第百四十五章 陽子、トリックを解く
トリックが解けずに捜査に行き詰まり、困った佐藤刑事は、何か思い出した事はないのか、第一発見者の陽子に話を聞く為に、もう一度会いに行きました。
すると修も来ていて、「お前なあ、何で俺が非番の日に来るのだ?態と邪魔しているのか?」と不機嫌そうでした。
佐藤刑事は、「それは考え過ぎだよ。美人の女房を貰うと色々と心配だね。精々保険金目当てに殺されないようにしろよ。」と笑っていました。
陽子は、「それは良いかもね。修ちゃんを殺して、ビルの下に死体を転がしておいて、ビルの屋上から、私が修ちゃんと同じ服を着て飛び降りれば、修ちゃんは自殺した事になるわね。」とコスモスの協力でトリックが解けたので説明しようとしました。
修は、「ちょっと待てよ!そんな事をすれば、陽子も死ぬだろ!それに自殺では保険金は出ないぞ!」と怒っていました。
陽子は、「死なないわよ。平気よ。今回の犯人が使ったトリックと同じかどうか解らないけれども、保険金が出ないのでしたら辞めとくわね。修ちゃん、長生きできて良かったわね。」と陽子がトリックに気付いた事を仄めかしました。
修は、「良かないよ。そういう問題じゃないだろう。」と陽子がトリックを解けた事を仄めかしても修は全く気付いていませんでした。
佐藤刑事は、「梅沢!夫婦喧嘩は、後でゆっくりすれば良いから、奥さん、どうするのですか?ビルの七階から飛び降りた時の衝撃をどうやって吸収するのですか?」と陽子がトリックを解いた事に気付きました。
陽子は、「刑事さん、解らない時には、少し視点を変えて見ればどうですか?衝撃を物理的に和らげる考えが、そもそも間違いなのよ。物理学ではなく心理学ですよ、刑事さん。ビルから飛び降りると、自殺だと思ってしまいました。まさかバンジージャンプするとは思いませんでした。」と説明しました。
佐藤刑事は、「紐が見えるのではないですか?」と不思議そうでした。
陽子は、「刑事さん、バンジージャンプ専用ロープでないと、紐ですと、切れるわよ。そのロープを、ビルと同じ色にすれば、良く見ないとロープがあるかどうか解りません。それに今考えると、エレベーターで叫んだ女性は、“飛び降りる”ではなく、“飛び降り自殺”と叫んだ為に、それを聞いて自殺だと思い込んでしまいました。それでロープに気付きませんでした。他の人もそうだと思いますよ。」とトリックの説明をしました。
佐藤刑事は、「そうですか。自殺だと印象付けたのですね。しかしバンジージャンプだと、一度地上近くまで落下して、もう一度上へ上がってくるのではないですか?」と確認しました。
陽子は、「あれっ?刑事さん、先日実際にエレベーターに乗って確認したのではないですか?途中に障害物があり、直ぐにそのビルは見えなくなります。だから地上も見えなかったのでしょう?」と返答しました。
修が、「佐藤、お前も刑事だったら、もっと確りと確認しろよ。一度しか乗ってない陽子の方が良く知っているじゃないか。」と警告しました。
陽子は、「修ちゃん、私はあのデパートに行ったのは初めてではなく、エレベーターも何度も乗っていますよ。」と佐藤刑事を弁護しました。
佐藤刑事は、「梅沢、お前女房の事を全然解ってないじゃないか。奥さん、こんな奴とは離婚を勧めますよ。」と修に世界一の名医は不釣り合いだと思いました。
陽子は、「それは考えておきます。以前、刑事ドラマで見た事がありますが、こういうのって、誘導されたっていうのでしょう?それに私達が現場に駆け付けた時も、死体ばかり見ていた為に、ビルの方は見ていませんでした。多分あの時はまだロープがあったと思います。ですから、心理学の問題だと言ったのよ、刑事さん。ビルの屋上にロープが擦れたり、固定したりした痕跡はありませんでしたか?もしそうであれば、私も犯人に誘導されて、騙された事になりますね。」と返答しました。
佐藤刑事は、「解りました。直ぐに調べてみます。」と言い残して現場に向かいました。
修は、「なるほど、そういう方法もあると思うが、今回の犯人が、その方法を使った保証はないぞ。探偵気分で喋るのは良いが、陽子の言うような痕跡がなければ、赤っ恥をかくだけだぞ。」と素人の陽子にトリックを解かれて不愉快そうでした。
陽子は、「間違いないわよ。必ずあります。私に真相を解明されて、刑事の顔が丸潰れになったからといって、そんなに怒らなくても良いじゃないの。探偵か、それも良いかもしれないわね。“外科医の事件簿”なんて小説を書けば売れるかしら?」と笑っていました。
修は、「何馬鹿な事を言っているんだ!仕事に負われているお前に小説を書く時間がどこにあるんだ?」とできる訳がないと感じました。
陽子は、“やくざの幹部もしているし、確かに時間がないわね。しかし何とか星人の科学力って凄いわね。自宅マンションに事件現場の立体映像を写し出せるし、縮小拡大も自由自在だし、タイムマシンで調べられるし、実際にタイムマシンで見たから私も解ったのよね。痕跡もちゃんと残っていたし、決定的瞬間を子供が見ていたし、これでこの事件も解決ね。”と思っていました。
