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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第一章
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06:迷宮ギルドとギルド証と、調べ物と

 テンカも無事宿屋に辿り着き、俺の隣の部屋へ宿泊が決まった。

 夕食を食べた後、宿屋の風呂にも入ってから俺の部屋で今日のことを報告し合う事にした。


「と言ってもこっちはほとんど話すようなことが無いんだけどね。迷宮ギルドで迷宮探索許可を貰って、治療院をチラッとだけ見て、迷宮門の中の雰囲気を確認しに行ったぐらい。迷宮の地図を買ったよ」


 買った20階層分の迷宮地図を床におく。時と縁の迷宮は広大なので、その量もかなり多い。


「へぇ、地図ってこんな感じなのか」


 テンカは一階層の地図を手にとって眺めている。俺は昔から見慣れたものだけど、初めて見るとどんな印象を抱くんだろうな。


「なにかわかりにくいとこある?」

「大丈夫。文字も読めるみたいだし、解りやすいねこれ」


 楽しそうに地図を見ている姿に、少し懐かしい気持ちになった。両親が昔使っていた地図を見せてもらったときは、俺もこんな表情をしていたのだろうか。

 俺も地図を手に取り、おかしなところなど無いかを見ていく。迷宮ギルドが売っているものだけあり、これまで利用していた地図と形式も同じで困ることはなさそうだ。


「テンカは迷宮ギルドで何も問題なかった?」

「ああ。ギルド員の人達が親切で色々教えてもらえたよ。とりあえず最初の目標が決まった」

「へぇ。どんなの?」

「迷宮ギルド証を手に入れて、大図書館の閲覧許可をもらえるまでの実績を積む」

「ほうほう。いいね」


 大図書館は迷宮ギルド本部に隣接している。各国にある迷宮ギルド内の資料館の巨大版だな。世界中の出版物から迷宮から発掘された資料まで幅広く、というか際限なく収集している場所でもある。確かに常識が欠如しているテンカにはもってこいの場所かもしれない。貴重な物も多いため利用するには色々と制限がある。俺の実績でも閲覧できる箇所はごく一部だろう。


「ギルド証の方は、今のところ探索局の採集部か調査部で取ろうと思うんだ。たぶんそれが一番コレに合ってる気がする」


 そう言って左目を指差す。

 なるほど、鑑定の力か。確かに魔物討伐よりはよっぽど向いているだろう。


「でもその力、使っても大丈夫?」

「無理しない範囲で早く慣れといた方が良いかなって。なんとなく、どれぐらいなら大丈夫かは判るみたい」

「そっか。絶対無理しちゃダメだよ」

「ああ。勿論」


 迷宮から発掘されるものの中には未知のアイテムも多くある。迷宮ギルドの研究所では数多くのアイテムが調査研究中なのだが、いかんせん研究者の数が絶対的に足りない。探索者や調査員などの迷宮に潜ることを望むものは多いのだが、それらと違って研究には成果が出にくいという部分もあるのだろう、なかなか志すものが居ないのだ。

 そんなところに鑑定能力を備えたテンカが現れるとどうなるか。


「鑑定はなるべく秘密にしたほうが良いよ」

「大丈夫。人の居ないところでこそっと使って、大まかな情報を推測として記したメモと一緒に提出するさ。方向性があったほうが研究しやすいだろうし」

「なんか、すぐにばれそうだけど」

「ギルドへの提出はそんな頻繁にはしないさ。ほとんど自分のためだけに使うつもりだから」

「うーん。わかった」


 信じよう。無謀ではなさそうだし。


「あとは迷宮ギルド内にある資料室はオレでも利用していいって言われたから、手当たり次第に調べ物をしてたよ」


 資料室は迷宮ギルド員でなくとも利用できたのか。あまり意識したことは無かったけど、そういえばごく普通の子供が居たこともあったっけ。探索者になり始めた頃は俺もよく世話になった。


「でさ、ちょっと気になることがあったんだけど。ロウはここの迷宮を探索するんだよね?」

「そうだよ」

「うん。それでここの迷宮のことも調べてみたんだけど。ロウは『邂逅のカード』って知ってる?」

「伝説のアイテムだね。あの転生王も手に入れていたって言う」


 邂逅のカード。物語にも歴史上にも名を残す実在するとされる伝説のアイテム。ここ『時と縁の迷宮』でのみ発見され、手に入れた者は運命の者と出会いその後に大成すると言われている。

