忘却
「光あれそこに光はあった。」
突然航と静香の背後から声がした。
凛の背後の空間に『檻』が現れていた。
あたかも初めからそこに有ったかのように。
『グワッ!?』
男は目の前にいつのまにか有った檻にぶつかった。
「な…なんだ!?こんなものいつの間に?」
男は檻の中にいた。
そして姿も見えていた。
「なっ『バエル』の力が消えている!?…魔力封じの霊装か!?」
「ほう、バエル…『ソロモン72柱』の一人だな。お前のような者がよく契約できたものだ。」
『バエル』それはかつてかの有名なソロモン王が契約したと言われる72体の悪魔の中の一体だ。伝承ではその能力は召還した者を透明にするものである。
「なぜバエルの力で透明になっていた俺の場所を完全に把握できた!?」
男は航の隣に立っている者に信じらんないと言いたげな表情で聞いた。
「なに、簡単な事だ。私の霊の能力がそういう能力なだけさ。」
そう答えた声には確かな重みと圧倒的なカリスマ性があった。
鳴神千尋。
若くして国連から帯刀者特区を任された真の天才である。
「さて、よくも私のかわいい教え子に手を出してくれたな。この責任どうやってとるつもりだ?」
迫力ある千尋の前では男も言葉をなくし、そのまま学園に護送された。
「凛さん、凛さん…」
静香の凛を呼ぶ声に我にかえた航は静香の下に駆けつけた。
「浅上さん、しっかりしてください!」
凛は身体のあちこちに刀傷があり出血もひどかった。
「はやく病院へ。」事態は一刻を争う。そう判断した航は凛を背負った。
「俺の車に乗せろ。この時間帯なら走るよりそっちの方が速いだろう。」
近くにいた魔術道具屋の店長が車を走らせてくれた。
男を学園の風紀機関に引き渡し、破壊された商店街の応急処置を済ませ、そして凛を病院に搬送し、ようやく騒動が終結したのは日が沈んでからだった。
病院の処置室から出てきた医師と千尋に航が駆け寄り、
「先生、浅上さんさんは?」
「もう大丈夫だ。佐々木静香が看てる。…というより…」
千尋と医師が顔を曇らせた。
「どうかしたのか?千尋ちゃん。」それがな…と千尋が言った。
「自然に回復したんだ。あの怪我からものの数分で。こんな回復力は私も初めてみたよ。」
今回凛が負った傷はもはや簡単な回復術式では治らないレベルのものだった。
「先天的に回復力が高い人間は確かに存在する。」千尋はやはり難しい顔をしている。
「だがあれは異常だ。あそこまでのものは私も見たことがない。」
世界的帯刀者である千尋が言うのだ。間違いないのだろう。
また医師は
「私は過去に一度だけ『不死身』と呼ばれていた男に会ったことがあるがね、あの男は霊の能力で圧倒的な治癒能力を得ていた。たが彼女は違う。正確な霊の真名までは分からないがそんな治癒能力を持ったものでは無いはずだ。」
霊の能力でもなく人間を超えた回復能力をもった人間。
「じゃあ浅上さんはいったい…」
そんな人間がいるのか…あるいは…
「ああ、それとね彼女の体でもう一つ気になることがあるんだがね。」
「もう一つ?なんだ。」
千尋が医師に聞いた。
人智を超えた回復力の他にもう一つ通常ならば有り得ない事があったらしい。
「彼女の魔力炉なんだがね、通常の3倍の許容量を持っているんだ。しかも完全に魔力が回復してもその30%しか入ってないんだよ。」つまり残り70%は常に空でありそのことは本人もどうすることもできない。
まるで何かが入っていて今はそれがなくなったみたいだ。と医師は言った。
『先生、回診のお時間です。戻ってきてください。』
医師の携帯が鳴り、看護師からの連絡があった。
「ではこれでわたしは失礼するよ。ああ、彼女は数日間の入院が必要だから。一応精密検査するからね。」
回復力が高いと言っても安心はできないということで医師は凛を一週間入院させることにした。
静香は今日は病院に泊まると言った。
航と千尋は一旦学園長室に戻った。
「千尋ちゃん、僕も一つ気になっている事があるんだ。」
「もう一つ?まったく浅上凛は一体なんなんだ。」
千尋がうんざりしていると航はそれを否定し、
「僕が気になっているのは佐々木さんなんだ。」
「佐々木静香だと?何かあったのか?」「うん、多分彼女は今日の男の姿が見えていたんじゃないかな。」
その言葉に千尋は大きく反応した。
「見えていただと?」
推測だけどね、と航は言った。
「多分彼女も無意識だったと思う。でも彼女が叫んだタイミングは男が浅上さんにトドメを刺そうとした時だったんだ。あまりにもタイミングが良すぎない?」
「ほう、やはりお前には見えていたか。」
航は少し考え、
「もしかしたら彼女は僕と同じじゃないのかな?」
だが千尋はそれを直ぐに否定した。
「いや、佐々木静香は既に霊と契約している事が確認されている。それはあり得ん。」
霊の真名までは契約者本人しか分からないが契約しているかどうかまでは既存の技術でわかる。そのことを根拠に千尋は航の考えを否定した。