佐藤刑事が調べると、陽子の予想した通りの痕跡が残っていました。
佐藤刑事は同僚刑事に、「ここはお前が調べたんだったな。何故これを見逃したんだ?」と飛び降り自殺の時になければ、この痕跡は自殺と関係なくなる為に確認しました。
同僚刑事は、「いや、自殺だと思い込んでいたので、周囲の確認はしていない。」と反省していました。
佐藤刑事は、「捜査に思い込みは禁物だと何度も教えただろう!もう少しで殺人犯を見逃すところだったんだぞ。」と怒っていました。
更に、エレベーターに乗り合わせた客の中に親子がいて、落下地点で、親が、子供に死体を見させないように後ろ向かせた事を陽子が覚えていて、“その子供が何か見ているかも知れません。”と証言しました。
佐藤刑事が確認すると、その子供は小学生で、ビルの屋上からロープが垂れ下がっていて、人が窓から中に入って行く様子を目撃していました。
エレベーターで叫んだ女性を参考人として警察で事情を聞いた所、当然アリバイを主張しました。
佐藤刑事は、「人が飛び降りる様子を見て、エレベーターに乗り合わせた人が全員、落下地点に向かい、その時に蘇生しようとした女性が二人いた事を覚えていますか?その女性は二人とも外科医で、死体の状況から判断して、飛び降りる数時間前に亡くなっていたと聞いています。あれは何かのトリックでしょう。私もエレベーターに乗り確認しましたが、エレベーターの中からは、飛び降りる様子は見えても途中から障害物があり、地面が見えませんでした。」と説明しました。
女性は、「早く死のうが遅く死のうがそれは関係ないでしょう。私は只、人が飛び降りる様子を見ただけですよ。それは、エレベーターに乗り合わせた人、全員が見ています。その外科医もね。何で私だけが取り調べを受けるのですか?」と不満そうでした。
トリックについて佐藤刑事が説明して、小学生の子供が決定的瞬間を目撃していた事を説明しました。
女性は、「だから、そんなトリックがあっただなんて、知らなかったのよ。何で人が飛び降りる様子を見た事が犯罪になるのよ。」と反論しました。
佐藤刑事は、「もっと、素直になって欲しかったですね。今子供が見ていたと説明したでしょう。バンジージャンプの衝撃で、長髪のカツラが外れて、顔を覚えていました。そのビルの監視カメラの映像を見せると、はっきりと証言したよ。外れたカツラは死体の近くに落ちていた為に、死亡した男性の物だと判断して、警察が保管していました。調べると指紋が検出され、あなたの恋人を特定しました。」と説明すると、諦めて自供しました。
そして、エレベーターで叫んだ女性に、「レイプされ、その時に撮影された写真で脅迫されて、数回金品を脅し取られていた事には同情しますが、だからといって、人を殺しても良いという事にはなりません。人を殺す前に警察に通報して頂けなかった事が残念です。殺人罪で逮捕します。」と逮捕しました。
逮捕後、彼女は、「私が警察に連行されたら逃亡して、私の事は忘れるようにと伝えています。」と証言しました。
佐藤刑事は、「彼は先程自首してきて、色々と事情を聞きました。彼は、“逃亡するように言われたが、君の事が忘れられない。一生君の為に尽くす。”と言っていました。良い彼じゃないか。彼は君が出所するまで待っていると言っているそうです。君はまだ若い。出所後、彼とやり直しなさい。」と励ましました。
彼女は、「私を待っていたら、幾つになると思うのですか?私の事は忘れて幸せな結婚をして下さいと彼に伝えて下さい。」と彼を自分の犠牲にしたくないようでした。
佐藤刑事は、「彼の説明では、あなたは真夜中に工事現場のビルの屋上に呼び出されて脅迫されている時に、突き飛ばして転落させていますが、誰もいないとはいえ、あのような場所に変態行為をする為に道具を準備した上で裸になれと言われた事が原因ですし、今迄、何度も変態行為を強要されて、断ると縛られて強制的に変態行為を受けた事が証明できれば、情状酌量される可能性は充分あります。先程、落下地点に駆け付けた外科医がいたと言いましたが、その外科医は世界的名医の梅沢先生でしたのも何かの縁でしょう。先生にご足労願いますので、相談してみて下さい。女性の先生ですし、相談する先生としては最適だと思いますよ。」と彼女を何とか助けようとしていました。
警察から事情を聞いた陽子は、人命を大切にしているとはいえ、“女性の敵は許せない。彼女が可哀想です。”と協力する事を約束しました。
陽子は再びコスモスにタイムマシンで実際に彼女が変態行為を受けている様子を確認して、裁判で変態行為でなければできない傷跡を女性器や排泄器官で数か所指摘して、縛られた痕跡も数か所指摘しました。
裁判官は、ネガを取り戻そうと争っている時に誤って相手を転落させたのであり、殺意は認められないと述べて、彼女は重い罪になりませんでした。
彼は出所後、就職もして仕事が休みの日にはデートだと言いながら、刑務所に面会に来ていました。
次回投稿予定日は、11月22日です。




