第九話 友人という名の神
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1.公園
「はあ、はあ、はあ……」
あの子のことを忘れるのが嫌で、必死に走っていたら、いつの間にか蒼穹公園という、いつもあの子と遊んでいた公園のベンチに座っていた。
「どうして……どうして、あの子の名前が、思い出せないの……」
あの子の名前を思い出そうと必死になる。けれど、どれだけ頭を使おうが、悩もうが、全く思い出せない。
あの子の名前が……そういえば、顔は? あの子の顔は……思い……出せ、ない……っ!
「いや……ダメ、忘れちゃダメ……っ! 思い出せ、私っ!!」
あの子の名前が思い出せないだけではなく、もはや顔も思い出せなくなっていた。そのことが、更に私を焦らせていく。
必死になって思い出そうとするたびに、彼女との記憶が薄れていく。それを思い出そうとして、更に忘れる。私はそういう悪循環に陥っていた。けれど、その時の私はその悪循環に気付くことができずに、ただあの子との記憶を忘れていくだけだった。
「いや……いやっ……いやぁぁぁぁあっ!!」
もはや半狂乱状態になっている。あの子のことがほぼ思い出せない。思い出せるのは、もはやあの子がいて、大切な友達だったという事だけだった。
「ニファー!? どうしたの!?」
たまたま通りかかった少女が私の醜態に気付いて駆け寄ってくる。
「ぁ……真木」
少女の名前は中森真木。私の幼馴染で、クラスは違うけど同じ学校に通っている同級生だ。小柄で童顔、そしてつるぺったんと、ロリコンに好かれる体の持ち主である。私としては貧乳は羨ましいのである。だって邪魔だし、じろじろ見られるし……
「どうしたの? ニファーが取り乱すなんて、何があったの?」
「真木ぃぃ……」
真木は、周りに気を配ることができる天然さんで、学校での人気も高い。そんな子が自分の幼馴染だなんて、なんか恐れ多いなと思うと同時に、誇らしかった。
「私……あの子のことが、思い出せなくなったの……」
「あの子って……どの子?」
真木は不思議そうに首を傾げて私を見た。その瞬間、私は最悪な予感がしてしまった。
「まさか……真木も覚えてない? 永木と桜じゃない子」
「そんな子いたっけ?」
「あ……あは……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……ゲホッ、ゴホッ」
私の中で、何かが弾けた。悲しみと空虚が私を支配して、笑いを起こさせた。そして、最後に吐血した。
「だ、大丈夫!?」
真木が心配してくれている。そのことが、私の悲しみと空虚を少しだけ抑えてくれた。やはり天性の癒しは凄い。
「あ、あは、う、うん、あはは、ダメ、わはし、おかしく……」
「大丈夫、大丈夫だから……っ。ね……?」
優しく、真木が抱いてくれた。彼女の感触が、暖かさが、鼓動が、優しさが、私の心を癒していく。
「う、う、ん」
すっかり、笑い狂うことは無くなった。もう今は、わずかな虚脱感しか残っていなかった。
「ありがとう、真木……いや、真木様」
「あはは、そうやってふざけれるなら大丈夫だね。一緒に学校までいこっか?」
真木ははにかんで、一緒に行こうと誘ってくれた。あのような醜態を見せたというのに、嫌な顔一つしないで。私にとっては、もう真木が神様みたいに見えた。決してふざけたわけじゃなかったのだけど……まあ、いいかな。友達が神様なんて、どこの漫画だって話だしね。
「うん……ありがとう、真木。……大好き」
そういうと、真木は困ったようにはにかむのだった。
◇ ◇ ◇
「あ、永木君! おはよ~!」
「ん、ああ、真木か。おはよう」
学校に着くと、昇降口の所で永木――緒方永木と鉢合わせした。彼は私の幼馴染で、今は滅多に遊ばないが、小学校時代はよく遊んでいた。顔はこれと言って特徴が無く、可もなく不可もない。身長は私よりも少し高いくらい。私に気付くと、ちょっとびっくりした反応をした。
「お、ニファーと真木というのは珍しいな。……って、ニファー、目が赤いぞ。どうしたんだ?」
相変わらず目敏い。私の目元が赤いことにすぐに気付いた。
「うん……。友達のことが、思い出せなくなっちゃって……」
「友達……?」
やはり、永木も忘れてしまっているのか。もう気にしないようにしようとしているとはいえ、改めてその事実を突きつけられるというのは、辛い。
「そう……。私と桜と真木と永木じゃない子」
それを聞いて、永木はなぜか納得したという顔をした。
「ああ、ミュウのことか?」
「えっ……? 覚え、てるの……?」
「ああ。と言うか、なんで忘れてるんだ? 急にいなくなったもんだから、忘れ様が無いと思うんだがな」
永木は不思議そうな顔で、そう言った。
「……分からない。思い出そうとすればするほど、思い出せなくなっていって……」
「それ、忘却魔法か何かじゃないのか? だとしたら、納得がいくんだが」
そうかもしれない。言われてみれば、忘却の過程がおかしかった。もし普通に忘れるのなら、何故、思い出そうとすれば忘れるのか。確かに、忘却魔法を使われているのなら納得できる。
「でも、誰がそんなことを……」
そう。それが分からないのだ。
「多分ミュウ本人だろうな。それ以外はちょっと想像できない」
永木がそう言い切った。最後にあった段階で、ミュウの魔法適性はまだ分かっていなかった。ならば、忘却魔法を使えてもおかしくない。
「それ以外だと……CIAとか?」
真木がありえないと自分でも思っていることを口に出した。
「いや、案外政府が絡んでいるかもしれない。例えばの話だが、政府がニファーの力を欲しがっているとしたら、ミュウを誘拐するというのはかなり有効な手だ。まあ、そうと決まったわけではないんだけどな」
永木が推測を述べる。あながち間違いとも言い切れないが、イマイチ信憑性に欠ける推測ではあった。
「とりあえず、中に入ろっか。もうすぐHR始まっちゃうよ?」
真木が少し急かしつつそう言った。スマホで時間を確認すると、確かに開始2分前だった。私たちは話を切り上げ、急いで各々の教室へと向かうのだった。
どうも、四季冬潤とかいう者です。
ニファーさんが発狂しました。序盤なのに。それだけ、ミュウのことが大切だったんですね。
それにしても、なぜ永木には忘却魔法が効いていなかったのでしょうか?
まあ、それはおいおい判る……かもしれません。
次回は10月5日前後の投稿になると思います。割と多忙。