 将来が約束された証と言われており、この中立地帯である再生都市レクラースに居てすら各国の引き抜き合戦に巻き込まれる恐れがあるため、迷宮ギルド的には所有者には秘匿することを推奨している。


「なにか気になることでもあった?」

「カードについてちょっと調べてみたんだけど、出会う対象はほぼ必ず異性で、時空すら超えるって」

「その辺りはちょっと創作じみてるけどね。誰かと出会えるぐらいは本当にあるみたい」

「出会う場所の情報が無かったんだよね。見つかったのは全て『運命の人と出会い、その後大成する』のみだ。つまり」

「……つまり?」


 ごくり。


「誰かの『邂逅のカード』の影響で、オレはここに居るんじゃないか? という推測が出来る」

「……おお。おお? なるほど?」


 テンカはじっとこっちを見る。


「持ってない? 邂逅のカード」

「持ってないよ! と言うかまだここの迷宮に潜ってすらないよ!」

「ですよね」


 もしそうだったら俺はこれから大成する。なるほどそれはとても嬉しい事だが、残念ながら俺はそのようなアイテムを手にしたことは無いのだ。


「オレの現状の手がかりだったんだけど違ったか。謎は深まるなぁ」


 はははと笑うテンカ。どうやら期待はしていなかったように思える。


「もしそれっぽいものを見つけたらテンカに鑑定をお願いするよ」

「おう、それは任せてくれ」


 まぁ俺の求めるものは『邂逅のカード』ではなく魔力量上昇の手がかりだ。ああ! 迷宮探索楽しみだなぁ!


「じゃあ明日は迷宮ギルド証をとりに?」

「採集部の方は指定された物を用意してくるだけで仮のギルド証が貰えるらしいんだ。それを使って迷宮に入り、浅い部分で依頼を数件こなせたら正式なギルド証にしてもらえるみたい。ただここの迷宮の場合、俺一人だと入る資格が無いんだよね。探索局のギルドで調査員を募集しているところがあるらしいから、それを利用しようと思ってるんだけど」

「なるほど。出だしはそれで悪くないんじゃないかな」


 ここ時と縁の迷宮に入るためには迷宮ギルド員としての一定の実績がいる。探索者パーティーの代表が条件を満たしていれば、あとは年齢制限に引っかからない限りは入場できる。俺が一緒に行ければ良いんだけど、今日の事もありあまり最初から目をつけられるような行動は慎むべきだろう。ここの宿屋のように利用客が限られている場所でこっそり会うのは問題ないだろうけど、迷宮門となれば多くの魔族の目に触れる。無闇にテンカを巻き込むことは避けたい。


「よかった。じゃあその方向で動いてみるよ。ロウはさっそく迷宮かい?」

「朝少し用事を済ましたらそうするつもり。まずは様子見で一階層を巡ってみるよ」

「了解。じゃあまた明日の夜かな?」

「そうしよう。迷宮の一階層ならほとんど危険はないはずだし、まぁもし明日のこの時間になっても俺が戻ってきてなかったら、そうだな、一晩経っても戻ってこなかったら迷宮ギルドの魔物討伐局に連絡頼めるかな?」

「わかった。それぐらいならお安いご用だ」


 迷宮ギルドへは明日の朝に俺も行く。そこで一言迷宮へ潜ると告げておくか。

 そうしてその日は解散した。




「これを、ですか?」


 朝、迷宮ギルドの魔物討伐局へと顔を出した俺は、昨日と同じ受付の人へ手紙を渡して要件を済ませておく。


「一応ね。ここの迷宮の特性は聞いているから、万が一の時の保険みたいなものです」

「承知しました。お預かりしておきます。万が一の事態に陥らないよう、十分お気をつけください」

「うん。あと今日早速迷宮に潜ってみるんですけど、何かあったら明日の朝に知り合いがここに連絡してくれることになってるので、その時はその者に俺の預けているお金の一時利用許可を与えてください」

「よろしいのですか?」

「はい。お願いします」

「承知しました。その者のお名前をお教えいただけますか?」

「クロウズ・テンカという男です」

「記録しておきます」

「お手数おかけします」


 迷宮ギルドを後にすると、今度は朝市へと向かう。いくつかの場所で行われているが、俺が行くのは迷宮門前の広場だ。


「これ、誰が作成したものですか?」

「これは私たちが一から作成したものだよ。公式には無い素材情報だってあるんだから」


 迷宮門前で朝市を開いているものはほとんどが迷宮探索者だ。前日に手に入れたものなどを迷宮ギルドに卸さず直接客と売買する。売り手が自由に値段を設定できるのもあるが、迷宮ギルドが買い取ってくれない物を売るためという側面が強い。

