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俺だけ異世界転移していないらしい 〜異世界で俺と結婚した三人の嫁が、転移前の俺を必死に攻略してくる  作者: nayaminotake
第一章 俺のクラスがおかしい

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第1話 俺だけ、何も知らない


 4月2日――――

 それは新たな出会いに、不安と期待に胸を躍らすそんな季節


 朝、学校への通学路には新一年生であろう

 目新しくも初々しい高校生らが、不安と期待に満ちた眼で一歩一歩 学校への一本道を歩んでいる。


 実際、俺にもそんな時期がありました・・・


 ボサボサの黒髪

 肘や肩の部分が所々ほつれてしまったブレザー

 膝の所が擦れてチェック柄が薄くなってしまったズボン

 何度も靴裏を貼り換え使っている革靴

 中学からずっと使っているため、あちこち皮が剥げている黒鞄


 俺の横を追い越していく、黄色いオレンジの真新しいネクタイを締めた新一年生・・・


(全部新品か・・・)


 友人同士だろうか、3人組の新一年の男子生徒の後ろ姿を見つめながらポツリと呟く


「おはよー」

「あ、おはよー昨日のNステ見た!?」

「みたみた、水原さん出てた!」


 車道を挟んだ反対側には、紺色のリボンを付けた俺と同じ2年の女子生徒が音楽番組の話題で盛り上がっている。


(水原か―――)


 ブォォ―――


 頭の中で一人の女の子の姿をイメージしようとするが、その瞬間2トントラックが横を通り、その排気音と共に俺の頭の中の映像も消し去って行く


(まぁ俺には関係ないか・・・)


「おはよう―――」


 後ろの方で、女の子が誰かに挨拶しているようだ


「ねぇ、おはようって!」


 聞こえて無かったらしい、そりゃそうだ。

 この時間は車の往来も多い、車が走る音で聞こえない時だってあるさ


「ちょっ、巧ってば!」


 へぇ相手は巧《たくみ》って名前か

 奇遇だ―――


 俺と名前が同じだ


「うわぁ!」


 とか考えてると、急に強い力で肩を掴まれ180度回転させられる


「さっきから呼んでるじゃない!」


 目の前には、水色のウェーブかかった長い髪を煌かせ、紺色の大きな瞳で真っすぐ俺の事を見つめる美女が立っていた。


「え、お、俺?」


「そう!巧って呼んでんじゃん!何で返事しないのよ!」


 水色の髪の美女はピンクに染まった頬を膨らませながら、俺の鼻先に人差し指を突き付ける。


「え、えっと――――何で水原さんが?」


「はぁ?水原さん!?何時もは真希って・・・・!?う、うそ・・・アレってそういう事だったの?」


 何やら一人で怒ったり驚いたり、落ち込んだり・・・

 流石女優業もこなす現役トップアイドル水原真希《みずはらまき》、感情表現と顔の表情が見事に一致してる・・・


 でもおかしい・・・水原さんは1年の頃から俺に絡んだりして来た事は無い

 ――それどころか、前に水原さんの視界に入っただけで軽く舌打ちされた位には嫌われていたはず・・・

 水原さんはアイドル業が忙しいらしく学校を休む事も多いのでたまの貴重な学校生活で、俺みたいな陰キャオタク丸出しの路傍の石になんかに、いちいち構ってられないってだけだろうけど


