5月10日(火)夕方2
5月10日火曜日 夕方2
「じゃあ、とりあえず作戦を立ててみよう。」
「…うん。」
アミに主導権を奪われた形になっているのが解せなかったが、とりあえずナギはうなずき、カバンから例の本を取り出す。なぜだか返却する気になれなくてずっと持ち歩いているのだ。アミはその本を見ながら話し始めた。
「まずすべきことは、棚をイタズラした人とページを破いた人が同一人物なのかを調べることでしょ。ナギの推理では『誰かさん』って同一人物ってことになっているみたいだけど、やっぱりまだ確定事項じゃない。」
(さすがアミ、分かっているじゃない。)
ナギは心の中でうなずいた。
「そうそう。だからまずページを破いた人を探し出してその人に聞いてみるのが早いと思うの。」
アミはあごに手を当てた。幾分伏し目がちになって考え込む。
「新着図書であるこの本を1番初めに予約して借りた人、かあ……。でもここで1つ問題があるじゃない。大きな問題。どうやってその人物の名前を調べるか。」
そうなのだ。予約図書は通常専用の用紙に書いてカウンターに提出する。それを司書の先生や図書委員が端末に入力する。用紙は予約された本が戻ってくるまでは予約図書に挟んで保管されるが、次の人が手続きをしたときに用済みとなり直ちに破棄される。
つまり、くしゃくしゃ、と丸めてゴミ箱にポイ、だ。
ナギは手に持った本を見つめる。この本を借りたのは金曜日のことだから、1番目の人が借りたのはさらにその前の日付のはず。ゴールデンウィークを挟んでいるので、その日は5月2日月曜日のことだ。ナギもアミもカウンター当番ではなかった。今日はもう10日、週明けての火曜日だから、いくら何でもゴミ箱には残っていないだろう。
「ゴミ箱のゴミは毎日焼却炉に捨てに行くもんね。」
アミも同じことを考えていたらしい。そして物騒なことを呟いた。
「……何とか端末から情報を引き出せないかな。」
「えっ。」
「だから貸し出し用のパソコンなら、『ログ』っていうの? 何か記録が残っていると思うんだよね。まずはそこからかな。」
ナギの心の中に小さな不安の種がぽとんと落ちた。アミ、一体何をいおうとしているの?
「ちょっとまって、アミ。ログを閲覧するためにはパスワードが必要でしょ。どうせ先生に聞いたって教えてくれないよ。私、そういったことまでして『誰かさん探し』したいとは思っていないよ。」
でもアミはナギをまっすぐ見て命じた。
「ナギ、じゃあ本当にログの閲覧が出来ないのか、明日牛尾先生に聞いてみて。聞いてみてだめならまた別の方法を考えよう。まあ当たって砕けろ、よ。」
(つづく)