5月24日(火)昼2
5月24日 火曜日 昼2
その日は朝からすばらしい快晴だった。
まるで仰ぐミの勝利を、ひいては今日の計画の成功を約束してくれるかのような、青空。
前日の放課後ナギがリレーの練習をしている間、ぎりぎりまで打ち合わせを続けたメンバーは、昼休み12時半に集合した。
それぞれ校庭の入退場門が設営される位置に待機している。
応援団員は朝礼台の前に整列し、ナギは促されておずおずと真ん中に立つ。
その横に立った阿部さんがメガホンで全学年のC組、青組のメンバー達に段取りを説明をする。
一瞬、グラウンドがシン…と静まり返った。
皆が朝礼台に立ったナギの合図を待っているのだ。
視線を一身に受けて、ナギはいたたまれ無い気持ちになり、その場を逃げ出したくなった。
アミがそんなナギのおびえを見とがめて、朝礼台の下からナギのスカートの裾を軽く引っ張った。
ナギははっとして、手を挙げた。
応援合戦の練習が始まった!
まず、四方に控えていた生徒達が一斉に列をなして校庭の真ん中に走り寄ってくる。
阿部さんがメガホンで打ち合わせ通りに皆に指示を出す。
グラウンドをめいっぱい使って複雑に動き回りながら最終的に計画通りの丸が並んだ陣形を作ってゆく。
ナギは手を下ろして、応援合戦が進んでゆく間、校舎の窓を見上げていた。
横でアミも気にしているのが伝わってくる。
3年B組のあの窓の辺りに「三瓶さん」の席があるはずだ。
ナギの心の中で必死に手を組み合わせていた。
(「三瓶さん」早く気がついて!
あの窓の向こうに座っているんじゃないの?
ちょっとで良いから外をみて!)
心臓はずっとドキドキしっぱなしだ。
と、そのとき、3階の窓に人影が映った。
(「三瓶さん」……?)
ナギは息をのんだ。
ガラリと窓ガラスが開き、顔を出した3年生は…メガネをかけていない。
お下げにした長い髪。
空気を入れ換えるため窓を開けたらしく、何気なく下を見て…、
「あ。」
アミが小さく声を上げた。
(気付かれた!)
ナギは肌が粟立つような緊張を覚えた。お下げの生徒は、どうやら校庭いっぱいに書かれた文字に気がついたらしい。
振り返るとなにやらしきりに手を振り回し、あっという間に5、6人の生徒達が窓に鈴なりになった。
(まずい)
と、ナギが思うまもなくどんどん人は増えてゆく。
ついには学校中、もちろん、グランドにいる青組みの生徒以外だが、全てのクラスの窓一杯に人々が顔がずらりと並んでしまった。口々になにかを話し、こちらを指差している。
もう、その中に「三瓶さん」がいるかどうか、確認しているヒマはない。
手はず通り阿部さんが再びメガホンを手に、精一杯の大声で取り補足の説明をする。
陣形が出来上がったら最後に青組全員でスローガンを2回、唱和するのだ。
しかし今回はナギが提案した「特別の言葉」にすり替えてある。
そして、皆一斉に唱和した。
『レグルスからの伝言。6つの星の元に集まろう!』
『レグルスからの伝言。6つの星の元に集まろう!』
後ろに控えていたアミが呟いて、ナギの背中をバンバン叩きまくる。
「メッセージは伝わったんじゃない? 早く、ナギ、早く解散させて!」
「あ、そ、そうだよね!」
ナギはあわてて手で合図を送って2年生の人文字を解散させた。打ち合わせ通りに、2年生が四方に散ってゆく。
ついで1年、3年生も撤収させ、2年C組のメンバーが総出で手当たり次第ホウキを手に校庭を掃き文字を消してゆく。
ナギやアミ達はホウキを手に取る暇もなくグラウンドに走り出て、足であわてて文字の痕跡を消していった。
そうしている間にも次々に3年生の他のクラスの窓からも、遂には他の階や屋上からも人がのぞいている。
人数が多すぎて、誰が誰やら全く分からない。
「三瓶さん」はその中にいたのだろうか。
午後の授業の始まりを告げる13時15分の予鈴のチャイムがあわただしく鳴り響いた。
しかしそのときになっても、校庭いっぱいに石灰で書かれた「放課後屋上に来て」の文字を完全に消すことは出来なかった……。
(つづく)