 まぁ、そもそもドルオタの俺の推しは水原さんでは無く、同じアイドルグループの―――


 コホン・・・まぁ、なんにせよ、住む世界の違うこの高飛車マウント女が俺は苦手だ。


 てな事を考えてると―――


「ごめん、たく―――御神君、私朝から先生に呼ばれてたの思い出したから先行くね―――!」


 手をヒラヒラさせ水原さんは、学校の方へ走り去った。


「あ、挨拶返してないや・・・」


「お、おはよう水原さん―――」


 もう水原さんの姿は見えない・・・


 苦手な高飛車女でも、陰キャ仲間や母親以外と交わす久しぶりの挨拶に少しだけ心が弾んだ


 て言うのも、つかの間・・・


 学校の校門をくぐり、下駄箱で上履きと履き替えてるだけで気が滅入る


 そんな俺の名前は御神巧《みかみたくみ》・・・帝理《ていり》高校に通う2年生、17歳だ


「・・・今日は2年に上がった初日の昨日より少し早めに来たし・・・大丈夫だよね?」


『うっわ――カビ臭ぇ―――陰キャ臭がスゲェ―わ!』

『おいおい、ファブしとけよ!ギャハハ』

『あぁ?いつまで見てんだよ、陰キャネクラが!』


 昨日の地獄を思い出す


「はぁ―――何で、この学校クラス替えが無いんだよ・・・」


 誰も居ないはずの下駄箱で一人愚痴る

 昨日は新学期初日の朝から、A組の格闘部派閥3人に下駄箱で因縁つけられ朝から何も悪くないのに低頭必死に謝る所から新学期が始まった―――


 でもウザイ脳筋連中のいう事はごもっとも

 現に、俺がネクラでオタクと言うのは紛れもない事実だ


 連中の様に部活に打ち込む熱量無く、勉強も不得意、運動も普通――当然イケメンでもない

 毎日がバイトと家事に追われる毎日・・・


 唯一の楽しみは、推しのアイドルを愛でる事と・・・

 学校の図書室や街の図書館で無料で本を借りて読むことくらいか・・・


 といっても、ゲームセンターだの映画だの遊園地だの、普通の高校生が楽しむような遊びは経験したことがない・・・


 ―――家は、貧乏だから・・・


 母と俺の二人だけの家族・・・

 父の顔は知らない、俺が生まれた時には既に父親は居なかった。

 何度か母親に父の事を尋ねた事はあったが・・・まぁどうでも良いか―――

 俺は工場の夜勤で働いてる母を少しでも助けたくて、高校1年の時から喫茶店のバイトを始めた


 高校一年生の俺を隔日平日の夕方シフトと土日昼間シフトで雇ってくれる所なんかそうそう無い

 バイト先の喫茶店のマスターは寡黙だがすごく良い人で、俺の家庭事情を多少は話してる事もあり、何かと融通を利かせてくれパンの耳などの余り物をくれたりするので、すごい助かる


 が―――


『ねぇ御神―――ワリィ~んだけど、アタイの代わりに拭き掃除しといてくんない~?ぶっちゃけ掃除とか料理とか家事全般苦手なのよねぇ~』


 問題はこのマスターの娘の、黄瀬《きせ》エミリって女だ・・・

 マスターが店に立ってないと、何かにつけて俺に仕事を押し付けサボってやがる

 こっちが無理言って雇ってもらってる立場の弱い俺の足元を見て、何かにつけて面倒を押し付けてくる嫌なギャル女だ


(ただ見た目のビジュは良いんだよな・・・)

 オタクに優しいギャルなんて、おそらく伝説上の存在なんだろう


 そんな事を、沢山のラブレターらしき物がはみ出てる黄瀬エミリの下駄箱を見て思う


「はぁ――また今年もあの女と同じクラスとか・・・萎えるわ」


 お店でも学校でも顔を合わすと思うと、溜息しか出ない

 肩がガックシと落ち、超なで肩に・・・

 そんな俺の落とした肩を誰かが背後からポンと叩いた


「はよぉ――――ん!タクミン♪」


「え?」


 と、そこには金髪のユルフワパーマをハーフアップさせ、ワンポイントで金色のハートの髪留めを付けた、ギラギラのギャル女、黄瀬エミリが、頬を赤らめ笑顔で立っていた―――