 迷宮ギルドの地図は確定情報しか書かれていないが、こういう場所で売られる地図には探索者独自の主観や体験による情報が多く書き込まれている。数少ない事例や再現されていない事など、それらを全部書くと膨大すぎて地図に収まりきらないからだ。今目の前にいる目を細めている出品者は獣人の女の子、おそらく鳥人族の子だ。フクロウ系かな?


「じゃあこれを三階層分まで貰える?」

「ありがと! 三つで200オーブだよ」


 浅い階層の割には割高に感じるが、独自の情報はそれだけの価値を見出した者が買えば良いだけだ。俺は銅貨を10枚渡し地図を受け取ると、今度は素材買取をやっている倉庫へと足を伸ばした。

 倉庫内で目的の者達が居ないか探す。あ、居た。


「暇つぶしに面白情報はいかがー? 色々あるよー。一枚100オーブだよー」

「一階層の面白い話をまとめたのってあるかい?」

「あるある。いっぱいあるよー。どういう系が良い? 地味に役立つ系? 怖い系? それともやっぱり一攫千金系?」


 今話しかけているのは、素材の鑑定待ちをしている者たちに向けて色んなネタを販売している者たちだ。ここを利用するのは迷宮探索者だけだから、ここで販売している者は主に迷宮関連の情報を扱っている。


「初めて行くつもりだから、未確定の危険情報とかまとめてあるのはあるかな?」

「あー。一階層だからねー。あまり情報量は無いけど一応あるよ。それでいい?」

「ああ。それをお願い」

「はいなー。ありがとう。一枚で100オーブね」


 銅貨を5枚渡して受け取ると、情報屋はふと思い出したように言う。


「そういや最近一階層の情報がおかしいんだよね。浅くてあまり巡回者がいないから頻度はそうでもないんだけど、数百年変化が無かったはずの地形に誤差が出てるとかなんとか」

「へぇ、調査団はでてるの?」

「何も被害が無いし報告件数も少ないからね。さすがにでてないよ。報告者の勘違いだろって言われてるけど、情報屋としちゃ一応ね」

「そっか。ありがとう」


 銅貨を適当に掴んで渡す。


「へへ。また宜しくね」


 情報屋は先程渡してくれた紙に追加でいくつか書き込みを入れると、手を振って去って行った。




「さて。迷宮に入るか」


 手に入れた情報をじっくりみてそれぞれを比較し地形自体には違いが無いことを確認すると、最初に買った迷宮ギルドの地図に追記し終えてから、早速迷宮門へと入った。

 迷宮門の中には昨日以上に探索者の姿が見える。やはり朝が一番混むな。

 俺はまっすぐ地下道へと行き、そのまま迷宮入り口まで辿り着く。

(じゃあ最初は獣人の子の情報でも確認しに行ってみるかな)

 特に気負うことも無く迷宮の中へと入る。迷宮独特の空気を嗅ぐと、自然と気が引き締まった。


 迷宮の作り自体はこれまで潜っていたウルグスの迷宮とそう変わりはない。ただ実際潜って理解したのは、広さが比べ物にならないという事だ。ウルグスの一階層の10倍の広さはあるんじゃないか? なるほどこれは先が思いやられる。だが先がある限り願いは途切れないのだ。そう考えれば迷宮の広さは可能性の広さと同義とも言える。決して悪いことではないはずだ。


 情報の確認は何事も無く済んでいく。確かに迷宮ギルドの地図だけでは分からなかった素材情報など役に立つ。日銭を稼ぐために少量を回収しつつ先へと進む。次の階層への階段は入り口から全体の三分の一程進んだ場所にあったが、今日の目的は一階層の探索だ。降りずにそのまま探索を続ける。

 しかしこの広さだとさすがに一日で確認できるものじゃない。まずは真っ直ぐ最奥だろう辺りまで進み、時間次第であとは帰還だな。魔物退治は出来るだけ帰り道で行おう。


 そうして最奥へ進んだ俺を待ち受けていたのが、冒頭のあれである。

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