平穏を邪魔する邪魔者じゃあ……】
「ちげえ!」
俺ははっきりと否定する。
「そいつは……たしかに平穏を邪魔するイカレタやつだ。でも……! 俺の、仲間なんだよ! 殺していいやつじゃあねえ!」
俺は両手を広げる。
右手に剣を、左手に魔法を。
「リスタの肉体は返してもらうぜ、女神様よぉ」
【……神の慈悲を理解せぬ、愚か者め。もういい、おまえは失敗作だ。また新しい傀儡を作るまで……】
「はっ! ざーーーーんねんでしたぁ!」
俺がにやりと笑う。
「愚か者? 失敗作? はっ! 俺に取っちゃ褒め言葉だぜぇ! なぜなら俺は無能王子だからよぉ!」
『力貸すっすよ、ノア様!』
『ああ、殺ろうぜ、ノア様。オレ様、あいつの偉そうな態度が気にくわねえんだ』
ナベと同感だ。
リスタルテは、リスタじゃねえ。
さすがですノア様っていわないリスタなんて、リスタじゃあねえからな!
【散るがいい、愚かで矮小なる存在よ】
「上等だ! 愚か者の力、見せてやんよ!」
俺と神の、最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。




