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第五話 結界を数えよう

 不慣れだった仕事も、一週間ほどでこなせるようになる。

 とは言っても、掃き掃除と洗濯ばかりの毎日だ。

 やがて一人の時間を持て余してきた。


(暇だ)


 掃除ついでにうろつくか。

 全体の把握も、今のうちにしておきたい。


 本殿、陽の殿、月殿そして奥殿。

 木々に埋もれるように、広大な敷地が広がっている。


 屋敷の敷地を歩きながら辺りを見渡すと、結界がそこかしこと目につく。


 一、二、三…

 ここだけでも四つ。

(やけに多いな)


 まあ、多いに越したことはないか。


 しかし、この結界。

 張ったのは絶対白雨だろ。

 結界の張り方にはそのまま性格が出る。


(…性格が悪そうだ)


 こういう結界は、白雨以外には張れない。

 絶対だ。


 そんな事を考えていると、ちらっと奥が瞬いた気がした。

 木々の間に何かが潜んでいる気配がする。

 集中してじっと目を凝らす。


 細い糸?

 それは空気を裂くように、ちらりちらと光を反射する。

 目を凝らしても全体を見ることはできない。

 幾重にも重なり、まるで蜘蛛の巣だ。


(…なんだ、これは)


 目を細め、張られた結界を辿る。


「これで…五か?」

 そう呟いた時だった。


「さっそくサボりか」

 後ろを振り向くと、真後ろに白雨が立っていた。


(ちっ)

 気づかなかった。

 まるで気配がなかった。


「申し訳ありません。少し考えごとを」

「ぼんやりできるほど慣れてきたか。いい身分だな」

 白雨は軽い嫌味を放ち、五つ目の結界の方へと視線を投げる。


 ふと、小夏が騒いでいたのを思い出す。

 月のような、人とは思えない美しさなんです。

 そう言って頬を染めていたっけ。


 ふーん。

 …月ね。

 確かに整いすぎてはいる。人とは思えないっていうのはその通りだな。


 それにしても…

 白雨と話すと決まって腹が妙な動きをする。

 避けるような、引っ込むような。

 まるで、白雨を嫌がってるみたいだ。


「ーーと言ったのか?」

 遠くを見つめたまま、独り言のようにぼそりと白雨が呟く。


「何とおっしゃいましたか?」

「いや、いい」

「奥殿とその裏は禁足地だ。お前が近づくことは許されない。心に留めておけ」


 こんな所まで、ご丁寧に釘を刺しに来るなんて。

 暇なのか警戒なのか。


「しかと心に留めておきます」

 恭しいほどに頭を下げる。


「さぼらず励めよ」

 白雨はまるで気にするでもなく、そう言い残し、去って行く。


 白雨の足音が遠ざかるにつれ、騒めいていた腹の蠢きがおさまってくる。


 軽くさすると、腹がきゅうと鳴いた。

 いつもの反応ではない。

(わかるよ。お前もだろ)


 とはいえ、禁足地と言われれば気になる。


 奥殿と禁足地か。

 籠神にもあったな。

 幼い頃に忍び込み、母にこっぴどく叱られた。


 母の声が微かに蘇り、胸の奥が騒つく。


 あの場所なら…

 古神にもあるかも知れない。

 視線が自然と奥殿へと向かう。


(行く理由しかない)


 当主は国主からの用向きでしばらく不在。

 使用人はあの辺りには近づかない。

 白雨さえいなければ…


 さて、どうするか。


 屋敷に戻ると、入り口には夕立が待ち構えていた。


「何してるんだい!外を掃くだけで日が暮れちまうよ。坊ちゃんの夕餉をお部屋に持ってておくれ」

 夕餉の膳を強制的に渡される。


「夕立さん、まだ四つですよ。いくら何でも夕餉は…」

「坊ちゃんはこれから友人の所へ行くんだよ。先に食べてもらわないと困るだろ」

「今日、白雨様はお出掛けで?」

「だから、そう言ってるだろ。ほら、早く!」


 膳を持ち、白雨の部屋がある月殿へと向かう。


 白雨が出掛ける。

 まさに渡りに船だ。


 この屋敷に、母の影が残っているはずだ。

 腹の正体も、あの日の答えも。

 ――行く理由なら十分だ。


(決行は、今夜)


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