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5月24日(火)放課後2

5月24日(火)放課後2


 屋上や2年C組の騒ぎとは打って変わって図書館は静まり返っていた。

ナギは息を切らせて図書館に駆け込むと早足で書架の間に分け入り、とある書架に向かった。


そこは、火曜日にナギと「三瓶さん」がすれ違ったあの棚だった。

300番台、つまり「教育」関係の本の棚だ。

棚の前には既に人影があった。

小柄で猫背でおかっぱのメガネをかけた3年生。

ぶかぶかの制服に華奢な肩。

ネクタイの色がえんじ色でなかったらもっと下の学年と間違えているところだ。


「新開ナギさん…? やっぱり、あなただったのね。私を呼んだのは……。」


「…あなたが、さ、『三瓶ルリカ』さんですか?」


ナギはからからののどから声を絞り出した。

そしてわき上がる疑問をぐっとこらえた。


(なぜ私の名前まで知っているの?)


「ええ、私が三瓶よ。はじめまして。」


三瓶さんはニコッと笑った。そして声を落として続けた。


「実はね、私もあなたと1回話してみたかったの、ここじゃ何だから、外に出ない?」


★★★


 校舎の西側には小さな中庭があって、そこにこの学校の創立者の銅像と小さな池、そしてベンチひとつある。

ベンチの脇にスズカケの木が植えられていて、正面にはツバキが数本、こんもりとした固まりとなって丁度良い目隠しになってくれている。

 昼休みにはよく先生の指定席になっていて、ひなたぼっこがてら昼寝をしていたりする。

しかし、今は人影はなく、この小さな空間を夕焼けが明るく照らしていた。


 ナギと三瓶さんは、ベンチにカバンを置くと、どちらからともなく腰を下ろした。

ナギの方が背が高いのでどうしても見下ろす感じになってしまう。

加えて三瓶さんは、とても小さく華奢に見えた。

ナギはやっぱり自分が無駄に図体が大きいような気がして情けなくなった。

一瞬前までは確かに「聞いてみたい!」と思っていたことにも、自信がなくなってしまった。

本当にこんなことが聞きたかったことなのか。ナギがいい出せないでいると、三瓶さんが口を開いた。


「ここって、なんだか落ち着くよね。静かで……、それで用件ってなに?」


 三瓶さんはにっこり笑った。


「先ほどのメッセージでは、『屋上で』という話だったみたいだけど…今日は人が沢山いるみたいだから。

しかもメッセージの下に、グラウンド一杯に人文字で私の名前を書いてくれたでしょう…点字で。

正直、とってもびっくりした! 

あの、皆で叫んでいた『6つの星』って『点字』を指していたのでしょ? 

だから、もしかして私が点字の本を借りたこと、勉強を始めていることを知っている人? と思って。 

あの点字の本がある棚のところに来てみたの。」


 先日ナギがたどり着いた図書館の分類番号370番は、教育関係の本を中心においている棚だ。

そして、この棚にあった『イメージトレーニング理論と実践』の本の少し下の辺りには、点字の入門書が数冊蔵書されているのをナギは確認したのだった。


 ナギの思惑はこうだった。

点字を学び始めたばかりの人ならば、おそらくまずは簡単な文字から覚えるはずだ。

そう、例えば自分の名前とか……。

だから応援合戦の時に三瓶さんの名前を点字で書く事にしたのだ。

そうすれはメッセージを宛てた本人だけが、メッセージの意味を理解することになるだろう。

『放課後屋上に来て』の文字をグラウンドにくっきりと書いたのはいわば陽動。

人を屋上に引きつけておくための方便だった。

本当のメッセージはナギ達が叫んだ言葉、『レグルスからの伝言。6つの星の元に集まろう!』の方だったのだ。


三瓶さんはさっきの騒ぎの時、3階の窓からちゃんとメッセージを見て、理解してくれていた……その真意まで。


 ナギは姿勢を正して三瓶ルリカに向き合った。

重たい気持ちを押し出すように、小さく息をつくとナギは切り出した。


「三瓶……先輩にお聞きしたいことがあって、グラウンドにメッセージを書きました。

ご迷惑をかけてしまって本当に済みません。

で、でも、あの、……なぜこの本を破いたのですか?」



(つづく)

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