綿毛竜《コットンドラゴン》、ユキノ君の旅立ち
王都にある、若き少年子爵ルシウスの小さな赤レンガのおうちの裏庭にて。
真っ白ふわふわ羽毛の体躯に、魔法樹脂の大きくて透明な翼を持つ、ガーネットの瞳の綿毛竜のユキノ君。
そんな彼と遊ぶのは、聖剣の魔法剣士ルシウス君に、まだ幼い甥っ子のヨシュア、その親友の王弟カズンだ。
ユキノ君は建物の裏庭にお友達を集めて語りかけた。
休日の午後、ルシウスの美味しいごはんを堪能した後のことだ。
「ピューイ!」(今日はみなさんに大事なおはなしがあります!)
「「「はーい!」」」
全員良い子のお返事だ。
子供たちの護衛もノリ良く、返事こそしなかったが腕を上げて応えていた。
「ピュイッピュ!」(ぼくはひとり立ちのため、およめさんを探しにいきます!)
「「「およめさん!??」」」
ルシウスはついに来たかと思ったが、ちみっ子ふたりは大きな目をぱちぱちと瞬かせてビックリしている。
「ピューアッ」(竜種は伴侶とこどもを持ってこそいちにんまえ……行くよ、ぼくは!)
宣言して天空に挑むように大空を見つめるユキノ君。もういっぱしの漢の顔つきである。
「ユキノくん、いっちゃやだー!」
「もっともふもふしたいですー!」
カズンとヨシュアはまだ小さな手足で必死にユキノ君のふわふわ羽毛に抱きついた。
このもふもふがいなくなってしまうなんて悲しい。
「……お嫁さんと一緒に、ちゃんと帰ってきてくれるよね?」
「ピュア!(もちろんだよルシウスくん! 親友の君にこそ待っててほしい!)」
その後は三人で思う存分に白いもふもふの羽毛をもふり倒して名残を惜しみまくった後。
透明な翼を広げて大空を飛んでいくユキノ君を涙ぐみながら見送ったのだった。
「もっとユキノくんとおそら、とびたかったね」
「はい、カズンさま。おそらをビューンってとぶの、とてもたのしかったです」
ユキノ君からもらった大きなふわふわの羽根を持って揺らしながら、カズンとヨシュアがおしゃべりしている。
「さすがに人間じゃ空は飛べないもんね」
この三人はとても魔力が高いのだが、壁走りはできても空を飛ぶためのスキルが生えるほどではなかった。
ユキノ君は、身体はすっかり大人のルシウス一人と、まだまだ小さな幼児のカズンとヨシュア二人を乗せても余裕なぐらい大きなドラゴンに育ったので、背中に乗ったときの安定度は抜群だった。
本格的に成竜になったなら、三人を乗せて円環大陸をぐるり一周、空の旅も可能だそうで。
「きっとすぐ、可愛いお嫁さんを連れて戻ってくるよ。ユキノ君はいい雄だからね」
さあ、風も出てきたことだし建物に戻ろう。
ルシウスはひょいっと甥っ子と王弟殿下の小さく柔らかい身体をまとめて抱き上げた。
間もなく二十歳になるルシウスは、この頃には成長期をほとんど終えていて、背も高く体格も良かった。幼児ふたりを抱えるのもお手のものだ。
きゃあきゃあ、と騒ぐ声は愛らしくも耳に心地よい。
「今日のおやつは何がいいかな~?」
「「プリンー!」」
「ミルクプリンと、卵たっぷりの、どっちがいい?」
「「たまごの!」」
かためで! とヨシュアがちゃっかり補足した。しっかり蒸し上げた味の濃いタイプが好きなのだ。
カズンは美味しければ細かいことにはこだわらないからヨシュアの主張にもニコニコ笑っている。
「じゃあカレイド王国風の固めプリン、作ろうか」
「「おてつだいするー!」」
「ふふ……」
カラメルもしっかり作って、仕上げにはホイップした生クリームも絞ってあげよう。
缶詰のフルーツを添えるのも美味しそうだ。
自分用にはこの間、王女様から横流しされたタイアド王国産の紅茶を。
子供たちにはそれぞれのお好みフレーバーのハーブティーを入れて。
ルシウスの人生は常に今が充実している。
ずっとこんな毎日が続いたらいいなと思いながら、麗しの顔に笑みを浮かべて、子爵邸の赤レンガの建物に入っていくのだった。
そしてルシウス君たちの物語は続いていくのであった。