「え、えっと・・・黄瀬さん―――おはよう・・・御座います・・・」


 御本人の登場だ


「ちょっとぉ―――何、他人行儀なぁ~アタイとタクミンの仲じゃん~♪」


「は、はい・・・バイト先の店長のお嬢さんと雇われ陰キャバイトって関係です・・・わきまえてます・・・」


「へ?――――ちょっタクミン?・・・・!?う、うそっ・・・やっぱ、あの時タクミンは・・・」


 黄瀬さんは何やらブツブツと口にし―――


「ご、ごめんねぇ―――タクミン、わ、私、先に教室に行ってるねぇ―――ア、アハハ・・・」


 バツが悪そうに苦笑いしながら黄瀬さんは正面階段を駆け上がって行った


「なんだろ?・・・でも下手に絡むとまたバイト先でイジられるし・・・そっとしておこう」


 苦手な女3人中の2人に朝から出くわし、既に俺のHPは1ケタだ・・・


 俺はひと目を避けるように廊下の隅っこを歩きながら、2年A組の教室へと向かった


 極力音を立てないようにドアを開け・・・背中からそっと・・・静かに中に入る


「ヒッ!?」


 振り返るとそこには、丸刈りの頭が3つ・・・


「漆黒の3連星!御前に!」


「ちょっ!?」


 突然クラスの野球部トリオ


 打田翔《うちだかける》君と、外山早馬《そとやまそうま》君、玉井球児《たまいきゅうじ》君が、突然目の前で跪くと何やら口を揃えて叫んでいた


 パシッパシッパシッ!


 そんな、丸刈りの頭を平手で叩く女・・・


「朝から馬鹿な事をしないで下さい」


 落ち着いた雰囲気と、長いストレートの黒髪・・・切れ長の大きな黒い瞳

 帝理高校が誇る大和撫子


 黒峰麗華《くろみねれいか》・・・大企業である黒峰グループの社長令嬢にして、このクラスの委員長


 何より俺の幼馴染だった女・・・

 小学校までは


 家が近所とかそう言うのではなく

 本当に幼稚園、小学校、中学校、高校と同じ進路を進み

 何の因果か全て、同じクラスになるというオマケ付き・・・


『貴方・・・私と幼馴染とか、絶対に中学校でふれ回らないで下さいね、気持ち悪いから』


 小学校までは、これでも一緒に遊ぶ事がある位の関係値だったのだが、中学に上がる前にそう告げられ、それ以降「麗華」「巧君」呼びは封印し、

「黒峰さん」「・・・・」そういや、俺ってなんて呼ばれてた?


 と、そのくらい口を利いて無いわけだ


 そんな黒峰さんと、野球部3人衆の横を肩を丸め小さくなりながら通り抜ける―――


「おはようございます、巧君」


 背後から黒峰さんに挨拶された・・・何で名前呼び?


「お、おは・・・よう・・・黒峰さん・・」


 振り返るのが怖くなり背中越しにそう絞り出すと、逃げる様に自分の席につき机に伏せた


 ―――おかしい・・・


 このクラスはおかしい・・・


 昨日まで1年の時に出来た派閥ごとにバラバラだったクラスの連中が、皆あちこちで楽しそうに談笑している・・・


 それに・・・お互い仲が悪かったはずの水原、黄瀬、黒峰3人の苦手女が一ヶ所に固まり、俺の方をジッと見つめて何やら小声で相談している


(あぁ分かった!これはきっとドッキリなんだ!あの嫌な女3人が主体になってクラスの連中と一緒に、俺ら陰キャオタク派閥に嫌がらせする、盛大なドッキリなんだ!)


 そう考えれば、今朝の事も含め全て腑に落ちる


(まぁそれなら期待に応えて、このクサイ演出に乗ってあげないと・・・後から、さらに酷い嫌がらせされちゃうからな)


 ―――俺は、一人小さく気配を殺し我が同志たる陰キャ派閥の残り2人の早めの登校を切に願うのだった・・





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